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マクスヴェルト

「これはどういう事だ……」


 天界から戻ったリヴェリアは城門から中央を見渡して愕然としていた。

 留守を頼んだ筈のマクスヴェルトとカレンの魔力は感じられない。代わりに中央の至る所に魔物の気配を感じる。


(Cランクにも満たない様な魔物ばかりの様だな。しかし……)


 脅威と言う程の力を持った個体はいないようだが、一般の人々にとってはそうでは無い。

 高ランクの冒険者の数がいくら多くても中央全てとなると難しい。故に魔物が発生しない様に注意して来た。


『我が王。如何なさいますか?』


「どうもこうも無い。直ちに殲滅する!」


『索敵を開始します。聖剣デュランダルの獲得により、魔力による超広範囲攻撃が可能です。一撃の威力は劣りますが問題無いと思われます。使用しますか?』


「無論だ!被害が出る前に終わらせるぞ!」


 リヴェリアがレーヴァテインを天高く掲げて金色の魔力を開放しようとした時、目の前の空間が歪み見覚えのある人物が姿を現した。


「おっ、とととと……ふう。良し、此処からなら一網打尽に出来るぞ。早くしないとリヴェリアが帰って来ちゃうよ……」


 何処からか転移して来たマクスヴェルトは背後にいるリヴェリアに気付いていない。


 大規模魔法を発動させようとしたマクスヴェルトは、とあるモノを感知して顔を引き攣らせた。

 索敵の為に拡大させた探知魔法。その魔法が感知したのはとてつもなく強大な魔力を持った存在。それも自分の真後ろに……。


「随分と忙しそうだなマクスヴェルト。そんなに慌てて一体どうした?」


「げっ⁉︎ リヴェリア⁉︎ え、あ……いや、これは……こ、コレには訳があるんだって!…って、リヴェリア……その姿……もしかして……」


 マクスヴェルトは剣を掲げるリヴェリアを前にして混乱していた。

 鎧を纏ってもいないというのに内に秘めた魔力はこれまでよりも強大になっている。おまけに大人の姿では赤く染まっていた髪も美しい金色へと変化していた。全てを見通すとも言われる金色の目に白い翼。マクスヴェルトがよく知る昔のリヴェリアがそこにいた。

 どうやら昔の記憶が完全に戻っているらしい。


「話は後でじっくりと聞いてやる。レーヴァテイン、やれ」


 中央に拡がった金色の魔力は街に潜む全ての魔物を一体残らず浄化していった。

 レイヴンの広範囲攻撃の様な派手さは無い。ただ静かに拡がった光が魔物発生の原因となる瘴気を浄化している。


「うはぁ……久し振りに見たよ。相変わらず凄いね。いや、前以上か……」


「ふん。弱い個体しかいなかったから通用しただけだ。それよりマクスヴェルト。聞かせてもらおうか。私が留守にしていた間、何をしていたかをな」


「え……やっぱり話さなきゃ駄目?」




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 冒険者組合に戻るまでの道中、リヴェリアを待ち受けていたのは平伏した冒険者と市民達だった。

 何をした訳でも無い。ただマクスヴェルトの襟首を捕まえて歩いているだけであったのだが、リヴェリアが通ると誰もが首を垂れた。


「そのやたらと主張してる気配どうにかならないの?僕達っていうか、主に僕が完全に見せ物になってるんだけど……」


 竜王の纏う王の気配。

 民達は国も無い中央大陸で一体誰が本当の主なのか本能で察知しているのだ。リヴェリアがわざとやっているのでは無い事くらい分かっている。それが竜人の持つ力の一端である事もだ。

 レイヴンの為に作った偽りの国。そこに住む者達の跪く様はあまりに異様だった。


「我慢しろ。記憶が戻ったは良いが、まだ昔の感覚が完全には戻っていない。暫くすれば治まる」


「はあ……。じゃあ、もう良いや」


 マクスヴェルトは指を鳴らして転移魔法を発動させた。




 冒険者組合に戻った二人はリヴェリアの部屋でいつものように向かい合っていた。

 部屋の隅ではユキノ達が緊張して直立不動のままジッとしている。


「……やめないか。ユキノ達にまでそんな態度を取られては肩が凝る。私は私だ。いつも通りで良い」


「し、しかし……」


 いつもズボらでお菓子ばかり食べているリヴェリアとは気配が違い過ぎる。特に金色の目は視線を合わせただけで心の中まで見透かされた様な気がして落ち着かない。


「子供の姿に戻れればマシかもしれんのだが……」


『戻しますか?』


「出来るのか⁈ 何故もっと早く言わない⁉︎ 」


『我が王。それは愚問というものです。王が王の気配を纏っているのは自然な事です。それに……』


「それに、何だ?」


『子供の姿では威厳がありません。我が王も子供の姿でいる事を嫌がっていたではありませんか』


「なっ……」


 部屋に間の抜けた空気が流れた。


 全く持ってレーヴァテインの言う通りだ。これにはやり取りを聞いていたユキノやマクスヴェルトも笑い出してしまった。


「あはははははは!レーヴァテイン面白過ぎ!君ってそんな風にも喋れたんだね」


「た、確かにお嬢は子供扱いされると怒っていましたね。ふふふ……」


「う、煩い!今は仕方なく戻るのだっ!」



 子供の姿に戻ったリヴェリアは人払いをした後、マクスヴェルトから留守中に起こった出来事の説明を受けていた。


 最初はレイヴンが救援を要請する程の事態など信じられなかった。カレンとランスロットが救援に向かったのなら問題無いと思われるが、説明を受けた中でどうしても一つだけ府に落ちない事がある。

 カレンであれば大規模戦闘において魔物に遅れをとる様な事は無いだろう。仮にルナが戦闘不可能な状態になっていたとしても、レイヴンの戦闘を代わりに補助する事も出来る。


 では、ミーシャが救援に来た時、どうしてマクスヴェルト自身が向かわなかったのか?

 マクスヴェルトであればあらゆる事態に対応出来る。そんな事はカレンも分かり切っていた筈だ。


「……とまあ、こういう事情があったんだ」


「勝手な事を……お前達が中央を離れたせいで大惨事になるところだった」


「前にも何度か離れた事があったし、直ぐに戻れば大丈夫だと思ったんだけどね。迂闊だったよ、ごめん」


 やはりそうだ。マクスヴェルトは嘘を吐いている。

 中央大陸全土にかけられていた認識を歪める魔法が解けた時点で、中央を空ければこうなる事は分かっていた筈だ。

 記憶が戻った事で今まで不透明だった記憶の穴は埋まった。レイヴンを救う目的でリヴェリアが動き始めた当初、マクスヴェルトはいなかった。では一体それまで何処で何をしていた?


 リヴェリアはマクスヴェルトとの過去の記憶を探り、一つの結論を導き出した。

 酷く馬鹿馬鹿しい、非現実的な答え。理屈なんて分からないし、知りたくも無い。けれどもこれ以外には思い付かなかった。


「マクスヴェルト……お前は後どのくらいこの世界に居られる?……いや、こう聞いた方が良いか。お前はいつまで存在していられるのだ?」


 質問を受けたマクスヴェルトの動きが止まる。


 長い沈黙の後、マクスヴェルトは紅茶を一口飲んで頭を掻いた。


「参ったな。その聞き方をするって事は僕の正体に見当がついたって事だよね。記憶が戻ったからかな……」


「大事な事だ。誤魔化すな。で、どうなのだ?」


 マクスヴェルトはもう一口紅茶を飲んでリヴェリアの金色の目を見た。

 昔からリヴェリアには不思議な力があった。今でこそ、それが竜人の力だと分かっているけれど、当時は竜人である事を隠していた。


「リヴェリア……僕が昔、レイヴンと大喧嘩をしたのを覚えているかい?」


「ああ……」


「あれは僕という存在がこの世界に留まる為に必要な事だったんだ。レイヴンに僕の事を強く認識して貰う事が重要だったんだよ。本当は喧嘩なんかしたくなかったし、あんな酷い事言いたく無かったんだ」


「それは、願いを叶える力を無意識に使わせる為か?」


 リヴェリアの核心を突いた言葉にマクスヴェルトは目を見開いた。


「もうそこまで気付いたのか。流石は竜王、恐れいるよ。“私は私の後悔を受け入れられない” 少し前に君が言った言葉だ。…実はね、僕もなんだよ。僕は僕の後悔を受け入れられない。一度は受け入れようとしたけど出来なかったんだ」


「だから、愚かな選択をしたと?」


「言ったでしょう?僕みたいな人間は愚かなくらいで丁度良いのさ。おかげで僕は後悔を塗り替える機会を得た。まさかシェリルに合うとは思っても見なかったけどね。僕はーーー」


 マクスヴェルトが救援に行かなかった理由は分かった。

 とんでも無い話だ。四人で旅をしていた頃からずっと、マクスヴェルトはまだ産まれてもいなかったレイヴンの為に動いていた。しかも、それをずっと隠して生きて来たとは……。


「…いや、もう良い。カレンもその事を?」


「一応知ってる。再会した君は記憶を封印されていたからね。実は色々と相談してたんだ」


「そうだったのか……すまない。私がもっと早く気付けていれば……」


「良いって。気付かれない様にしてたんだから。それより、僕を恨んで無いのかい?」


 マクスヴェルトはシェリルを救う事が出来た唯一の人間だった。なのに、レイヴンの為にシェリルを救わなかった。動こうともしなかった。

 マクスヴェルトの正体に気付かずに今の話を聞いていたら、リヴェリアは怒り狂ってマクスヴェルトを殺していたかもしれない。


「恨みは、無い。あるのはいつだって後悔だけだ……」


「そっか……。そ、そう言えば、そろそろカレンが到着した頃だね」


「お前が行ければ話が早かったんだがな……」


「こればかりは仕方ないよ。なるべく会わない様にしてるから」


「そう、だったな……」


 二人はそれきり喋ろうとはしなかった。


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