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違和感

 レイヴンが纏うのは漆黒の鎧。背中に白と黒の翼を携えた姿は美しく、見る者から声を奪った。

 魔剣と鎧の事を知っているフローラでさえ、以前よりも格段に力の増したレイヴンを見て驚きを隠せない。同時にクレアとルナから聞かされたレイヴンと中央で起こっていた出来事について考えさせられていた。


 フローラから見て、レイヴンという存在はあまりにも異質で哀しい。それは魔物混じりである事以上に、世界の方がレイヴンを拒絶している様にも思えてならないからだ。

 クレアやルナ、ミーシャの様にレイヴンという個人を好いている者、理解しようとする者でさえ、心のどこかで大き過ぎる力に畏怖している事に気付いてしまった。

 逸脱した力は、ただそこに存在するだけで周囲に干渉してしまう。それは一種の呪いだ。レイヴンが望むと望まざるに関わらず、人間であろうとすればする程に、人間の領域から遠退いて行く。

 現に当のレイヴンは過去、中央大陸で自分が起こした災厄を知らない。騒いでいるのは周囲の人間ばかりだ。



 翼をはためかせたレイヴンは上空へ上がると魔剣の力を解き放った。


 ーーーードクンッ。


(…何だ、この感じ……)


 魔物の気配を感知した途端に違和感を覚えていた。


(魔力反応の弱い個体が多数……)


 広範囲に渡って魔物が押し寄せて来ている割には感知した魔物の数が少なく、強さもバラバラ。元々この辺りに魔物があまりいない事を差し引いても不自然だ。


(今はとにかく早く終わらせるのが先だ)


 不気味な鼓動と眩く空を照らす赤い光。

 雷の様な凶暴な魔力が大気を揺るがす轟音と共に全方位に向かって広がって行く。

 防御も回避も許さない無慈悲な雷が街中に雲の巣の様に走り魔物を貫き焼き尽くしていった。




 地上ではフローラ達がまたも驚愕に顔を歪めていた。


 結界越しに伝わる魔力の波動はあまりにも強大過ぎる。エレノアを圧倒してみせた力でさえ、まるで本気では無かったのだと思い知らされた。


「化け物か……」


 誰の呟きだったのか。周りにいた者達も同じ思いで赤い空を見上げていた。


 空を照らした赤い光が収まると、長老の部下が血相を変えて報告に来た。


「何じゃと⁈ 今の一撃でか⁈ 」


「はい。信じられ無い事ですが、今の攻撃で街を取り囲んでいた魔物は全て倒された様です。これ以上はまだ情報が……」


 全滅すら覚悟していたフローラと長老にとって、その報せは余りに衝撃的なものだった。


「いや、分かった。よく知らせてくれた。動ける者は魔鋼人形を使い、引き続き周囲の警戒をせよ。決して単独行動はさせるな」


「ハッ!」


 やり取りを聞いていた技術者達も街の警戒に加わると言って去って行った。

 残されたのはフローラ、小人族の長老、エレノア、博士の四人だけ。


「フローラ様、やはりあの者は……」


 フローラは上空で周囲を警戒しているレイヴンを静かに見つめていた。

 やはり異常だ。

 レイヴンの成長速度が早過ぎる。しかも、これだけの力を放って息切れ一つ起こしていない。

 かつて世界を破滅に導いた魔人を倒せる者が存在するのだろうか。剣聖リヴェリア?賢者マクスヴェルト?二人の力を直接見た訳では無いが、おそらく無理だ。それが可能であったなら世界は滅びはしなかった。


「ええ……期待以上だわ。本当に……」


 レイヴンの力があればエレノアを救う事が出来る。今でもその考えに変わりは無いし、後悔もしていない。けれども、中央大陸との国交を結ぶ理由は少し変わりそうだ。




 レイヴンはもう一度周囲を見渡して魔物が残っていない事を確認する。

 しかし、どこも魔物が居なくなった事に歓声を上げる人達の姿があるばかりで、魔物の気配は他に感じられ無い。


「くるっぽ!」


「さっすがレイヴンだね。あっという間に終わっちゃった」


「もう何て言うか、この光景に慣れて来た自分が怖いです……」


 ツバメちゃんに乗ったルナとミーシャの二人が合流して来た。

 レイヴンは自分よりも魔物の感知力の優れているルナであればと思い、魔物の殲滅が出来ているか聞いてみる事にした。


「ルナ、魔物の反応は今ので全部か?俺が考えていたより数が少ない気がするんだ。これで終わりだとはーーー」


「え?今ので全部だよ。数千は居たでしょ?」


「数千?しかし……」


 レイヴンが感じた違和感の正体。それはレイヴンが感知した魔物の気配と、手応えが一致しない事だ。

 確かに数千は居た。居た筈なのだ。しかし、実際に感じた手応えは精々数百程度しかない。


「いや、俺の勘違いならそれで良い。可能であればクレアの援護に行ってやってくれ。俺はエレノアを起こして来る」


 ルナが言うのなら間違い無い。けれどこれがトラヴィスの仕掛けた罠という可能性が僅かでもある以上、警戒はしておくべきだろう。


「待って……!何この反応…?これは……ヤバい!レイヴン、真下だよ!!!何かいる!」


(下だとっ⁉︎ )


 真下から感じる異常な魔力の高まり。

 クレアはユッカと戦闘を継続したまま変化は無い。


「レイヴンさん!エレノアさんが!!!」


 地面から這い出して来た魔物の触手が凄まじい速さでエレノアの体を侵食して行くのが見えた。


(本当の狙いはこっちか!)


 急降下したレイヴンはそのままの勢いで触手を薙ぎ払う。けれども、触手の侵食はそれを上回る速度でエレノアの体を蝕んでいく。


「フローラ!皆を下がらせろ!もう間に合わない、エレノアを魔物堕ちさせる!記憶の封印を解くんだ!」


「「「……ッ!!?」」」


 レイヴンはフローラの返答を待たずに魔核に魔力を流し込んだ。

 クレアの時と同じ要領だ。故意に魔物堕ちさせて魔鋼人形とエレノアの体を定着させる。

 これ以上人間の部分を失えばユッカを助けるどころでは無い。


(ぐっ……何度聞いても嫌な音だ)


 音が大きくなるにつれて激しい頭痛が襲って来た。


「ぐぅ…ぐああああああ!……あ、頭が!」


 意識を取り戻したエレノアは体を侵食されながら頭を抱えてのたうち回る。


 青ざめ悲痛な顔で見ていた博士も流石に気付いた様だ。

 魔核を使った共鳴。それに反応するのは魔物と魔物混じりだけ。魔鋼人形である筈のエレノアが反応したという事が受け入れられないのだろう。


「フローラ!何をしている⁈ エレノアにかけた魔法を解け!!!」


「レイヴン避けて!!!」


(しまっ……!)


 ほんの一瞬。

 フローラへと視線を向けた瞬き程の瞬間。

 レイヴンの体をエレノアの剣が貫いた。


いつもありがとうございます。

昨日寝落ちしてしまって投稿出来なかったお話です。

日付を跨いでしまうかもしれませんが、もう一話投稿予定です。

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