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第四の魔剣

 正眼に構えた剣。体を半身開いた状態で自然体で立つ。非常に高い次元で再現されたリヴェリアの構え。

 極めて自然な立ち姿から繰り出される技は如何なる苛烈な攻撃も優雅に受け流す。


「やあっ…!」


 可愛らしい掛け声と共に巨大な魔鋼人形が宙を舞った。


 どこにも余計な力の全く入っていない完璧な動作。洗練された無駄の無い動きは美しい舞の様ですらある。


(驚いた、流石だな。もうそこまで使いこなせるのか)


 クレアが見せた動きはリヴェリアそのものと言っても良い。レイヴンでも難しい動きをあそこまで使いこなせるのなら安心だ。

 レイヴンは倒れたユッカを正面に捉えたまま隙無く構えるクレアではなく、エレノアに駆け寄った。


(良かった。魔物堕ちの症状は無い。激痛で意識を失ったか)


 エレノアの状態を確認したレイヴンは魔物堕ちの症状が現れていない事に安堵した。

 だが、それはあくまでも魔力を感知しての判断。中身は人間でも、魔鋼人形であるエレノアの状態を正しく確認するのは難しい。


「クレア!暫く頼む!俺が戻るまで時間を稼いでくれ!」


「た、頼む……?(やった!)うん!任せて!!!」


 苦しみもがくエレノアを担いだレイヴンは闘技場の入り口から心配そうに様子を伺っていた技術者達の元へ急いだ。



 一方、レイヴンに任されたクレアの心は、かつて無い高揚感で満たされ、気持ちが昂ぶっていた。

 クレアにとってレイヴンの役に立てる事はこの上なく幸せな事。そのレイヴンが自分を頼ってくれたという事は認められたのと同じ意味を持っている。


(やっと一つ認めてもらえた…!)


 確実にレイヴンの期待に応える為にも焦りは禁物だ。

 相手は間違い無く自分よりも強い。ニブルヘイムで戦った女王と同じかそれ以上……。しかも今は一人。ルナの補助魔法が無い状況で凌ぐ必要がある。


(レイヴン、左手を怪我してた。打撃は使えないって事だよね…。私の体重だとまともに剣で打ち合っても弾き飛ばされちゃうし……だったら…)


 クレアの役目はあくまで時間稼ぎ。レイヴンが戻って来るまで魔鋼人形をこの場に押し留める事だ。

 倒さなくて良いのなら他にもやりようはある。


 魔鋼人形がゆっくりと巨体を起こしていくのを見たクレアは、再びリヴェリアと同じ構えをとった。


 ただし、今度は少しだけ違う。

 リヴェリアの構えを基本として、ユキノ、フィオナの動きを再現する。これは相手との体格差や体重差を考慮する必要がある為だ。

 クレアが選択したのは一瞬に訓練に付き合ってくれたユキノとフィオナの“後の先” という戦闘スタイル。


 相手の隙を突く事を第一に考え、死角から死角へと立ち回る。無理に隙を作るのでは無く、最高の一撃を叩き込めるタイミングを見極める事こそが後の先を使う絶対条件だ。

 先程の様に攻撃を受け流すだけなら問題無いが、躱し続けるとなるとリヴェリアの構えを維持出来ず、ほんの小さな綻びから途端に崩れてしまう。


 レイヴンとリヴェリアの構えはクレアが覚えて来た中で最も難しい構えだ。一度見ればどんな技でも再現可能なクレアでさえ、同じ次元で使いこなすのは不可能。これは圧倒的な戦闘経験の差が原因だと考えられる。再現しようとすればする程、二人の構えから遠ざかっていくのだ。


(大丈夫。ユキノさん達の動きならちゃんと使いこなせる)


 この時、クレアは気付いていない。

 三人の構えから戦闘の癖だけを抜粋して使用するというとんでもない技術が、もはや奥義と呼んで差し支えない高みにある事を。

 クレアが持つ、ずば抜けた天賦の才の為せる技だ。



「お、おい!あんな所に小さな女の子がいるぞ!!!」


「無茶だ!おい!早く逃げろ!殺されてしまうぞ!」


「残ってる魔鋼人形を全部出せ!俺達で時間を稼ぐんだ!!!」


 観客達の反応は当然だろう。

 四倍以上の体格差、重量の差は百倍はあるであろう相手に小さな女の子がたった一人で相対しているのだ。しかも、相手はエレノア達が二人がかりでも抑えられなかった最狂の魔鋼人形。


(駄目。私が任されたんだもん。私がやらなきゃ…!)


 クレアは深い呼吸を繰り返しながら集中力と魔力を極限まで高めていく。


 どんなに頑張ってもクレアの魔力量はレイヴンやリヴェリア、マクスヴェルトの足元にも及ばない。そもそも桁外れな三人と比べる事自体が間違っているかもしれない。けれど、クレアの目指す場所へ行く為には、あの三人を目標にするくらいで“丁度良い”のだ。


(そうだ、あなたにも名前を付けてあげる)


 ルナは言った。

『同じ虹鉱石を用いた武器がそれぞれ違う性質を発現させているのは、加工の段階において、元から内包している性質の幾つかが偶然表面に出て来た結果だと言われている。だとしたら、他の性質を使え無いのでは無く、引き出せていないだけかもしれない。

 オリジナルと言われる魔剣だって、元は誰かがこの世界で作ったんだ。僕の仮説が正しければ、魔剣や聖剣といった特別な剣は、使用者の願いに応えて性質を変化させた剣の事かもしれない。それなら、レイヴンやリヴェリアの持つ剣が唯一無二の性質を持っている理由の説明になるからね』


 原理上、クレアの持つ剣はオリジナルの魔剣に最も近い性質を持っている。

 使用者の魔力に反応して力を増して行くというのは虹鉱石が持つ最大の特徴。であれば、その性質の変化に方向性を示してやる事が出来さえすれば、他にも新しい性質を獲得出来る可能性がある。


(レイヴンとずっとずっと一緒に旅がしたい。他の皆んなとももっともっと沢山楽しい事がしたい。だからーーーー)


 ルナが言う様に、レイヴンとリヴェリアの持つ剣は、まるで初めから二人の為にある様なピッタリな性質を持っている。

 リヴェリアは竜人としての強大な力を抑える為。

 レイヴンは魔と神を喰らい、願いを形にする力を……。

 ならば、自分もそれを目指す。

 出来る出来ないじゃない。いつか隣で肩を並べて戦う為の力を得てみせる。絶対にだ。


 剣全体に行き渡るように魔力を流し込む。

 ゆっくりと、優しく。素材に使われた虹鉱石に眠る可能性の扉を叩くイメージだ。


 (焦っちゃ駄目……ゆっくり、ゆっくり……来た!)


 クレアの気持ちに応えた扉が一つ、また一つと開いて行くのを感じる。


 ずっと一緒にいる為に、ずっと一緒に強くなる為に。

 大好きなレイヴンの願いに応えられる様に。


 確かな手応えを感じたクレアは想いを込めて名を呼んだ。


「行くよ、エターナル!力を貸して!一緒に強くなろう!」


 クレアの声に応える様に魔剣の輝きが強さを増す。薄っすらと漏れ出した魔力は赤く、ゆっくりと刀身を包み込む様にして広がっていった。


 それは現存する三本の魔剣に次ぐ、新たな魔剣が産声を上げた瞬間であった。



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