カレンとマクスヴェルト
今回は少し短いです。
宜しくお願いします。
カレンとマクスヴェルトの二人がこうして顔をつき合わせるのは、実は初めての事では無い。
リヴェリアとマクスヴェルトが協力関係にある様に、カレンとも協力関係を結んでいるのだ。その目的はレイヴンでは無くリヴェリアの動向を監視する為。
「それじゃあ、早速聞かせてもらおうかな。外界の様子はどうだった?」
「その前に言っておかなけばいけない事があるわ。レイヴンの中、正確には魔剣の中にだけど、あの子がいる。少しの間だけだったみたいだけど、どうやらミーシャが会ったみたいなのよ」
「……やっぱりそうか」
ニブルヘイムでわざわざルナと入れ替わってまで様子を見に行ったのは、何もクレアやレイヴンの様子が気になったからという訳では無い。
北の街でレイヴンの魔力反応が急激に高まった後、ふつりと途絶えたのを不審に思っての事だ。
カレンが言った“あの子” とはリヴェリアの親友であり、願いを叶える力を持った聖剣の本当の持ち主。魔神喰いの伝承に出て来る悪魔と神を喰らった伝説上の剣士の事である。
「シェリル。あの子が出て来たって事は、そろそろよね……」
「大丈夫。レイヴンにとって、今までで一番良い条件が揃ってる。今度こそ上手く行く。成功させて見せるとも」
「……そうね」
マクスヴェルトは拳を強く握り締め、これまでの失敗を繰り返さない決心を固めていた。
後は残りの不安要素を片付けてしまえば良い。
「何か伝言の様なものは言っていたかい?」
「それがねえ……」
『貴女が自分を責める必要なんて無い。私は誰も恨んでなんかいないもの。……それから、ーーーの事を気にかけてくれてありがとうって』
カレンはミーシャからその言葉を聞いた時、心臓が止まってしまったんじゃないかと思うくらいに驚いた。
最後の聞き取れなかった部分。
あれはきっとレイヴンの事だ。
マクスヴェルトは目を閉じてゆっくりとシェリルの言葉を繰り返し呟いた。
「……誰も恨んでない、か。彼女らしいね。本当に…彼女らしいよ……」
「ええ、本当に。でも、問題はリヴェリアの方ね。記憶、まだ戻っていないんでしょ?」
「まあね。それは僕も気になっていてね。リヴェリアに内緒でこっそり聞きに行ったんだけどさ、本人次第だってはぐらかされちゃった」
「あの偏屈爺さん相変わらずなのね。いくらリヴェリアの事が可愛いからって、過保護過ぎるのよ。後で苦しむのはリヴェリアなのに」
リヴェリアの封印された記憶はシェリルに関係したもの。
カレン、マクスヴェルト、リヴェリア。
そして、シェリル。
四人はかつて共に旅をした仲間だった。
けれど、ある事件を境にリヴェリアの記憶封印せざるを得なくなってしまった。
「仕方ないよ。リヴェリアは竜人族のお姫様だもん。慎重にもなるさ」
「慎重過ぎなのも考え物だけどね。それと、帝国の件だけど、やっぱりステラは帝国にいるみたい。何をやろうとして、何を考えているのか。ずっと分からなかったのが、少しだけ見えた気がする」
「見えた?」
疑問を浮かべるマクスヴェルトを前に、カレンの纏う空気が変わる。
「マクスヴェルト。私は次にステラが何かして来たら、そこで仕留めるぞ。レイヴンの邪魔はさせん」
仕留める。それはステラを殺すという事。
カレンの目は本気だ。
「……それは、レイヴンに恨まれてもかい?」
「当然だ。ステラはレイヴンに魔剣の力を使わせようとしている。それは何故か?簡単な事だ。ステラはレイヴンを魔物堕ちさせて何もかも壊すつもりだからだ。そんな事は断じて許さん。死が魂を救うなどという考えは認めない」
「死が魂を救う?それはまた……」
死んで魂が解放されれば、楽になれるだなんてのは幻想に過ぎない。
レイヴンがそうして来た様に、どんなに辛くとも一歩を踏み出すしか無いのだ。
「私も方々調べてはいるが、依然としてステラについては謎が多い。しかし、シェリルの願いはレイヴンが生きる事。例えステラがーーーー」
「待った。僕は同意し兼ねる。カレンが考えている事も理解出来るけど、僕はレイヴンさえ無事ならそれで良いんだ。クレア、ルナ、ミーシャやランスロット達と楽しく過ごしてくれたら満足なんだよ」
「……」
「まあ、その為にステラの企みを阻止しなきゃいけないんだけど。きっとレイヴンはそういうのを望まないんじゃないかな?やれるだけの事はやってみるよ」
マクスヴェルトの顔は穏やかで、興奮したカレンの毒気を受け流していく。
こいう時のマクスヴェルトは本気だ。いつもふざけたフリをしていても、一番状況を客観的に見ている。
「……相変わらず損な役回りね」
「そうでも無いさ。僕は今、この世界に存在していられる事をとても嬉しく思っているよ。始まりと滅びを繰り返して来た竜人の魔法はもう解けた。残りの時間は悔いの無い様に過ごしたいんだ」
「そっか……」
ーーーーコンコン。
「ユキノです。レイヴン宛の手紙が届いています」
「レイヴン宛て?何でレイヴン宛ての手紙をリヴェリアの部屋に持って来るのよ?」
「入って来て良いよ」
ユキノが持って来た手紙を確認したマクスヴェルトは二ヤリと笑うと、軽く匂いを嗅いで見せた。
「ちょっと、何してるの?趣味が悪いわよ」
「ふふん。今日の夕食が決まったんだよ。カレン、ミートボールパスタは好きかい?」
「好きというほどじゃないけど……。それが何?」
「今から食べに行こう。リアーナの作るミートボールパスタは絶品なんだ。ユキノ、悪いんだけどセス達を頼むよ」
「ええ⁉︎ まさか、お嬢がいないのに中央を空ける気ですか⁈ 」
「大丈夫。転移魔法でちゃちゃっと行ってくるから」
マクスヴェルトはカレンの手を取るとユキノの返事も待たずに転移魔法を発動させた。