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報告

 レイヴン達が順長に買い出しをしていた頃、中央冒険者組合の一室でリヴェリアは烈火の如く怒り狂っていた。


「カレン!お前がいながら何故レイヴンに魔剣の力を使わせた!」


「やあねぇ、そんなに怒らなくても良いじゃない。いくら子供の姿になれるからって、油断してるとシワが増えるわよ?」


「うーるーさーい!うるさい!うるさい!うるさい!そんな事をカレンに心配される覚えは無い!!!それに馬鹿ランスロットもだ!」


「うわっ⁉︎ こっちに矛先が向いた!」


「あ、た、り、前だ!馬鹿もの!!!ついでにゲイルもだ!」


「ついで?私は何もした覚えが無い。勘違いというやつではないか?」


 ユキノ達と中央にやって来たセス達の案内をしていた時、カレン達が帰還したとの報せを聞いて帰って急いで帰って来てみれば、肝心のレイヴンの姿が無い。

 勝手気ままなレイヴンの事だ、帰って来ない事も想定していたし、クレアとルナが一緒にいるのならそれはそれで良い。他の方法を考えるだけだ。

 しかしだ……。ニブルヘイムでレイヴンが見せた魔剣の新たな力の事を聞いてしまっては、どうして怒りを抑える事が出来るだろうか。


 当然ながら、魔剣の発動には相応の魔力を必要とする。

 効果が大きくなればなった分だけ魔力消費も増加していくのだ。以前も無茶をして倒れた事があるというのに信じられない。制御を誤れば魔物堕ちしてしまう可能性だってあった。

 魔神喰いの元となった聖剣の力と魔神喰いの力。それが二つ同時に発動したなど、一体どれ程の代償を支払えばなし得るのか想像も出来ない。

 リヴェリアの望みは、レイヴンがクレア達と穏やかに暮らしてくれる事であって、他人の願いの為に自らの命を削る事では無いのだ。


「何が勘違いなものか!だいたい、レイヴンがそこまで魔剣の力を使う様な事態になる前にだ!カレンならどうにか出来ただろう!何の為にわざわざ首を突っ込みに行ったのだ⁉︎ 」


「首を突っ込むだなんて心外だわ。それに、リヴェリアだって私に一言の相談も無しに動いてるじゃないの」


「うっ…!そ、それはそうだが……。だとしてもだ!どうしてレイヴンを止めなかった⁈ 」


 あの場でレイヴンを止められたのはカレンだけだ。

 カレンの予測不可能な行動には頭を悩まされる事も多いのだが、実力はリヴェリアやレイヴンと比べても遜色無い。しかも、カレンには優秀な部下も多くいる。カレンが直接指揮を執らなくても、魔物の群れを殲滅し、フルレイドランク相当の力を持っていたという女王とやらにも対抗出来ただろう。仮にそれが難しかったとしてもだ、レイヴンと共闘していれば魔剣の力に頼らずとも、もっと容易く解決出来た筈なのだ。


「無理よ無理。あそこまで酷い状況だと分かってたら、事前に対策の一つも用意出来たでしょうけど、さっきも説明した通り、万が一の場合に備えて私は力を温存しておく必要があった。言いたい事は分かるけど、今回はこれが最善なのよ」


「何を言って……いつものカレンなら力づくで……」


「それも無理。成り行きで少しだけ戦ったんだけど、アレは出鱈目ね。強くなり過ぎていて、最初は本当にレイヴンなのか疑ったもの。それに、今のレイヴンは魔剣を完全に制御しているわ。レイヴンを止められるとしたらクレアとルナだけ。あ、ミーシャも可能性あるかも?」


「待て、完全に制御とはどういう事なのだ?ニブルヘイムでの事はレイヴンが意図的にやったと言うのか?」


 あの魔剣は聖剣と魔剣の二本の性質を併せ持つ。

 魔物堕ちもせずに完全に制御するなど並大抵の事では不可能だ。


「レイヴンの奴、本当にどんどん強くなってるんだ。何もして無いとは言わないけど、あの成長速度は異常だぜ。前にパラダイムで魔物の大群と戦った事があったろ?あの規模の魔物を一撃で倒して見せたんだ。もう何がなにやら……」


「私も同感だ。レイヴンが紛れも無い人間である事は承知している。だが、あの力はもう人間の領域から逸脱している。一種の化け物だ。一つ聞くが、アレは死んだ人間も生き返らせる事が出来るのか?」


 ゲイルが生きていられるのは、一度死んだ後に無理矢理魔核を埋め込んで魔物堕ちさせたからだ。

 気になっているのは、もしかしたらダストンはしんでいたのではないだろうかという事だ。レイヴンが駆け付けて来た時、ダストンの命は既に尽きかけていた。であれば、あの魔剣は失われた人の魂すら操れる事になる。


 リヴェリアはゲイルの発言を聞いて、もしやという思いが過った。

 ゲイルが言った事が事実なら、レイヴンは本当に人の領域に無い。


「……」


「どうしたんだ?急に黙り込んだりしてよ」


「すまないが、確かめたい事が出来た。暫く中央を留守にする」


「はあ⁉︎ 中央に居なくて良いのかよ?」


「カレンとマクスヴェルトが居れば問題無い。二、三日で戻る」


 リヴェリアは一方的に告げると、かなり急いだ様子で何処かへ行ってしまった。



 残されたランスロットとゲイルは訳も分からず立ち尽くしていたが、意外な事にカレンは落ち着いた様子だった。強引に留守番を押し付けられたのに怒る気配も無く、テーブルに置かれたリヴェリアのお菓子を食べている。


「そんな呑気にしてて良いのかよ。俺達はレイヴンと合流する約束があるんだぜ?」


「二、三日なら丁度良いわ。久しぶりに帰って来た事だし、私の部下からの報告を待つとしましょうか」


「報告?」


「ダンジョンの調査をちょっとね」


「もしや、ダンジョンの奥深くにあるという水晶の調査か?」


「お!鋭い!私の予想が外れてると良いんだけど、念の為よ」


 あの水晶はダンジョン毎に埋まっている場所が異なる。探そうとしてもそう簡単に見付からない。けれど、ニブルヘイムでの一件で女王は水晶を持っていた。ならば、それを探し当てた人物がいる筈だ。

 もしも、あんな物が出回る事があれば世界中何処ででも魔物の大群を意図的に発生させられる。未だ見ぬダンジョンを仲間達と共に探索するのが生き甲斐と言っても過言では無いカレンにとって、そんな事は断じて許せない。



 そうこうしていると部屋の外がなにやら騒がしくなって来た。

 どうやら、マクスヴェルトとユキノ達が新人冒険者を連れて戻って来た様だ。


「カレンさん、お久しぶりです」


「おお〜!フィオナちゃん久しぶり〜」


「あれ?君達だけ?リヴェリアは何処行ったの?」


「リヴェリアなら二、三日留守にするって言って何処かへ行っちゃったわよ」


「は?」


 間の抜けた空気が流れ、カレンのお菓子を食べる乾いた音が響く。

 後ろで見ていたセス達も状況が追いつかない様子だった。


「私とあんたで留守番だって。お菓子食べる?」


「いらないよ!まあ、良いや。君が納得してるって事は大事な事なんだろうし。でも、説明はしてもらうからね」


「はいはい。それじゃあ、ランスロットとゲイルは新人冒険者君達の相手をよろしく!」


「しゃーねえ。んじゃ、行くか」


「何をすれば良いんだ?」


「んなもん、体動かすのが一番だろ。訓練場に行こうぜ」


「ふむ。良いだろう」


 ランスロットとゲイルがセス達との挨拶もそこそこに席を外した後、部屋に残ったカレンとマクスヴェルトはいつになく真剣な表情をして向かい合っていた。


「さて、それじゃあ本題に入ろうか」

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