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フローラの正体

 

 東にあるエレノア専用の研究施設の前。

 レイヴン達は庭に置かれたベンチでぐったりとしていた。


 特にエレノアの腕を運んだクレアとルナは、あまりの重さにバテてしまった様だ。

 ベンチに座るなりレイヴンの膝を枕にして横になっている。


「ううん……何だかいつもと感触が違う。レイヴン早く元に戻れれば良いのに」


「エレノアさん、治るかな?」


「さっきの人の話だと時間は掛かるけど肝心な部分は無事だって話でしたし、きっと大丈夫ですよ」


 半壊したエレノアを見た技術者達の慌てようは相当なもので、事情もそこそこに緊急の修復作業が行われる事になった。

 魔鋼人形の心臓部である動力部と記憶領域に影響が無かったのは不幸中の幸いだった。

 一緒にいた小人族の少女はエレノアの技術者では無かった様だが、どうやら優秀な技術者であったらしく、特例として今は他の技術者達と一緒に修理に加わっている。


「レイヴン、さっきはありがとう」


「いや……さっきのは、その…やり過ぎた。もっと他に方法があったのにな……すまない。怖い思いをさせた」


「ううん、大丈夫」


「もう良いじゃん!確かにやり過ぎちゃったけど、エレノアの様子もおかしかったしさ」


「それはそうだが……」


 闘技場で見たエレノアとは別人としか思えない攻撃的な姿は異常と言える。けれど、普段のエレノアを知らない現状では結論を出す事は出来ない。やはりエレノアの修理を待って事情を聞いてみるのが良いだろう。


「レイヴンさん、さっきは言い過ぎました。ごめんなさい……」


「そんな事は無い。ミーシャには感謝しているんだ。お前が居てくれて良かった」


「うええ⁉︎ わ、私なんて、ただ言いたい事言っただけですし……それにあんな酷い事……」


「いや、あの言葉が無ければ、俺は自分の過ちに気付けなかった。それに、あれは良い一撃だった」


「あ、あの時は咄嗟に……」


 心が魔物堕ちする。

 守りたい一心であった事は揺るぎない。けれど、ミーシャに言われてハッとした。

 咄嗟の事とは言え、怒りの感情に飲み込まれしまった自分が情け無い。守りたい存在を手離さない為にもっと慎重にならなければならないと痛感させられた。

 魔剣の制御が出来る様になったところで、自分の感情すら制御出来ないのでは話にならない。


「もう!止め止め!聞いてるこっちがむず痒くなっちゃうって。それより何か飲み物頂戴よ〜」


「あ、はい!ちょっと待ってくださいね。あ、アレ?飲み物が……」


「何?もしかして切らしてるの?」


「あはは……。食料はまだ沢山あるんですけど、昨日全部飲んじゃったのを忘れてました。これは買い出しに行かないといけませんね」


「それなら私が街を案内してあげるわよ」


 数人の小人族を伴って現れたのは、あの場に来ていなかったフローラだった。

 後から合流するという話だったが、間に合わなかったらしい。


「フローラ……。随分と遅かったな。何故此処が分かった?」


「まあ、実は最後の方だけだけど見てたから。貴方達は研究所へ行って事情説明を。それからコレを渡しておいて」


「ハッ!」


 小人族の者達はフローラから何か受け取ると研究所へ入って行った。


「さてさて、それじゃあ街へ出掛けましょうか」


「でも、エレノアさんが……」


「大丈夫。あの様子だと修理って言うより、全身換装だろうから時間がかかるわ。三、四日は動けないでしょう。早い話が、買い物して食事しながら話の続きをしましょうって事よ」


 さっさと歩き出したフローラに続いて腰を上げたレイヴン達は、エレノアの修理が終わるまで街で買い出しをする事にした。

 ただし、この街で使える硬貨を持っていないので、ミーシャの鞄に預けておいた魔物の素材を売る事にした。フローラの話では魔物の襲撃が無くなってからというもの、魔物の素材を入手する機会が無く、古い素材を使い回していたのだそうだ。


「あのお……」


「何?」


「フローラちゃんって結局何者なんですか?」


「へ?この国の王様だけど?」


「うええええーーーーーー⁉︎ 」


 東の森にミーシャの絶叫が響き渡った。

 当然、レイヴン達は気付いていたのだが、まさかミーシャが気付いていないとは思っていなかったので、フローラが王だと分かってからも特に言及しなかったのだ。


「あれ?もしかして気付いて無かったの?闘技場での事とか、昨日の話とかでバレバレだと思ってたのに。今だって、ねえ?」


「だ、だだだだだだって!ぎゃああああ!とか!ひええええ!とか!そんな事言う人が王様だなんて思う訳無いじゃないですか!それに今一体何歳何ですか⁈ 」


「そこなの……」


「ハッ!も、もももももしかして、気付いて無かったの私だけですか⁉︎ そんなぁ……」


「まあ、フローラって王様らしくないもんね。何で?」


「簡単よ。私が王様だって知ってるのが三長老だけだからよ」


 元々この東の森にはフローラを始めとする小人族が住んでいたそうだ。


 では、どうして一国の王になったのか?


 その頃から世話役の様な事をやりながら魔法の研究をしていたと言う。魔法研究の噂を聞きつけた人間や魔法使い、魔術師といった者達が次第に集まり始めた。小人族の集落は村になり、町へと発展した。それまでに問題が無かった訳では無い。急激に人口が増加した事で、周囲の魔物が餌を求めて集まって来る様になったのだ。

 魔法で対抗出来る内は良かったのだが、次第に強力な魔物が姿を現す様になり、犠牲者が出始めた。このままでは全滅も免れ無いという状況になった時、当時はまだあまり研究の進んでいなかった魔鋼技術に目を付けた技術者達は自分達の代わりに戦ってくれる人形を作る事にした。

 最初の被験者の名はエレノア。

 森で行き倒れていた少女をフローラが拾って治療を施していたのだが、とある事情により体の大半を失っていた少女は、フローラの看護を受けながら寝たきりの生活を余儀無くされていた。

 そこに舞い込んで来た魔鋼技術による体の精製という前代未聞の研究。当然反対意見も多かった。体が不自由とは言え、生きた人間を実験の道具にする。そんな事が許される筈が無い。

 フローラは犠牲者が出ても尚、頑に実験を拒んだ。

 しかし、少女は決断する。


 少女が生きて行くには自由に動ける体が必要だった。何より命を救ってくれたフローラに恩返しをする絶好の機会。多くの反対を押し切った少女はフローラと共に新しい体で生きて行く事を願い、魔鋼研究への協力を申し出た。

 かくして、あくまでも本人の意思を尊重する形で魔鋼人形の研究開発が始まった。何もかもが手探りの状態から始まった研究は、何度も失敗と成功を繰り返し、集まった三種族の技術の全てを注ぎ込む事でようやく形となった。

 長い試行錯誤の末、結果は成功。未だ数々の問題を抱えてはいるものの、エレノアはフローラの元に集まった人々の希望の光となり、強大な魔物へと立ち向かって行ったのだった。


(そういう事だったのか……)


「うそ……エレノアが元人間って事?」


「そんな……」


「信じられ無いでしょうけど、本当の事よ。その後のエレノアは来る日も来る日も魔物を倒し続けた。けど、ある日突然、限界が訪れた。当然よね。エレノアは最初の魔鋼人形として生まれ変わった訳だけど、戦い方を教えてくれる人がいなかったから……。っと、話はここまで」


「えええ⁉︎ またお預け?」


「ごめんね。でも、ほら。もう街に着いたから」


「ちぇ……」


 街中でフローラとエレノアの過去について話す訳にもいかない。

 レイヴン達は買い出しを済ませるべく、街へと入って行った。



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