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魔鋼人形の動力

 

 ルナの告白を聞いても尚、フローラはレイヴンの力が必要だと言う。

 その様子はいつになく真剣で、ルナも思わず視線を逸らした。


「何でそんな顔するのさ……そんなのズルいよ」


 フローラの言葉に俯いたままのルナが答える。


「ごめんなさい……」


 フローラについて謎が多いのは分かっている。


 それを分かった上で無視していた。

 それがこの結果。

 この様だ。


 全てを分かった上で魔剣が必要な事態。

 そういう事なら尚更フローラの話を聞くべきだとレイヴンは考えていた。

 それがルナの気持ちに反する事だとしても、聞かない訳にはいかない。

 いつだってそうして来た。それが、レイヴンの生き方だからだ。


「ルナ、お前の言う通り、このまま魔剣の力を使い続ければ、いつか取り返しのつかない事になると分かっている。だが、俺は魔物堕ちしたりしないし、お前を一人ぼっちにもしない。クレアも一緒だ。お前達と旅を続ける為には未だ止まれない。俺が俺でいる為にもな」


「……僕だって分かってるよ!だけどこんな事続けてたらレイヴンが……!何でレイヴンばかり……」


「俺もそう思う」


 貧乏くじだとは思わない。助けを求めている人がいて、自分にはそれが出来る。助けられる力を持っていたのが自分だったというだけ。それだけの事だ。


「だったら……!」


「お前達が居てくれるからだ」


「え?」


「俺は、お前達が俺と旅がしたいと言ってくれた事が嬉しかったんだ。しかし、この世界には邪魔が多い。解決しなければならない問題も山積みだ。とてもゆっくりと旅をしていられる状況じゃ無い。だから俺は、その為なら無茶もする。これでも、心配してくれているのは分かっているんだ。すなまい」


 レイヴンにとって一番守りたい存在であるクレアとルナ。

 二人の為であれば無茶の一つや二つどうという事は無いと本気で思っている。魔物堕ちのリスクを考えるなら、大人しくダンジョンにでも潜っていれば良いかもしれない。けれど、それでは駄目だ。この先もずっと一緒に旅を続ける為にも、あらゆる障害は排除する。

 トラヴィスの件もステラの件も何もかも全部だ。


「何なの……そんな言い方されたら何も言えないよ」


「すまない。だが、これが俺の本心だ。フローラの頼みを引き受けると決めた訳ではないが、俺達には情報が必要だ」


「分かったよ。もう何も言わない。フローラの話を聞くよ」


 ルナは手を振って魔法を解除すると椅子に座り直した。

 不機嫌な顔のままだが、じきにいつもの調子に戻るだろう。


「ありがとう、ルナ」


「別に。僕はレイヴンの言う通りにしただけだもん」


「くうぅ!ルナちゃん可愛いです!」


「何でそうなるのさ⁉︎ もう!抱きつかなくていいってば!」



 魔物堕ちするつもりは無い。

 魔剣本来の力を使える様になった事で試したい事があるのだ。

 いつかは訪れるその瞬間まで、人間として生きる。


 握った手を離さない様に。

 二人が穏やかに暮らせる様に。

 世界が光で溢れる様に。



「フローラ。話してくれ。お前の願いとやらを聞こう」


「ええ、勿論よ」



 フローラが最初に話し始めたのは魔鋼と魔鋼人形についてだ。


 魔鋼とは文字通り魔力を帯びた鉄資源の事を指す。これはダンジョン内で採掘される虹鉱石とは異なる。

 前者は魔力そのものを内包しており、魔鋼を使って武器を作っても、それ以上性質が変化する事は無い。後者はクレアの魔剣やレイヴンの持つ鎖の様に魔力を流す事で性質が変化する。


 次に魔鋼人形についてだが、説明が始まった途端にレイヴン達は口を噤んだ。


 一般的な魔鋼人形の動力部に使われているのは魔核。それも、人工的に作られた魔核だ。


 そもそも魔物の魔核というのは、魔物の強さや個体の大きさによって産み出す魔力量に差が生まれる。

 中央でもCランクからAランクまでの魔核であれば光源の確保や生活に必要な道具の動力として使用されている。レイドランク、フルレイドランクの魔物ともなれば、Aランク相当の魔核数千個とも数万個分とも言われる魔力を生み出す事が出来る


 この国には冒険者の様に魔物を専門に生業としている者はおらず、強力な魔物の魔核を入手するのは困難との理由から、人工的に魔核を再現する事になったそうだ。


 昔は魔物から採取した魔核を使用していたそうだが、魔鋼人形を動かす動力として使用するには個体差があり過ぎた為に、想定した通りの安定した性能を発揮するには至らなかった。そこで、この国の技術者と呼ばれる者達は、構造を調べる事で魔物の魔核と同等の物を作るという前代未聞の研究を始め、約二百年という歳月を費やして今日の人口魔核の製造に成功した。


「人工的に……」


「ええ。私達にとって魔鋼人形は自分達を守る為の武器の代わりだった。中央の冒険者達の様に戦闘が出来る人材がいなかったから、魔物に対抗するにはどうしても必要だったのよ」


「でも、此処に来るまで森で魔物に遭遇しませんでしたよ?」


「それは……」


「ニブルヘイム。そういう事だよね?」


 北の大地に引き寄せられる様に魔物や魔物混じり達が移動していた件。

 どうやらあれは本当にこの国の仕業だったらしい。


「言い訳はしない。私達がした事よ。女王の支配が及ぶギリギリの地点に魔物をおびき寄せる魔法を仕掛けてーーーー」


「説明の必要はない。ニブルヘイムの件は片付いている」


「レイヴンさん、そんな言い方は……」


「終わった事だ。本来無関係だった筈の人間を巻き込んだのは事実だが、今更言ったところで元に戻る訳じゃない」


「そうですけど……!そうかもしれませんけど……」


 レイヴンとて釈然としないのは同じだ。ミーシャのやるせない気持ちも分かる。

 けれど、力を持たない者が生き残る為に選んだ事であれば、それもまた仕方の無い事なのだ。この国の選択した事が、どんなに人の道から外れた残虐な行いであったとしても、それが全て悪だとは言い切れない。


 ダストン達が居たのもフローラが事前にレイヴンとの関係を調べていたと考えれば辻褄が合う。

 それが、フローラの罪悪感からなのか、単にレイヴンを誘い出したかっただけなのか。

 いずれにせよ、北の大地でダストンと再会していなければ、あれ程深く関わる事は無かった。


「ねえ、どうにも腑に落ちないんだけどさ。魔鋼人形があるなら、そんな事する必要無かったんじゃないの?」


「そ、そうですよ!どうしてせっかく作った魔鋼人形を使わなかったんですか?闘技場で戦っているのを見た限りだと、魔物にも十分通用すると思うんですけど」


「あのエレノアって魔鋼人形と比べたら、相手の魔鋼人形はあまり大した事無いよね」


 確かにエレノアは別格だった。相手もこの国では手練れという話だったが、それにしては差があり過ぎる。

 相手の魔鋼人形は冒険者に例えるなら何とかAランクに相当するといったところだ。


「エレノアは特別だから……。この国の魔鋼人形の性能では弱い魔物を倒せても、強力な魔物には手も足も出ないのよ。対処出来るのはエレノアだけ。だけど、エレノアは長時間の戦闘行為には耐えられないという問題を抱えているの」


「駄目じゃん」


「ちょっとルナちゃん!」


「良いのよ。本当の事だもの」


 何百年も魔鋼人形を作っている割に、魔物に対処出来るのがエレノアだけとは何ともお粗末な話だ。


「だから八ヶ条が必要だったのか?」


 あの八ヶ条は法というにはおかしな点がいくつもある。

 殆ど三種族に協力させるように仕向けているとしか思えない内容だ。


「流石レイヴン。もう八ヶ条の意味に気付いてたのね。だけど、多分それは半分だけ正解。それがレイヴンに頼みたい事。そうね……今日はここまで。時間も遅くなって来たし、食事にしましょっか」


「えー!ここまで話しておいてお預けなの?」


「続きは明日。レイヴンがエレノアと戦ってみてからの方が分かり易いと思うから」


 フローラはそう言って食事の準備をしに奥の部屋へと姿を消した。

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