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ルナの想い

 

 西にある長閑かな風景の広がる田園地帯。その一角にフローラが故郷に帰る度に使っている小さな家がある。

 と言っても、元は人間が住んでいた家で小人族のフローラにしてみれば大き過ぎると思うのだが、ドアを開けた瞬間に『もう少し大きな家にすれば良かった』と言った理由が分かった。

 フローラが間借りしていた部屋も大概だったが、入り口から廊下、階段、二階に至るまで所狭しと本が積み上げられていて、唯一リビングだけが人が座れる様になっていた。

 来客用との事だが、フローラを訪ねて来る人間がどんな人間なのか少しだけ興味がある。


「ま、まあ。ちょっ……とだけ、散らかってるけど、座れるからセーフよ、セーフ!」


「……」


 どうにか座ることが出来たものの、クレアを寝かせておける場所が無い為、レイヴンが膝の上に抱いたままになった。


「あの時の部屋よりはマシですけど、フローラちゃん、ちょっとは片付けましょうよ……。あれ?フローラちゃん?」


 しばらくすると二階から誰か降りて来る音が聞こえて来た。

 ようやくフローラ本人と対面らしい。

 勢いよく開いたドア……の下の方から入って来た。


「お待たせ!ったく、どうでもいいけど、その鎖厄介過ぎ!本体とこれだけ近づかなきゃ拘束を解くのも一苦労だなんて無茶苦茶な性能よね。中央の冒険者は皆んなその鎖を持ってるわけ?」


「いいや。この鎖はドワーフの鍛治士ガザフか作ってくれた。拘束力が強いのは魔剣と同じ材料を使っているからだ」


 鎖の材料にはクレアの魔剣と同じ虹鉱石を用いている。

 魔力を流す量を調整してやれば強度が増す優れ物だが、材料が希少である事と、ガザフが認めた者でなければ注文には応じないと宣言したので量産の予定は無い。あくまでもレイヴンへの礼との事だ。


 それに全く問題点が無い訳でも無い。

 携帯用に細く作ってある為にAランク以上の魔物を拘束するには、どんなに魔力を流しても素材の強度が足りないので壊れてしまう。

 いずれにせよ、レイヴンには必要無いのだが、せっかく作ってくれたのだからと持ち歩いていたのだ。


「ドワーフ族のガザフって、あの?どうりで歯が立たないと思った」


「ガザフを知っているのか?」


「会ったことは無いけど、中央にいればよく耳にする名前よ。だけど、随分前に剣を作らなくなったって聞いてたのに」


 ガザフは今も変わらず武具屋を営んでいると聞いた。

 何でも、『今度こそレイヴンの役に立ってみせる!』とかなんとか言って息巻いていて、これまで以上に強力な武具の開発に力を入れているそうだ。

 帝国との国境が近いと言っても、リヴェリアが中央から派遣した部隊が駐屯しているので、余程のことが無い限りは大丈夫だと思う。


(備えておくに越した事はないか……)


「ねぇねぇ、フローラ!それにしても、どれも魔法関連の本ばっかりだね。マクスヴェルトの書斎も凄かったけど、ここまで散らかってはいなかったよ。読んで良い?」


「良いけど、今マクスヴェルトの書斎って言った?王家直轄冒険者の?」


「うん。そうだよ」


「うそ⁉︎ 入ったの⁈ マクスヴェルトの書斎に⁈ ルナって何者⁈ 」


「色々あってね。僕に魔法を教えてくれたのがマクスヴェルトなんだよ。と言っても、殆ど独学だけどね。それから、因みに僕は弟子じゃ無いよ?足りない知識を補完する手助けをしてもらっただけだし。ていうか、何でフローラがマクスヴェルトの事知ってるの?」


「そりゃあ知ってるわよ。私も魔法使いの端くれだもの。ありとあらゆる魔法を会得した大魔法使いって呼ばれてるし。マクスヴェルトの教えを受けたいって魔法使いは数え切れないほどいるんだから。だけど、どうしてだか弟子をとらないのよねぇ」


「ふーん。でも、最近弟子をとる事にしたって言ってたよ?」


「へ?ちょっとちょっとちょっと!あの誰も弟子をとらない事でも有名なマクスヴェルトが弟子をとったってどういう事⁈ 一体どんな逸材だっていうのよ⁈ 」


「な、なんでも駆け出しの冒険者だって言ってた。飛び抜けた才能がある訳じゃ無いけど、見込みがあるから気に入ったって。……ところでさ、何でそんな事知ってたの?」


 フローラに詰め寄られていたルナの雰囲気が一変した。

 鋭く刺す様な視線がフローラを見据える。


「……」


「どうしたの?ああ、そうか。喋れないのなら手伝ってあげるよ」


 ルナはそう言うと、軽く手を振って何かの魔法を発動させた。


「これは、結界……⁈ 」


 ルナは何も答えず、不敵な笑みを浮かべてフローラの目をじっと見ている。


「どうにもコソコソ覗かれるのは好きじゃ無いんだよね。でも、これで話しやすくなったんじゃない?」


「ル、ルナちゃん。ど、ど、どどど、どういう事ですか?私にはさっぱりですよ⁉︎ 」


「落ち着きなってミーシャ。……ねぇ、教えてよフローラ。弟子の話を知らないって事はだよ?以前は中央に居たって事だよね?マクスヴェルトが展開している“世界を隔てる壁” は文字通りの強力な結界。中央大陸と世界との繋がりを完全に遮断している。近付く事は愚か、干渉する事も出来ない。マクスヴェルト本人の許可が無ければ絶対に通り抜けられないんだ。まあ、この疑問はサラやダストンが北の国に迷い込んだって話を聞いた時から思っていた事だけれど、それにしても変だよね?タイミングよく僕達の前に現れた事といい。帝国の話といい……。不思議だなあって。まさか、とは思うけど……北の女王を唆したのってさぁ……」


「そ、それは……」


「そこまでにしておけ」


 レイヴンはルナが言わんとしている事を理解した上で、それ以上追求するのを遮った。


「えーっ⁈ 何で止めるの⁈ だって、絶対怪しいじゃん!」


「分かっている。仮にそうだったとして、あの国は俺やお前達が到着した時には既に滅んでいた。俺達はそれを無理矢理繋ぎ止めただけに過ぎない」


 そう、あの国は既に滅んでいた。

 フローラ一人にどうこう出来る問題では無い。

 レイヴンとレイヴンが持つ魔剣の力が無ければどうにもならなかっただろう。

 女王が戴冠したのは十年以上前。その頃はまだレイヴンも魔剣を持ってはおらず、フローラの事など知る由も無い。

 フローラが関わっているとしたら、北への道を開き、北の大地へ人間や魔物が集まる様に仕向けた事。


「そうだけど、こんなのおかしいもん!あからさまに変じゃん!」


「勘違いするな。フローラがどうやって結界を越えたのか気にならない訳じゃ無い。だが、今はそんな事はどうでも良い。肝心なのはフローラが俺達に力を貸すかどうかだけだ」


 世界を隔てる壁は、たとえレイヴンの超常の力を持ってしても突破出来ない。

 越えられるとすれば結果の仕組みを完全に理解している場合。それもマクスヴェルトと同じレベルで、だ。


(ステラの様に魔法とは別の力を持っているのだとしたら……。待て、俺は今何でステラが魔法以外の力を持っていると思った?)


「あのお……」


 ミーシャは恐る恐る手を挙げた。


「何だ?」


「もう止めませんか?私にはフローラちゃんが悪い人だとは思えません。きっと何か事情があって……」


「何それ……。甘い!甘過ぎだよ!そんな事言ってるから、いつもいつもレイヴンが厄介事に巻き込まれちゃうんだよ!」


「おい、よせ」


 だが、ルナは止まらない。

 椅子の上に立ったルナはフローラを指差して思いの丈を叫んだ。


「嫌だね!僕はレイヴンが好きだ!クレアもミーシャも好きだ!だけど、フローラは自分の事全然喋らないし、何か隠してるの丸分かりでしょ!レイヴンの力を当てにして利用しようとしているだけじゃないか!何でそれが分からないの⁈ ずっと言わずにいようと思ってたけど、レイヴンはお人好し過ぎるよ!いつもいつもいつも!他人の為にばかり魔剣の力を使って!ニブルヘイムでの件だってそうさ!あんな無茶な力の使い方をしてたらいつかレイヴンは……!!!」


「よせと言っているだろう!!!」


「……ッ⁉︎ 」


 思わずルナを怒鳴ってしまった。

 ルナが心配して言ってくれているというのに……。


「……いいから座れ」


「どうしてなの……?僕はただ、ずっとレイヴンにクレアやミーシャとも一緒に居たいだけなのに……レイヴンは周りの人を助けてばかりで……もしも、レイヴンが居なくなったら僕は……また一人ぼっちじゃないか……もう一人は嫌だ……」


(もっとルナやクレアの気持ちを考えてやるべきだった……)


 ルナが言うようにフローラの目的は魔剣の力なのだろう。

 “他者を救い、己の存在意義を見出す” リヴェリアに言われてからそればかりでは駄目だと気付いたというのに、目の前にいる大切な人の事も見えていない自分に腹が立つ。


 情報を得る事は後々クレアを救う事になる。そんな事ばかりに気を取られていた。

 無茶な力使い方をすればいつか魔物堕ちしてしまう。

 自分では分かっているつもりだったのに、相当な心配をさせていたようだ。



 気不味い空気。

 そんな中、ずっと黙っていたフローラが口を開いた。


「ごめんなさい。ルナの言っている事は正しい。皆んなレイヴンが好きなのも分かってる。……それでも私はレイヴンの力に頼りたい。私の願いを叶える為に……」



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