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指輪の効果

 

 皆が起きたところで早速指輪の話をする事にした。

 先ずは指輪の安全を確認しない事には安易に使えない。ルナの魔法であれば危険物か否かくらいは分かる筈だ。


「ふぅん、ちょっと貸してみて」


「壊すなよ」


「大丈夫だって」


 ルナは朝食のパンを口の中に放り込むと、魔法による解析を試みた。


「へえ……なるほどねぇ。大体分かったよ」


「早いな。それで、どうなんだ?」


 結論として、この指輪は魔の気配を完全に断つ効果がある事が判明した。

 フローラの言っていた事は本当だった訳だが、わざわざ指輪を寄越した意図が分からない。それもきっちり人数分用意されているなんて怪しすぎる。


「んー……面白い指輪だけどさ、この刻まれた模様がいまいちよく分からないのと、もしもこんな物が東の国に普及しているんだとしたら、大変な事になってるかもって事は分かったかな」


「大変?どうして?私は凄く便利だと思うんだけど」


「いや、ルナの言う通りだ。実際に指輪をはめてみない事には何とも言えないが、魔物混じりと普通の人間との見分けがつかないのは厄介だ」


 皮肉な事だが、魔物混じりは禁忌の子として忌避されているからこそ、普通の人間との距離感を保つことが出来ている。

 距離感を危機感と置き換えてもいい。魔物堕ちのリスクを抱えたまま、人間社会に溶け込むのは相当な理解が必要な上に、それに対処出来るだけの実力や環境が必須だ。

 中央の様に高ランク冒険者が常駐しているならまだしも、精々がAランクまでの冒険者しかいない村や町では万が一の場合に対処が難しい。


「この指輪の効果が確かなら、一度フローラちゃんに会って話を聞いてみた方が良いかもですね」


「ああ。このまま森の中にいるわけにもいかないしな。取り敢えずこの指輪をーーーー」


「じゃあ、僕いっちばーん!」


「お、おい!」


 指輪をはめたルナの変化は非常に興味深いものだった。


 まず顕著に現れたのは容姿。

 白い髪が茶色へと変化し、魔物混じり特有の赤い瞳も同じく茶色へと変化した。

 魔の気配は一切感じられず、何処からどう見ても普通の人間にしか見えない。


「わぁ〜!凄い!私もやってみる!」


 クレアの方は白い髪が金色へと変化し、赤い瞳は薄い青色へと変化した。

 ルナと同じく普通の人間にしか見えない。


「どうやら指輪によって現れる効果が多少違う様だな」


「二人共とっても可愛いです!よおし!私も……」


 クレアとルナは早くも指輪を取り替えて遊んでいる。

 しかし、変化が現れるのは最初にはめた指輪の時だけで、指輪を取り替えても何も起こらなかった。


「私は⁈ レイヴンさん、私はどうなってますか⁈ 可愛くなってますか⁉︎ 可愛くなってますよね⁇ 」


「ミーシャは……いつもとあまり変わらないな」


「うえええ⁈ 何でですか⁈ クレアちゃん、ルナちゃん!その指輪を貸してください!私も可愛くなりたいです!」


「お、おい…目的が……」


「どうですか⁉︎ 」


「さっきと同じだ。諦めろ」


「そんなぁ……」


 指輪を取り替えてもミーシャの変化は瞳の色だけ。元々血の混じりが薄く、魔物混じり特有の赤い瞳も片目にしか現れていなかったのもあってか、二人の様に大きな変化は無かった。


「レイヴン!レイヴン!指輪はめたら森の中に道が見えたよ!」


「本当だ!向こうに道が見える!」


 二人が指差した方を見ても、レイヴンには依然として深い森が広がっている様にしか見えない。


「道?俺には何も見えない。それも指輪の効果か?」


「多分ね。魔の気配が消えたからじゃないかな?」


 外部からの侵入者を防ぐ為の仕掛けとしてはかなり大掛かりな気もするが、気になるのは三つの種族の中には魔族と呼ばれる者達がいる事。

 魔の気配を拒む割に領土内には魔族が住んでいるというのもおかしな話だ。


「レイヴンも早く指輪をはめてみなよ。全然違う景色になってるから面白いよ?」


「ああ」


 髪や瞳の色が変わる程度なら問題無い。


 フローラにしてはまともな物を寄越した。

 見直した。


 そう思っていたのも束の間。

 レイヴンが指輪をはめた途端に眩い光が体を包み込んだ。


「なっ……!」


 鏡を見なくても分かる。

 細い指、細い腕、細い足、長い髪。

 そして邪魔にしかならない胸の二つの膨らみ。

 これは紛れもなく、女の体だ。


「レ、レイヴンが……」


「女の人になっちゃった……」


 魂の抜けた抜け殻の様に動かなくなったレイヴン。

 クレアとルナはそんなレイヴンの体をあちこち触ってはしゃいでいた。


(最悪だ……)


「ねえねえ!これ凄いよ!骨格まで変わってるもん!どうなってるの?」


「ミーシャお姉ちゃん。もしかして、これがエリス先生なの?」


「わーっ!クレアちゃん!それは内緒って……!ひいっ!」


 慌ててクレアの口を手で塞いだミーシャであったが、既に手遅れ。

 引き攣った顔のミーシャは、鋭い視線の先を手繰る様にしてレイヴンの様子を伺った。


「え、えっと……」


 レイヴンと知り合ってから幾度となく危険な目に遭ってきた。だが、今この時程背筋の凍る緊張を強いられた事は無いかもしれない。


「おい……。どういう事だ?どうしてクレアが知っている?」


「あ、あ、あ、あのですね!お、思い出の共有と、い、い、言いますか!そ、そのですね……!」


 レイヴンの冷たい視線が容赦無く突き刺さる。

 ミーシャだけに向けられた無言の圧力。呼吸をすることすら忘れてしまいそうになりながらも、ミーシャは必死に弁解を試みた。


 絶対に話すなという約束を破ってしまっのは不味かった。しかし、クレアにだけは話しておいた方が良いと思ったのもまた事実なのだ。


「むー!むー!……ぷはぁ!待ってレイヴン!ミーシャお姉ちゃんから聞き出したのは私なの!だからミーシャお姉ちゃんを怒らないであげて!」


(クレアが?)


 クレアの頼みでは怒るに怒れなくなってしまった。


 レイヴンは仕方なく視線をミーシャへと向け、真相を確認する。

 目に涙を浮かべて全力で首を縦に振るミーシャを見たレイヴンは溜め息を吐いた。


「……あれ程言うなと言っておいただろう」


「ご、ごめんなさいです……」


 ともかく、バレてしまったからには事情を話しておいた方が良い。恥ずかしさはあるが、余計な誤解を招かない為にも仕方がない。


 それにしてもやはりというか、フローラはやっぱりフローラだった。一瞬でも信用した事が悔やまれる。

 おそらく他の指輪をはめても同じ事になるに違いない。

 指輪をはめていなければ正しい道は見えず、東の国に入ることもままならないというのがまた腹が立つ。


「私はレイヴンのその姿も好きだよ?」


「そ、そうか……?なら、良しとするか」


「もう、レイヴンはクレアに甘いなぁ」


「……」


 レイヴンも特に嫌っている訳では無い。興味が無いというのもあるのだが、一方的にこの姿にされてしまった事が気に入らないのと、ランスロット達に笑いのネタにされるのも嫌だと思っていたし、何よりクレアが見たら驚くと思っていたのだ。

 結果的に受け入れられはしたが、少々複雑な気分ではある。


「それじゃあ行こっか。どんな国なのか興味あるしさ」


「フローラちゃんを探さないとですね。この国出身という事なら案内して貰えるかも?」


「別に良いけど、本当に帰って来るの久しぶりだから殆ど分からないわよ?」


「え?でも故郷なんですよね?いくら久しぶりって言っても……って、あれ?私、今誰と?」


「ここよ。ここ!」


 声の先に居たのはフローラの使い魔。

 フクロウは当然の様にレイヴンの頭の上で寛いでいた。



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