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魔除けの森

『魔鋼人形と小人の見る夢』開幕でございます。


年末年始と忙しくなりますので、毎日投稿が難しい事もあるかと思いますが、何卒お付き合い頂ければ幸いです。

宜しくお願い致します。

 

 ニブルヘイム王都を出発してから既に十日。


 レイヴン達は初日に国境を越えたものの、未だ村すら発見出来ないでいた。


 精霊魔法が使える様になったミーシャがツバメちゃんに乗って繰り返し偵察を行っているのだが、見えるのは森だけ。

 果てしなく広がる広大な森は地の果てまでも続いていた。


 幸いミーシャが持っていた鞄にはしばらく食い繋げるだけの食料や野営に役立つ魔具が入っていたので道中困る事は無かったのだが、野営の経験の無いルナとミーシャの顔には疲労の色が見える。クレアは一度ランスロットを交えた三人で旅をした事があるからか、至って平気な様子である。


「うう、何にも見えませんでした。本当にこの地図合ってるんでしょうか?」


 リヴェリアが用意した地図を見る限り、もうそろそろ街が見えても良い頃合いだ。

 縮図が間違っているのかもとも考えたが、ニブルヘイムでは大雑把ながらも大体の距離は合っていたのだ。


「ルナ、何かの魔法で進路を阻害されている可能性はないか?」


「ううん。何の反応も無いよ。魔術の可能性も考慮してみたけど、そっちも何も無し。どうやら天然の迷路に迷い込んだみたい」


「そうか……」


 方角は合っているのに森を抜ける気配も無いとなれば、これはいよいよ不味いかもしれない。こんな森の中で遭難するのは御免だが、下手に動いて現在地を見失ってしまっては元も子もない。


「ツバメちゃんの調子は良い筈なのにどうしてなんでしょう?」


「くるっぽ……」


「ツバメちゃん元気出して…?」


「くるっぽ!」


 風の精霊であるツバメちゃんが何も感知出来ないとなると、この辺りには本当に何も無い可能性がある。


(ミーシャとツバメちゃんが何かを発見するまで大人しくしている他にないか……)


「あーあ。僕が転移魔法使えればなぁ。マクスヴェルトに何度頼んでも教えてくれないんだよ。あと何回か体験すれば原理を掴めそうなのに」


「そう言うな。あいつなりに考えがあるんだろう」


「えー、そうかなぁ?」


 リヴェリアとマクスヴェルトは、クレアとルナの実力を認めているからこそ、教えられない領域について“見えている” のだと思う。

 それはレイヴンも同じだ。


 クレアの事を大切に思うからこそ教えられない領域がある。

 一線を越えない為に。


 先の女王との戦いでも感じたが、クレアとルナの強さは既にSSランク冒険者をも上回ろうとしている。それだけでも驚異的な事なのだが、これ以上踏み込むのはまだ早い。

 そういう判断だ。


「仕方ない。もう直ぐ陽が沈む。今日はこの辺りで野宿にしよう」



 皆が寝静まった頃、見張りの為に起きていたレイヴンは、焚き火に追加の薪を焚べながらマクスヴェルトが言った事を思い出していた。


 東の大陸にあるとされているその国は、中央にそびえ建つ巨大な建物を中心に三つに分かれているという。

 一つは人間族。もう一つは小人族。最後に魔族。

 それぞれが独自の文化を持ち、魔鋼と言われる特殊な技術を用いて生活しているそうだ。


 そうだと言うのは、例のごとくフラリと現れたマクスヴェルトが嫌々ながらも、いつものお喋り好きの勢いで東の国について語ったからだ。

 満足したマクスヴェルトは最後に『あの国の人間は頭が固すぎなんだよ』とだけ言い残して転移魔法でさっさと中央へ帰って行った。


 一体何をしに来たのか。しかし、マクスヴェルトがああまで特定の何かを嫌う発言をするのも珍しい。乗り気では無いにしろ、行くなとは言わなかった辺り、それ程危険な国では無いのだろうと思う。



 一つの国に三つの種族。

 どうしてこんな歪な構造で国として成立しているのか。

 その答えはこの国の長が定めた法に起因する。



『魔鋼の技術を用いて、王の持つ魔鋼人形に勝利した者をこの国の次の王とする』


 一つ、定められた闘技場以外での戦闘行為を禁ずる。


 一つ、王の持つ魔鋼人形に挑む事が出来るのは、予選を勝ち抜いた各種族の代表者三名だけである。


 一つ、互いに協力する事を許可する。


 一つ、魔鋼以外の技術の使用を許可する。


 一つ、挑戦権は全ての国民に等しく与えられるものとし、国が運営する書庫においてのみ、研究に関する書物の閲覧について制限しない。


 一つ、相手に重傷を負わせること、死に至らしめる行為を禁ずる。


 一つ、他者を陥れる、或いは辱める行為を禁ずる。


 一つ、魔鋼の技術を国外へ持ち出すことを禁ずる。


 以上、八ヶ条をもって次代の王を選出する法と定める。

 我こそが王に相応しいと思う者は技術と知恵を絞り魔鋼人形へ挑戦するべし。



 この馬鹿馬鹿しいとすら思える法律が施行されてから数百年。国の技術者達は、たった一体の魔鋼人形を倒すことだけを目標にして日夜研究を重ねているのだと言う。


 魔鋼というのは魔力を帯びた鋼の事で、金属を特殊な技術で加工して様々な物を作っているらしい。

 中央大陸にある魔具に類似する機能を有しているそうだが扱いが難しく、材料になる金属の採掘にも多大な労力と専用の設備が必要となる為、東の大陸以外では普及しなかったそうだ。


 技術を持ち出す事を禁じているのに普及も何も無いように思うのだが、それはまた何か別の事情があるのだろう。


(マクスヴェルトは東の国に住んでいた事がある?ん?)


「レイヴン……」


 クレアが目を覚ました様だ。


「どうした?日の出までまだ少し時間がある。ちゃんと寝ておかないと疲れが取れないぞ」


「だって、レイヴンも寝てない……」


「俺は大丈夫だ。少しくらい寝なくても問題無い。クレアは寝ろ」


「や!私も一緒に起きてる」


(やれやれ……)


「少しだけだぞ」


 レイヴンは自分の隣にクレアを座らせると、焚き火の番を続けることにした。



(……困った。何を話していいのか分からないぞ)


 無理に話す必要は無いかもしれない。こんな時にランスロットやミーシャなら何か気の利いた話をするだろうと思うと、何も浮かばない自分が少々情けなく感じてしまう。


「レイヴン……」


「な、何だ?」


「あの時言った事、レイヴンは魔物堕ちしたりしないよね?そんないつかなんて、来なくて良い……」


「クレア……」


 魔物堕ちしなくて済む方法があるならレイヴンだって知りたい。しかし、現状では気を強く持ち、自分を見失わない様に心掛ける他に有効な対策は無いのだ。


「あーーーーっ!見つけた!って!ちょっとちょっとちょっと!レイヴンじゃないのさ!男に戻ってるし!何で⁉︎ 私が戻してあげるって言ったのに!……あ、ていうか。あんた達こんな所で何してんの?どうやって来たの?森で彷徨いてる連中ってあんた達の事だったのね〜」


「だ、誰⁉︎ 」


 木の枝にいたのは一匹のフクロウ。

 この声には聞き覚えがある。


(確か……)


 このフクロウは確か使い魔と呼ばれる魔法で呼び出された存在だ。


「安心して良い。一応、無害な奴だ。フローラこそ、どうしてこんな所にいる?」


 小人族の魔法使いフローラ。

 風鳴のダンジョンでの依頼を受ける為にレイヴンの容姿を女へと変えた張本人。その後、どうにかマクスヴェルトの魔法で元に戻れたのだが、フローラは元に戻す方法を探すと言ったきり姿を消してしまっていたのだった。


「どうして?おかしな事言うわね。ここは私の故郷だもの。居て当然じゃない。と言っても私も何日か前に戻って来たばかりなんだけど」


「故郷?」


「そうよ。東の国は元々小人族が興した国だもの。入国したいならコレ着けて。魔物混じりは入国出来ないからね。隣の子もそうなんでしょう?」


「……」


 フクロウが投げて寄越したのは小さな袋。中には人数分の指輪が入っていた。

 表面と裏側には見た事のない模様が刻まれている。

 魔具の類いにしては僅かな魔力しか感じ無い。


「この森は魔除けの森って言ってね。外から入って来る魔物の気配を感知すると迷路みたいになって侵入を防ぐ役割があるのよ。魔法でも魔術でも無い自然の力を利用した結界ってところかしらね。とにかく、その指輪を着けてなきゃ入れないからね。じゃ!私はこれで!もう眠くって、ふああぁぁぁぁ……」


「お、おい!待て!まだ聞きたい事が……!」


 フクロウはレイヴンの制止を無視して音も無く東の空へ飛び立っていってしまった。


「んー……煩いなぁ。何なの?まだ暗いじゃん……」


「いや、何でも無い。朝になったら起こしてやるから寝てろ」


「ふあぁい……」


 ルナはツバメちゃんに顔を埋める様にして再び眠りについた。

 ミーシャは全く起きる様子が無い。余程疲れていたのだろう。



「レイヴン、今のは?」


「ふむ……。悪い奴…では無いんだがな。夜が明けたら皆と話してみよう」


 入国する為にこの指輪をはめる必要が本当にあるのだとしても、フローラが寄越したというだけで信用出来無い。

 当然だ。自分でかけた魔法を解除出来無い様な魔法使いをどうして信用出来るものか。


 レイヴンは一先ず朝になってから皆を交えて話をする事にした。



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