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悪魔の本性

 上半身を迫り出す様にした女王は殆ど人の形をしていないにも関わらず生きていた。

 レイナの触手に貫かれて開いた筈の穴は盛り上がった肉で塞がれていた。


「盗人が……これは妾の物ぞ!!!」


 レイナの触手に握られていた水晶と秘宝を奪おうとした女王をレイヴンが問答無用で両断しようとしたが、またレイナの体の中へ入ってしまった。


(面倒な……)


 体の中へ入ってしまえば手が出せない。

 そう思っているのなら間違いだ。


「何をするつもりだレイヴン⁉︎ 」


「くだらん茶番に付き合っていられるか」


 レイヴンは徐に剣を振り上げる。


 こちらがどう動くかも分からない内から勝手な事ばかり。そんな事に付き合ってなどいられない。


「や、止めろおおおおお!!!」


 カイトの制止を無視したレイヴンの剣は巨大なレイナの体を横なぎに切り裂いた。


 激痛でもがくレイナの巨体は結界に打ち付けられては弾かれ、臓物を撒き散らしながらのたうち回っていた。巨大になり過ぎたレイナの体が引き起こす衝撃が大地を揺るがす。

 紫色の魔力も霧散して人間の姿を維持出来なくなっている様だ。


「レイヴン!貴様あああああ!!!」


 レイナの触手の力が緩んだ隙に抜け出したカイトが殴り掛かろうとするのを躱したレイヴンは淡々と告げる。


「知った事か。今まで散々人間を殺して来て、自分の大切な者だけ助ける?そんな道理が通用するか。お前達を生かしたのは理由が気になっただけだ。死ねば終わりなどと考えているのなら、望み通り殺してやる。それが、お前の大切なレイナの望みなのだろう?」


 そう言ったレイヴンは悪魔であるカイトを視線だけで動けなくしてしまった。


 殺気が込められている訳でも無いのに、動いたら斬られるというカイトの本能が働いていた。実際、動けたとしてカイトではレイヴンを止められない。


「……ぐっ」


 とことが、腰に下げた奇妙な装飾の短剣も抜かないまま睨みつける事しか出来ないカイトの姿を見たレイヴンは落胆していた。


 結局は口だけなのかと。


「ああそうだよ!だけど、仕方が無かったんだ!俺は低級の悪魔だ。魔物を操ったり人間の心を操ったりは出来るけど、レイヴンみたいな戦う力は無い……。だったら使える物は全部使うしか無いじゃないか⁉︎ 本当は殺しなんてしたくも無いし、死体を見るのも嫌だ。それでも他に方法が無かったんだ……!俺の力だけじゃレイナの望みを叶えてやれないんだ!」


「……」


「悪魔のくせにって思ってるんだろ?……笑いたければ笑えばいいさ。けど、それの何がいけない⁉︎ 」


「……それがお前の本性か」


「そうさ……全部演技さ。こうでもしなきゃ俺は……」



 嘘を嫌い、自身も嘘を吐かない。

 けれど、願いを口にしたのなら動かなければ、それは嘘だ。


 力が無いから諦める?

 叶わないから諦める?


 そんな物は全部、自分に都合の良い言い訳だ。

 力が無くとも、叶わないと知っていても、それでも嘘にしない為に自分の力で足掻くべきだ。助けが必要な事もあるだろう。けれど、カイトの様なやり方では駄目だ。他に選択肢が無かったとしても、他人の命を奪って良い理由にはならない。


 確かに全ての願いが叶う訳じゃ無い。


 どんなに力があっても、どんなに願っても、どうにもならない現実というのはある。


 だとしても、何もせずに諦めてしまうよりは良い。

 手を伸ばし、確かな一歩を踏み出したなら、それは更なる願いへの糧となる。



「結局お前は嘘が嫌いだと言いながら自分に嘘を吐いていた。悪魔のくせに腰抜けな奴め。もう動けないのなら黙って見ていろ」


「……」


 カイトは何も言い返せなかった。

 悪魔であるカイトにとって、レイヴンが言ったようにこの国がどうなろうと知った事では無い。全てはレイナの為。レイナがそう望んでいると思っていたからこそ、魔物堕ちしてしまったレイナを匿い、本当はやりたくも無い殺しをしてまで餌を用意した。女王に対抗する為の力を蓄える必要があったからだ。

 レイヴンの力を当てにしたのは事実だ。けれど、それは水晶と秘宝の力を使ってもレイナを元の姿に戻せなかった場合、万が一に備えての事のつもりだったのだ。


(はあ……。やれやれ、世話のかかる悪魔だ)


「いつまでそうしているつもりだ?お前が自分の言葉を嘘にするかしないかは、たった今から証明すれば良いだけだろう。レイナから女王を引きずり出して始末する。あれはもう魔物堕ちしているからな。さっさと終わらせるぞ」


「レイヴン……何故だ?」


「何故?レイナを助けたいのでは無いのか?力を貸せと言ったのはお前だぞ。それも嘘なのか?」


「だ、だが、レイナを……」


 こちらの言葉に耳も貸さず、レイナを切り裂いておきながら今更何を言うのか。

 そんな思いがカイトの中に渦巻いていた。


「動揺し過ぎだ。考えてもみろ、あれだけの巨体だぞ?心配しなくとも、あの程度で死んだりしない。女王へ隠れても無駄だと教えただけだ」


「それじゃあ……」



「この蛆虫共がーーーー!!!許サン!絶対ニ生かしてはおかぬ!ココハ……コ、ココハ!ワラワノ国ゾ!!!」



 女王の怒声が響き、横たわって倒れていたレイナの体が起き上がった。

 レイヴンが斬った部分は既に再生している。


「しつこい奴だ」


 完全に魔物堕ちした女王は水晶と秘宝、そして更にレイナの体までも取り込んでしまった。

 膨れ上がった肉が形を変え、上半身が巨大な女王の姿へと変化していく。胸の辺りにレイナの本体が飲み込まれているのが見えた。


「どう言う事だ⁉︎ お前の力では今のレイナを取り込むなんて出来ない筈なのに……」


(もう理性を失いかけているな。それより……)


 あの姿になったのは水晶と秘宝とやらの力が関係しているのだろう。それよりも魔物堕ちした魔物混じりが二体同化している事の方が気になる。


「おい、魔物混じりが魔物堕ちした場合、血の繋がりがあれば同化が可能なのか?」


「そんな訳ないだろ!魔物堕ちすればいずれ完全に理性は無くなる。レイナが意識を保っていられたのは、精神を切り離していたからだ。……だが、それにもかなりの魔力が必要だ。これではもうレイナを元の姿に戻してやれない……くそ!くそ!くそ!何もかも失敗だ!」


 魔物堕ちした魔物混じり二体と体中に埋め込まれた魔核。

 厄介な事この上無い。

 しかし、レイナの精神がもしもまだ無事なら、まだ打つ手はある。


「そうでもない。諦めるのはまだ早い」


 魔剣の力を使えばレイナを人間に戻す事は出来る。問題はレイナと同化した女王をどうするかだ。倒すだけであれば造作も無い。しかし、どういう状態になっているのか分からないまま攻撃すればレイナまで巻き込んでしまう。


「「レイヴーーーン!」」


(来たか)


 そろそろ来るだろうと思っていた絶妙のタイミングでクレアとルナが到着した。


「ランスロットとカレンは一緒では無いのか?」


「ミーシャお姉ちゃんがいるから残るって言ってた」


「あ……」


「え?もしかして忘れてたの?」


「い、いや。それより、お前達二人に頼みたい事がある」

いつも読んで頂きありがとうございます。


仕事の都合により、11月20日の投稿はお休みとなります。

次回更新は11月21日、夜を予定しております。

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