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追いかけたい背中を見る為に

 カレンの先導によって王都へ辿り着いたランスロット達は、魔物の群れに襲われる王都を見るなり、間髪入れずに突撃して行った。


「三人共足を止めるな!各々前方の敵だけ斬り伏せろ!ルナは魔力の温存だ!私から離れるなよ?」


「分かってるよ!ていうか!僕に命令して良いのはレイヴンだけなんだから!」


「あははは!その意気だ!」


 こんな少人数で万を超える魔物の群れに突っ込んで行くなんて正気では無い。

 魔物一体ずつは弱くとも、これだけの数を相手にするのは無謀過ぎる。囲まれて動きを封じられた上に、圧倒的な数の力で押し潰されてしまうのがオチだ。

 そうならなかったのは魔物の群れを見たカレンの瞬時の判断と“言霊” による能力向上の恩恵があったから。そして何より、先頭を突っ走るカレンの突破力がずば抜けている事が大きい。


「まさか、また魔物の群れに突っ込んで行く事になるとは思わなかったぜ」


「ランスロット、カレンさんって何者なの?」


「ん?ああ、カレンは本当なら王家直轄冒険者になる筈だった実力の持ち主だ。もう気付いていると思うけどな、今俺達が普段以上の実力が出せているのもカレンの能力だ」


「レイヴンと同じ……。そうだったんだ。それで……」


 クレアは先頭を走るカレンの背中を見ながら動きの一つ一つを目に焼き付けて行く事にした。大好きなレイヴンと並ぶ程の実力者であれば、学ぶ事は多い。少しでもレイヴンに追い付く為には自分よりも強い者の戦いを間近で見るのが一番良い。


「ふふふ、そんなに見つめられるとお姉さんちょっと恥ずかしいかも」


「んな事はいいから前見ろ、前!」


「この程度でビビっちゃってまあ……昔の無鉄砲さはどうしたの?」


「俺だってちったあ成長してるっつうの!」


 カレンは冗談を言いながらもランスロットの動きを観察していた。

 昔とは違う洗練された剣筋。バランス良く鍛えられた体は確かに当時よりも強くなっている。けれど、同時に物足りなさを感じていた。

 お手本の様な動きはランスロットの内にある戦闘本能を十分に活かしているとは言い難い。研ぎ澄まされた技の中に見え隠れする野生の本性は弱々しく、死地に立っている者の気配を感じ無い。


「成長ねえ……その戦い方はいつから?」


「あん?何で今そんな事聞くんだよ?お前と違ってこっちは手一杯だっての!」


「良いから早く答えなさい。ほらほらほら!」


「チッ!あんま話したくねぇってのに……。一度しか言わねえからな!」


 クレアとルナも興味津々といった様子で耳を傾ける。


 ランスロットは今の戦い方に落ち着いた理由を順を追いながら簡潔に話した。


「なるほどね。あんたやっぱり馬鹿なのね」


「んだとコラ!人がせっかく話したくもねぇ昔話してやったってのに!」


 ランスロットを見るカレンの目の色が変わる。


「陣形を組み替える!ランスロットが先頭!ルナはランスロットの直ぐ後ろについて適時回復魔法を!クレアと私は後方について右翼左翼の敵を撃滅!以上!行動開始!」


「「はい!」」


「ちょ⁈ マジかよ!うおっ……!」


「貫け!」


 間一髪、ルナの放った雷撃が正面の魔物を焼き焦がしていった。


「た、助かったぜルナ!」


「しっかりしてよ!もう!」


 だが、ランスロットが先頭になった事で見る間に速度が落ちていく。前衛職として数々のダンジョンで無茶をやって来たランスロットでも、これだけの魔物の圧力を突破するだけの力は無い。

 魔物の群れの中で立ち往生する事にでもなったらという焦りからランスロットの剣が乱れ始めていた。


「馬鹿者!速度を上げろ!後ろにはクレアとルナがいるのだ!根性を見せんか!根性を!」


「この……!無茶言うなよ!お前みたいにやれる訳ねぇだろ!」


「いいや、出来る。お前は自分で力を抑えてしまっている。本当のお前ならこのくらい造作も無い筈だ。窮地に陥っても尚、見せかけの技に頼るのなら、お前はいつまでたっても馬鹿のままだ!理想と現実は違う!お前はお前だろう!」


「く……こぉんのぉ!!!」


 ランスロットの戦い方が徐々に本来ね動きに戻っていくのを見たカレンは、しめたとばかりに更に捲し立てた。

 実際のところ、久しぶりに見たランスロットは以前よりも格段に強くなっている。戦闘能力だけならカレンの部下以上だ。けれど、ランスロットの戦い方は見ていて窮屈なのだ。

 今でもレイヴンを追いかけていた事に感心……いや、呆れた一方で、がむしゃらに剣を振るっていた時の覇気が消えていたのには落胆した。


 ランスロットは小綺麗な技で戦うよりも本能に任せて闘争心を前面に押し出した戦い方の方が合っている。無論、それをしない理由も分かっているつもりだ。


「どうした!そんな物か?」


「うるせえ!」


 全ての原因はレイヴンだ。

 大方レイヴンと同じ戦い方をする事で追い付こうとしているのだろうが、それはとんだ勘違いだ。


 レイヴンの戦闘における本質は野生。生きる為に死に物狂いで足掻いて磨き上げた剣。本能の赴くままに剣を振るう。けれど、相手を殺すのは己が生を掴み取る為だと分かっている。普段のレイヴンはそれを表に出さない様に振舞っているだけなのだ。

 一番近くでレイヴンの戦いを見て来たランスロットがそんな事も気付けていないとは情けない。


(いいえ、気付いてはいても、ってところかしら……本当に馬鹿ねえ)


「クレアもよく聞いておきなさい。見たところ、お前の剣には複数の癖があるな。他人の技や動きを見て学ぶのも良いが、自分の剣を見つけないとこの先苦労するぞ」


「……‼︎ 」


 ほんの少し動きを見ただけで癖を見抜かれた事にクレアは驚きを隠せない。

 けれど、妙に納得もしていた。

 自分の戦い方を身に付けるという案はレイヴンも言っていた。一目見ただけで相手の技を吸収してしまうクレアに余計な癖が付かない様にと提案したのもレイヴンだ。

 そのレイヴンと同じ事を言うカレンはやはり凄いと素直に思えた。


「良いか!くだらん意地を張るな!お前達が見ている背中に追い付きたいのなら本能に従え!体に委ねろ!高みに登りたいのなら小手先の技に頼るな!レイヴンはそのずっと先にいると知れ!!!」


 レイヴンに追い付く、或は追い付きたいと考えるという事は、単に力を付けるだけでは駄目だ。それでは足りない。全然まったく足りていない。

 そもそも戦う理由が違うのだから当然だ。

 闘争本能の根源にあるのは生存本能。それを最大限高めなければ、レイヴンに追い付くどころか、背中さえ見るのも不可能だ。


「そうだ……生きようとする意志は何よりも強い」


 クレアの呟いた言葉は、かつてレイヴンがクレアへ贈った言葉。生きる事を諦めない強い意志がクレアを人間の側へ引き戻した。

 生きようと足掻く事は、それ自体が戦いなのだ。


「……へえ、分かってるじゃない。そうだ!生きようと足掻け!先ずはそこからだ!」


「くっそお、何だか上手く乗せられちまった気もするけど、確かにその通りだよな……。」


 ランスロットの口が獰猛に吊り上がると、徐々に速度が上がって来た。

 乱れていた剣筋は猛々しく魔物を両断していく。

 そしてクレアもまた、剣を振るう速度を上げていた。筋力で劣るクレアに出来るのは有無を言わせ無い神速の剣尖による致命の一撃を叩き込む事。今はこの群れを突破する事が最優先だ。であれば、例え一撃で倒せなくとも道を切り開けさえすれば良い。


「あははは!二人共やれば出来るじゃないか!」


「うるせえっつうの!俺だって薄々は分かってたんだ。それをーーーーー」


「ありがとう!カレンさん!」


「くうぅぅ!ああ!今直ぐ抱きしめたいかも!」


「ちょっとお!二人にだけズルイよ!僕にも何か無いの⁉︎ 」


 頬を膨らませたルナがカレンに向かって抗議して来た。


 ルナはカレンから見てもかなり面白い存在だ。

 魔法使いと呼ばれる者の多くは直接戦闘に弱く、威力の高い魔法を発動させようとすれば長い詠唱と集中力を要する。どうしても隙が多くなる。

 その点、ルナは冒険者で例えるところのAランク以上に相当する直接戦闘能力がある。しかも、高度な魔法の発動に呪文の詠唱を必要としない。おまけに幼い外見とは裏腹に頭も切れるときている。

 ルナが一人いるだけで、パーティーの生存確率は格段に向上する。

 正直に言って喉から手が出る程欲しい逸材だ。


「生憎、魔法は私の専門では無い。だが、そうだな。戦いの流れを読め」


「えー⁉︎ 何それ雑過ぎるよ!」


「まあ聞け」


 マクスヴェルトの様に単騎でも立ち回る事の出来る魔法使いは少ない。

 あくまでも一般的な魔法使いは支援に徹するのがもっとも効率が良いとされている。それは魔法そのものが大きな力を持つからだ。

 攻撃魔法だろうが、回復魔法だろうが共に戦う仲間に与える影響は大きく、使い方を誤れば甚大な被害が出る。であればこそ、戦闘の流れを読んで的確な支援を行う事が重要になる。


「マクスヴェルトはそういうの気にしていないみたいだったけど?むしろ全部吹き飛ばして終わりって感じだった」


「そんな物は参考にするな。あいつは魔法使いとしては規格外過ぎる。戦闘の流れを読んで誰が何の支援を求めているのかを察するのは大切な事だ。戦況を変えるのは何も大魔法だけでは無い。例えばーーーーーー」


「いやあああああああ!!!誰か助けて下さいですぅーーーー!!!降ろしてーーーーー!!!」


 なんとも言えない悲痛な叫びが唐突にカレンの言葉を遮った。


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