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主導権

すみません。遅くなりました。

宜しくお願いします。

 カイトと女王。対峙する二人を交互に見たレイヴンはゆっくりと本城と東塔を繋ぐ通路に降り立った。

 その場にいた誰もが、圧倒的な威圧感を漂わせるレイヴンの登場に身動き一つ出来ないでいた。


 最初に動いたのは女王だった。

 全く想定していなかった展開に女王の怒りは増すばかりだ。


「何者じゃと聞いておる!妾の邪魔をする者は容赦せぬぞ!」


 そして、これを好機とみたのはカイトだ。

 様変わりしたレイヴンには驚いたが、見方に引き込めればしめた物だと考えていた。


「レイヴン!そいつがこの国の女王だ!奴を倒せば全て終わる!力を貸してくれ!」


「レイヴンじゃと?」


 二人の声は確かに聞こえている筈なのにレイヴンは少し俯いたまま何の反応も見せなかった。


 レイヴンははっきりとしない思考のまま、どう動くべきか考えあぐねていた。

 何やら偉そうな物言いの女がこの国の女王と言うのなら、この現状を引き起こした張本人だ。一方で、助けを求めて来たカイトもまた、この現状に関係している当事者。サラやダストン達を苦しめた張本人だ。

 一つ分からないのは、これだけの数の悪魔が存在しているのに、おそらくレイヴンと同じ魔物混じりである女王が平然としている事だ。しかも、魔物と同じ様に操っている。


「どうしたレイヴン⁈ その女を倒せばこの国は救われるんだぞ⁈ 」


「黙れ悪魔風情が!ここは妾の国ぞ!貴様達が余計な事をしなければ民は安穏としていられたであろうに!それを!」



 どちらも悪。

 であれば、やる事は一つだ。


 ーーーーーーーーどちらも死ねば、それで終わり。



 レイヴンの纏う空気が一変する。

 呼吸をする事すら忘れてしまう冷たい気配を受けて、動きを止めていた悪魔と魔物達が一斉に悲鳴を上げて逃げ始めた。


「「……ッ!!!」」


 それは明確に向けられた殺意。

 翼を羽ばたかせたレイヴンの魔力が急激に増大していくのを見たカイトと女王は、同時にレイヴンから距離を取った。


 ただ立っているだけでも尋常で無い力を纏っていたというのに、更に力が増大するなど誰が想像出来るというのか。

 レイヴンの振るう剣は、たった一振りで城壁ごと魔物の群れを薙ぎ払っていく。


「ええい!!!どいつもこいつも妾の国を滅茶苦茶にしおって!行け!妾の忠実なる僕!あの魔物混じり諸共八つ裂きにしてしまえ!!!」


 形勢不利とみた女王は新たな魔物を大量に召喚して、その隙にどうにか逃げようとしていた。

 あれだけの事を言っておきながら何とも無様な格好ではあるが、今はそれが正しい判断だとカイトも感じていた。


 レイヴンの様子は明らかにおかしい。

 黒い鎧姿も、不気味な装飾の魔剣も、そしてレイヴン本人から感じる途方も無い力も、何もかもがカイトの想定を遥かに上回っている。まともに戦って勝てる相手では無い。

 何よりあれだけ美しく輝いていたレイヴンの魂に霧がかかった様に曇っている。


(……いやはや、まさか悪魔である俺が震えるだなんて。想定外だけど、概ね期待通りだ。予定とかなり違うけど仕方ないか……)


 レイヴンがどうしてこうなってしまったのかは分からない。けれども、これだけの力を内包していたというのは嬉しい誤算だ。


 カイトはニヤリと唇を吊り上げた後、叫んだ。


「レイナ!演技は終わりだ!地上へ出て餌を喰らえ!!!」


 カイトの命令で魔物の群れに覆われて動きを封じられていた筈のレイナが動き出した。


 王都を揺らす地揺れと共に地中に埋まったままだったレイナの巨大な体が地上へ迫り上がって来るのを見た女王は、この時初めて狼狽えていた。


 万全を期して召喚した悪魔も魔物も役に立たないなど認められる物では無い。力を隠していたとは言え、カイトとレイナは数で圧倒しさえすれば、まだどうにかなるかもしれない。けれど、突如現れたこの魔物混じりは無理だ。どんなに数を増やそうがどうにもならない。こんな化け物が自分が眠りについている間に入り込んでいたなど……。


「おのれ!おのれ!おのれ!」


 女王は言わずにはいられなかった。


「何故じゃ⁉︎ どうしてなのじゃ!妾はこの国の女王であるぞ!」


 不出来な娘の謀反を鎮圧し、元の権勢を取り戻すつもりが全て台無しになってしまった。


「だから言ったろ?あまり悪魔を舐めない方が良いって。俺は嘘が嫌いなんだ。でも、なかなかの演技だっただろ?」


「き、貴様……ッ!」


 レイナの全身に埋め込まれた魔核が赤く光り、膨れ上がった体に更なる力を与えていく。既に魔物堕ちしていなければ耐えられないであろう力の奔流。新たに地上へ露出した体は取り付いていた魔物を直接吸収し始めた。


 依然として女王が召喚した悪魔と魔物は際限無く影から湧いて来る。

 レイナはそれらを片っ端から吸収していった。


「話の途中の様だが、もう終わりだ。お前達を殺せばこの国は救われる」


 レイヴンは女王の召喚した魔物の群れを物ともせずに歩き出した。

 しかし、その足取りは遅々としていて重い。

 赤い目の輝きは、どこか虚で捉え所の無く、少し濁っている様に見えた。


「殺せば、か。レイヴン……。どうやら、今の君は正常な状態ではないらしいね。それに、協力してくれとは言ったけれど、女王を排除するのは君の役目では無いよ。レイナがやらなければ意味が無いんだ。レイナ!」


 伸びた触手が逃げようとしていた女王へと迫る。

 魔物が盾になろうと動くが、今度はレイナの放った触手を防ぐ事が出来ずに無抵抗のまま貫かれて行った。


「おっと。君には暫く眠ってもらうよ?」


 数百にも及ぶ魔核の力を得たレイナをも上回る力を持つレイヴン。

 物理的に止めるのは不可能だ。しかし、手はある。


「レイナ!」


「……!ぐあああああああああッ!!!」


 レイヴンを襲う強烈な痛み。

 頭の中を掻き回される様な音の反響に、堪らず地面に膝を付き崩れ落ちた。

 魔剣は力を失い、全身を覆っていた漆黒の鎧も黒い霧となって消えてしまった。


 もがき苦しむレイヴンを見下ろしたカイトは、意識を失いかけているレイヴンに向かって種明かしをした。


「共鳴だよ。君の様な力の強い魔物混じりにはさぞかし辛いだろうね。と言っても、こちらの方にはもう意味が無いかな?」


 レイナの触手が貫いた先には、既に事切れた女王の姿があった。


 全身を触手に貫かれ、無事な箇所は一つもない。

 呆気ない程に無惨な最期であった。


「手間をかけた割に呆気なかった……けど、本番はこれから」


 赤い月は元の色に戻り、王都を覆っていた影も消えて無くなった。残されたのは大量の悪魔と魔物だけ。


「レイヴン。君の力を借りたいのは今じゃ無い。暫く眠っていてくれ」


「ぐぅ……カイ……ト……きさ、ま……」


「悪いね。私……いや、俺とレイナにはまだやる事があるんだ。俺を殺すのはそれからにしてくれると助かるよ。お休み、レイヴン」


 完全に意識を失ったレイヴンを残してカイトとレイナは王都の中央部に向かって移動を開始した。




「いろいろと予定が狂ってしまった。でも、どうにか主導権は握れたな。ん?これは……レイナ?

 」


 それは赤い涙。

 醜く膨れ上がった肉の塊の奥にあるレイナの本体が流す涙であった。


「分かってる。もう少しの辛抱だ……」


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