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来訪者 後編

 最後の通路を封鎖して戻って来たレイヴンは鎧を解いてランスロットの元へ直行した。

 サラやサラの仲間達が口々にレイヴンの安否を気遣ったり感謝の言葉を投げかけているというのに全く聞く耳を持てないでいた。


「ランスロット……」


「おう!意外と時間がかかったな。途中凄え音が響いてたけど、何かあったのか?」


「面倒……いや、マズい事になった。今すぐに北の街へ戻るぞ」


「は?」


 レイヴンの顔は真剣そのもの。こんな辺鄙な場所にある封鎖されたダンジョンにレイヴンが手こずる様な魔物がいるとは考えられない。だとすれば別の理由だ。

 しかし、レイヴンはやや汗ばんだ顔で視線もどこか宙を彷徨っている様な印象を受ける。酷く焦っている様な、どこか落ち着かない態度にランスロットは何か異常事態が起こっていると察した。

 長い付き合いだ。無愛想な顔をしていたってこのくらいの変化は読み取れる。


「ここの連中はどうするんだよ?北の街まで連れて行くのか?」


「いや。それはしない。サラ達はこの場に留まっても問題無い」


「じゃあ何が問題なんだよ?」


 サラ達が残っても良いとは既にこの場所は安全だと言ってるのと同じだ。であれば、尚更レイヴンが焦っている意味が分からない。


「そ、それは……とにかく北へ向かう。俺達は早くここを離れるべきだ」


 レイヴンの話は要領を得ない。焦っているのは分かるのだが、一向に理由を話そうとしない。こんな曖昧な態度を取るなんて事は今まで……。

 そこまで考えたランスロットは、非常に薄い可能性に辿り着いた。

 それは非常に薄く低い可能性。万が一の一だ。けれど、絶対に無いとは言い切れない嫌な予感というヤツがランスロットの頭をよぎった。


「ま、まさかとは思うが……レイヴン……もしかして……居たのか?」


 レイヴンは露骨に視線を逸らして頷いた。


 流石にこの反応はおかしい。

 どうやら嫌な予感が的中した様だ。


「……居た。相も変わらず人の話を聞かない。鎧を着たままだった俺も悪いが、全員で襲い掛かって来た」


「うわぁ……。遠征出てから何処に行ったかまでは聞いてなかったからなぁ。パラダイムにレイヴン迎えに行った後も放置してたし……。ていうか、何で外界にいるんだ?」


「知らん。こっちが聞きたい。とにかく、此処はもう暫くは安全だ。さっさとクレアの元へ戻るぞ」


 二人の慌ただしい様子を見たサラ達は呆気に取られていた。


 ランスロットは時間がかかったと言ったが、サラ達にしてみればほんの僅かな時間でレイヴンは戻って来た。ダンジョンに湧いた魔物を倒して無傷で帰って来たばかりか、通路もきっちり塞いで来たという。

 レイヴンの戦闘を見ていない者でもその異常さに気付く。住人達の中には腰を抜かしてしまった者までいるのだ。


「ちょっと待ってレイヴン!まだ、ちゃんとお礼を……!」


「サラ。もしも、もしもの話だが、金髪でつり目の女が来たら俺達の居場所は話さないでくれ」


「え?どういう事?その女の人は敵なの?」


「敵じゃねえけど、まあ……なんだ、知り合いっちゃあ知り合いだわな」


「……?全然言ってる意味が分からないわよ?」


「性格はアレだが、頼れる奴だ。もし現れたら助力を乞うのも良いだろう」


 彼女は無鉄砲に見えて仲間達からの信頼は厚い。戦闘能力もズバ抜けて高く、王家直轄冒険者の候補にまで名が挙がった人物だ。

 結局そうはならなかったのは、レイヴン以上の風来坊で称号を授ける式典をすっぽかしたからだ。


「おい、早く行こうぜ!」


「ああ。それとサラ、すまないが入り口を壊してしまった。地上への入り口は塞いで行くから俺達が戻って来るまでは……」


(しまった……)


 レイヴンはダストンの事を忘れていた事を思い出した。

 おそらくまだ治療中と思われるダストンをサラ達の元へ連れて来る約束だった。


「どうしたの?」


 事情は一旦置いておいたとしても、例えどんな状態であれサラをダストンに会わせてやりたい。


「いや、何でもない。ダストンを連れて戻って来る。それまでーーーー」


「うおおおおりゃあああああ!!!」


「「「……ッ!!!」」」


 何者かの叫び声が頭上から響いたのと同時に激しい揺れがレイヴン達を襲った。


「な、何だあ⁈ 」


「遅かったか……」


 天井の岩盤は崩れ落ちて大きな穴が開いていた。

 そのぽっかりと空いた穴から顔を覗かせたのは先程の女だ。


「あ!いた!いた!私の勘はやっぱり正しかったみたいね!うんうん!私偉い!」


 塞がった通路を迂回して上の階層から直接やって来たのだろう。

 正直言ってここまでやるとは予想外だ。


「おいおい、本当に来ちまった……。どうするんだよ?構ってる暇なんかねぇぞ……」


 来てしまったものは仕方ない。

 面倒でも手短に済ませる他無いだろう。


「ランスロットは先に戻れ。俺がどうにか話してみる……」


「大丈夫か?顔色悪いぞ?」


「も、問題無い」


 上で何やら騒がしい話声が聞こえる。どうやら全員降りてくるかどうかで揉めている様だ。

 今いる広間の天井はかなり高い。長いロープがあったとしても、訓練を受けた者でなければ難しく、慣れた者でもかなりの危険を伴うだろう。かと言って一思いに飛び降りるにはレイヴンでも少し戸惑うくらいに高い。


「何?何なの⁈ レイヴンの知り合いってもしかして今の人⁇ 」


「ああ。本当に頼れる奴なんだ……」


「ええ?」


 行動は無茶苦茶な奴だが本当に頼りになる奴なのは間違いない。

 レイヴンがこれまで借りて来た知識の大半は奴から拝借した物が多い。


「とうっ!」


 燃え盛る炎の塊が妙な掛け声と共に飛び降りた。


 紅蓮の鎧はただ炎を纏っただけの物では無い。魔力を帯びた炎は鎧として全身が手甲と同じ強度を持ち、尚且つ触れた相手を焼き尽くす。常識の通用しない攻めの鎧だ。

 おまけに獲物を持たない素手主体の戦闘スタイルと抜群に相性が良い。攻撃が当たらなくとも近付くだけで息も出来ない程の強烈な炎と熱が相手を苦しめる上に、レイヴンですら手を焼く機動力で距離を取るのも難しいのだ。

 実際、黒い翼無しでは逃げるのは難しい。


 重量を感じさせない軽やかな着地……とはいかずに盛大に地面を砕いて着地した。


 悲鳴を上げて逃げる住人達をサラと仲間が避難させていた。


「あはははははは!失敗!失敗!普通に飛び降りた方が良かったかも。私、反省!」


「「……」」


 砕けた巨岩を押し除けながらレイヴン達のいる方に向かって歩いて来る。


「いやあ〜、やっと会えたのは良かったんだけどさあ……随分待たせてくれたじゃないの。ええ?馬鹿ランスロットもお使いに行ったっきり返事も寄越さないしさぁ。レイヴンは相変わらずって感じだから特に何にも言うつもりは無いんだけど、二人して何してたわけ?お姉さんに言ってごらん?」


 顔に巻いた布を解いて大きめの眼鏡を外して素顔を晒す。


「「「おおおお〜……」」」


 遠巻きに見ていた住人達の中から感嘆の声が漏れる。


 体の線がくっきりと分かる服装に少し癖の付いた金髪の長い髪。吊り上がった目と左右色違いの瞳が印象的だ。

 魔物混じりである事を示す赤とリヴェリアと同じ金色の目を持つ美女は獰猛な笑みを浮かべて拳を打ち合わせた。


「お、落ち着けよ。いろいろこっちも大変だったんだって!な、なあ?レイヴン⁈ 」


「あ、ああ。大変……だった」


「大変?知ってるわよ?ミーシャがいろいろと話してくれたもの」


「ミーシャが?」


「あ、あの野郎……!いつの間に!」


 ミーシャが動いたという事は手を回したのはリヴェリアだろう。


(余計な真似を……)


 実際の所、リヴェリアは関与していない。だが、二人はそんな事を知る由も無かった。


「ちょっと待ってよ!貴女一体何なの⁈ せっかくレイヴンがダンジョンとの道を塞いでくれたのに!天井にあんな大きな穴なんか開けたら魔物が入って来ちゃうじゃない!」


「ん?ああ、それは悪かった。後で塞いでおくから安心して良いよ。それから私の名前はカレンだ。誰も知らない未発見ダンジョンを探して攻略をしている。皆からは団長なんて呼ばれたりもしているな。カレンでも団長でも好きな方で呼ぶと良い!私的にはカレンちゃんかカレンお姉ちゃんが良いな!」


「好きな方で呼べって言ったじゃねぇか……」


「ああ。言ったな」


「あん?何だって⁈ 」


「「……」」


 豊満な胸を揺らして自己紹介した団長を見たレイヴンとランスロットは、誰にも聞こえない様に溜め息を吐いた。


「ホントにどうすんだよ……」


「俺に聞くな」


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