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来訪者 中編

 

 ダンジョンの中は地上に比べてかなり暑かった。

 一般的にダンジョンは地熱の影響を受けたりはしない。それは瘴気が地下熱すら取り込んで魔物を生み出す力に変換しているからだと言われている。

 地上であれば動植物の持つ生気を糧に魔物を生み出す。その力が大きければ大きい程、強力な魔物が生まれるのだ。

 故に、吸収した生気や魔力の性質を持ち合わせた個体となる。つまり、瘴気の濃さだけが魔物の強さを決めるのでは無く、どんな力を吸収したかが強さ特性に関係していると言って良い。

 そして、このダンジョンの様に地下で封鎖された状態が長く続いた場合、通常よりも強力な魔物の巣窟となっている可能性が高い。


「俺には関係無いがな」


 素材を気にしなくて良いのならどこをどう斬ろうが潰そうが関係無い。視界に入った魔物を一撃で仕留めるだけ。ほとんど作業に近い。


 ダンジョン内部の構造自体は単純な作りになっていた。細く長い通路が地上へ向かって伸びている他は行き止まりになっている小部屋の様な空間がやたらと多い印象だ。

 例えるなら蟻の巣。

 奥まった場所にある小部屋に瘴気が溜まる事で魔物を発生させている様だ。


「意外と狭いな。階層がいくつか別れてはいるが、取り敢えずこの辺りを潰しておけば問題無いか」


 今回の件が片付いたならサラ達は地上で暮らす事が出来る。

 それまでの間、サラ達のいる場所が安全であれば問題無いのだ。


 レイヴンが通路の天井を崩落させながら歩いて来た道を戻っている時に、強力な反応が高速で近付いて来る気配を察知した。


(既にボスが湧いていたか?)


 住処を荒らされて怒ったのかもしれない。

 これまで倒した魔物の強さは高くてAランク。レイドランク並の魔物が発生しているとは考え難い。

 けれど、普通のボスにしては反応が大き過ぎる。しかも、反応は複数ある。


「チッ。面倒な……」


 素材を採取しない戦いが続いている事はレイヴンにとって不満の一つだ。

 旅に出る前にそれなりに稼いで送金は済ませている。それでも将来子供達が巣立つ時迄にはまだまだ金が必要なのだ。

 セス達が身に付けていた装備や旅の資金もオルドがあちこちに手を回して工面した物だと聞いた。であれば、尚の事稼がなければならない。


 先頭を走っていた魔物がレイヴンに向かって突っ込んで来る。

 その動きは直線的で読み易い。


「……ッ⁈ 」


 だが、魔物の胴体を真っ二つにするつもりで放った剣は硬い何かとぶつかって弾かれた。


 魔物の中で最も硬いと言われるカオスゴーレムすら粘土の様に切り裂くレイヴンの魔剣が弾かれたなど信じられない事だ。


「痛ったああああああああい!!!皆んな気を付けて!あいつ無茶苦茶強いよ!!!」


(人間?)


 女の声を皮切りにして次々と魔法が放たれた。

 どれも上級攻撃魔法。このダンジョンに湧いた程度の魔物が使える代物では無い。


 魔法の威力は大した物だが、鎧を纏った状態であれば多少被弾したところで問題は無い。

 しかし、攻撃魔法は一向に止む気配が無く、相手が人間とあっては力で押し切る訳にもいかない。流石のレイヴンも徐々に後退を余儀なくされていた。


「押し込めええええ!!!相手を休ませるな!後方弓隊構え!関節部分をよぉく狙いな!!!」


(この戦い方はまさか……)


「ってえーーー!!!」


 一斉に放たれた矢にはどれも魔法が付与してあった。魔法の弾幕で視界が悪い中で正解に急所を狙って来る技術は驚嘆に値する。


「前衛壁役もっと前へ出ろ!魔法部隊はそのまま火力を維持!!!魔力が尽きた者から退がれ!支援部隊は魔法部隊員の魔力回復を優先!」


(くそ、好き勝手にやってくれる)


 レイヴンは息を吐く暇も無いほどに降り注ぐ攻撃魔法を斬撃の衝撃で撃ち落としながら前進し始めた。

 話しをしようにも攻撃は苛烈さを増していくばかりだ。ここは少々手荒になっても話を聞いて貰うしかない。


「まだぴんぴんしてるじゃん!第二中衛部隊!例のヤツを喰らわせてやりな!!!」


 レイヴンの前に見た事の無い筒が投げ込まれた。

 よく見てみると筒に取り付けられた紐の先には火種がある。


(ん?何だコレは?)


「喰らいな!」


 火種が筒に達した瞬間、けたたましい爆音と衝撃がレイヴンの足元で炸裂した。

 地面を抉る強烈な攻撃に再び距離を取る。

 不可解な筒からは魔力を感じない。魔具の類でも無いのにこれだけの威力は驚異的。仕組みが分からない以上、安易に近付けない。


「ぐっ……ッ!!!」


「よっしゃああああ!手応えあり!このまま畳み掛けるよ!!!援護しな!」


 声と同時に爆炎の中から女が飛び出して来た。

 大きな眼鏡と顔に巻き付けた布のせいで素顔は確認出来ない。


「うりゃああああああ!!!」


 腕に嵌めた手甲が炎を帯びてレイヴンへと迫る。


 剣の腹で手甲をいなして距離を取りながら女を観察する。

 何度か受け流している内に、乱れた炎の隙間からレイヴンの剣撃を受けて傷一つ付いていない手甲が目に入った。

 手甲の表面には狼の顔が刻まれている。


(間違い無い。だが、どうしてこんな所に?)


「チッ……素早いわね。避けるんじゃないわよ!!!」


(無茶を言う……!)


 女は舌打ちをして見覚えのある構えを取った。

 足を前後に開き、上体を前屈みに倒し拳は手首を上にしたまま脇を固めている。

 瞬間的に高い攻撃力を発揮するその独特な構えは獲物を持たない接近戦を得意とする彼女にしか使いこなせない。


 周囲が揺らいで見えるのは手甲が放つ熱が辺りの空気を急激に燃やしているからだろう。


「おい待て、俺だ。レイヴンだ。戦う理由は無い」


「黙れ!私の友人の名を語る化け物め!絶対私の手で倒してやる!!!」


(相変わらず人の話を聞かない奴だな……!)


 女が手甲を打ち合わせると、纏っていた炎が更に激しく、そして巨大に膨れ上がった。


(くそっ!こんな狭い場所でアレをやるつもりか⁈ )


「覚悟しろ!レイヴンの居場所を吐かせてやるからな!!!」


「だから!俺がそのレイヴンだと言っている!人の話を聞け!」


 全身を包み込む様に広がった炎の塊は彼女の体に纏わり付き、正しく紅蓮の鎧と化していた。


「問答無用ッ!」


「チィッ……!」


 最早こうなってしまっては絶対に人の話など聞くような人物では無い。

 ここにいる理由も気になる。しかし、レイヴンはこれ以上向こうのペースに巻き込まれても時間の無駄だと判断した。


 黒い翼を広げて大きく後ろへ後退したレイヴンは、素早く剣に魔力を込めて赤い魔力を迸しらせる様にダンジョンの天井を穿った。

 二人の間に降り注ぐ巨大な岩を砕きながら尚も接近してくる様は昔を思い出させる。


(本当に無茶苦茶だな)


「卑怯者!正々堂々戦いなさいよ!!!」


「今は時間が惜しい。俺とランスロットが遠征について行く件は一時保留だ」


「え⁈ 何で馬鹿ランスロットの名前を……」


 レイヴンは崩れていく通路越しに鎧を解いて見せた。

 初めからこうしていれば良かったのだが、あの苛烈な攻撃を生身で受けるのは嫌だったのだ。


「あああああああああっ!!!レイヴンじゃん!本当にレイヴンだよ!うんうん!その無愛想な顔!間違いない!」


「失礼な。無愛想は元からだ……。それに俺がレイヴンだと何度も言った」


「だってあんな鎧……」


「ではな。俺の用事は済んだ」


「ちょ、ちょっと待ってよレイヴン!」


 二人を繋いでいた最後の隙間が閉じる。


 炎の輝きが無くなった通路に再び暗闇が訪れた。

 岩の向こうでまだ何やら騒いでいる声が聞こえる。


「やれやれ。参った……ランスロットにも報告しておくか」


 レイヴンは鎧を纏い直して残りの通路を塞ぎに向かった。

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