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来訪者 前編

前回の後書きで一話投稿するかもと言っていたので、遅くなりましたが投稿しました。

宜しくお願いします!

 

 カイトが去って直ぐに街を飛び出したレイヴンは、氷の大地を南へ向かって全速力で走っていた。


 ダストンの事も気に掛かるが、ルナに任せておけば問題無い筈だ。

 それよりも今は、カイトが去り際に言った言葉の方が気掛かりで仕方なかった。あの話が本当ならサラ達が危ない。


『レイヴンが助けた南の連中だけど、ダンジョンの一角にいるだろ?レイナが動いた振動で隔離した壁が壊れてないと良いな』


 ダンジョン内の封鎖が破壊されたならサラ達にそれを防ぐ手立ても体力も無い。

 入り口を塞いでおくように言ったのが裏目に出てしまった。もしも魔物が侵入して来ていたら逃げ場の無い地下で全員殺されてしまう。


 サラ達がいる隠れ場所に近付くに連れて魔物の数が増えて来た。

 けれど魔物は何処へ行くでも無く周囲を探る様にして散らばっていて、誰かに統率されている様には見えなかった。


(サラ達の元へ向かっている訳では無い?カイトが寄越したというより、人間の匂いを追って来た可能性もあるか)


「こんな奴等に構っている暇は無い!起きろ!」


 レイヴンは魔剣を抜き放ち魔力を込める。

 ドクンという心臓の鼓動がしたのと同時に魔物の群れに向かって振り抜いた。


「薙ぎ払え!!!」


 赤い雷の様な魔力の波動が進路上の魔物を撃ち砕いて道を作っていく。

 見えている魔物もそうで無い魔物も関係無い。立ち塞がる障害は排除するのみだ。



 廃墟となった街の瓦礫にはレイヴンの指示通りに罠が仕掛けられていた。

 どれも有り合わせの材料で作ったにしてはよく出来ている。


「罠が作動していないという事は此処にはまだ魔物は来ていないか」


 封鎖された地下への入り口まで罠を避ける様にして向かう。

 扉は固く閉ざされたまま。破られた様子は無い。


 レイヴンは扉に魔剣を突き立てて無理矢理抉じ開けると地下へ向かって飛び降りた。


 暗い通路に微かに漂う血の匂いに焦りが増して行く。


(血の匂いが濃くなっている……)


 皮肉な事に案内が無ければ迷ってしまう複雑な通路も、血の匂いを辿っていけばサラ達のいる所まで辿り着くのは容易かった。


 最後の扉を抜ければサラ達がいる空間へ出る。


(声が聞こえる……。まだ生きてる!)


 最後の扉を蹴破って中へ入ったレイヴンの目に飛び込んで来たのは、封鎖していた場所を必死になって塞ごうとしているサラ達だった。

 隙間から入ろうとして来る魔物を木の棒や石を使って払い退けながら新しい板や瓦礫を押し付ける様にして穴を塞いでいた。


「そっちはいいから!こっちを押さえて!」


「サラ!もう塞ぐ資材が何も無いぞ!」


「家の壁でも床でも使える物は全部使って!ここを守らないと魔物が入って来ちゃう!」


「サラお姉ちゃん!ぼ、僕も手伝うよ!」


 子供達が持って来た小さな石を受け取ったサラは、怒ったりせずに優しく頭を撫でてやった。


「ありがとう。でも、危ないから下がってて」


「でも……」


「大丈夫よ。皆んなの事は私達が絶対に守ってあげるから。お母さんの所にいてあげなさい」


 サラの後ろには怪我をした男達の姿が見える。

 空いた穴から入ろうとした魔物を無理矢理押し返した時に怪我をした様だ。


「サラ!」


「レ、レイヴン⁉︎ どうして此処に⁈ お父さんは⁈ 」


「安心しろ。怪我をしてはいるが取り敢えず生きている。今は北の街で俺の仲間が傷の手当てをしてくれている」


「怪我⁉︎ それに仲間って?」


 ダストンが怪我をしたと聞いたサラの顔から血の気が引いていく。


 無事とは言い難いが取り敢えずは生きている。

 さっさと魔物を片付けてダストンに会わせてやるとしよう。


「詳しい話は後だ。それよりも魔物が侵入して来ている箇所はどれ位ある?」


「え、ここと、向こう側の二箇所よ。急な地震で崩れてって……どうして知ってるの?」


 レイヴンはサラの質問には答えずに魔物の侵入がより激しい方へ向かって歩き出した。

 魔物の侵入を防ぐ為にサラ達はよく耐えた。


「お前達は向こうの侵入口を塞ぎに行け。ここは俺がやる」


「あ、あんたは⁉︎ 戻って来たのか!」


「レイヴン、何するの⁉︎ 此処の守りを手薄には出来ないわ!」


「人間の匂いがダンジョン内にこれだけ漏れ出してしまっては再び穴を塞いだ程度ではいくらやっても無駄だ。いずれまた襲って来る。だから俺が中へ入って魔物を片付けて来る」


「そんな無茶な!あんたが強いのは分かってるが、中がどうなってるかも分からないダンジョンに潜るなんて正気かよ⁉︎ 」


「薬はもう無いんだ!あんたに何かあったらそれこそ……」


 何の情報も無いダンジョンにいきなり潜るのは確かに危険だ。

 魔物の強さや特性も不明。取るべき対策も不明な状態でなど自殺行為でしかない。


「普通ならな」


「え……?」


 レイヴンは崩れた入り口を吹き飛ばしてダンジョンへの入り口を開ける為に魔剣に魔力を込め始めた。


 魔物の強さは大した問題では無い。毒や状態異常を引き起こす魔物の存在が厄介なだけだ。

 であれば、鎧を纏ってしまえば良い。


 黒い霧がレイヴンを包み込む様に吹き荒れる。


「何⁈ どうなってるの⁈ 」


「あーあ。やっぱりこうなってたか」


「だ、誰⁈ 」


「俺?俺はランスロット。レイヴンの仲間さ」


「仲間⁉︎ 貴方が?」


 物腰からかなりの実力者にも見えるが、サラから見たランスロットの印象はレイヴンの雰囲気とは真逆と言っても良い。とてもレイヴンの仲間には見えない。


「ついて来たのか。クレア達はどうした?」


 霧の中から現れた黒い鎧姿のレイヴンを見たサラ達は一様に言葉を失っていた。


 黒で統一された全身鎧と不気味な装飾の施された黒い剣。こんな武具はどんな商人でもまず見た事が無いだろう。けれど今は、レイヴンの纏っている鎧と手に持つ黒い剣の見事さよりも、特長的な黒い翼と息苦しさすら覚える程の圧倒的な圧力の方が信じられなかった。


 背中に見える黒い翼をバサリと広げた風圧で黒い霧が完全に晴らしたレイヴンは仲間だというランスロットと親しげに会話を始めている。


「どうしたもこうしたもあるかよ。お前が急に走り出したから俺だけ追い掛けて来たんだ。クレアはゲイルが面倒見てくれてるよ。つうか、走るの速過ぎだろ。魔物の死体が無かったら完全に見失ってたぜ」


「ふん……」


「レ、レイヴン?その姿は……?」


「ああ。どんな魔物がいるのか分からないからな。これなら安心だ」


「い、いや、そういう事じゃ無くて……」


「ダンジョン内の魔物を片付けたら通路を崩落させてこの空間をダンジョンから切り離す。それまでサラ達を頼んだぞ」


「へいへい、こっちは任せろ。それと、程々にな」


「問題無い。直ぐに終わる」


 レイヴンはそれだけ言うとダンジョンと空間を隔てていた瓦礫や岩を吹き飛ばして暗い穴の奥へと姿を消した。


 何気なく剣を振っただけで魔物ごと瓦礫を吹き飛ばしてしまったレイヴンの力に誰もが唖然とする中で、ランスロットだけは平然としていた。


「良し。じゃあ、こっちは俺達でどうにかするか。あんた名前は?」


「……サラよ。今はお父さんの代わりに此処のまとめ役をやってるの」


「へえ、あんたがあのおっさんの娘か……」


 サラは魔物混じり特有の赤い目をしていた。

 その瞳はとても真っ直ぐで、こんな状況だというのに輝きを失っていない。


(なるほどね。良い目をしてるな。どうりでレイヴンが気に掛ける訳だ)


「……な、何?」


「ん?ああ、何でもない。早くあっちの応援に行ってやろうぜ。もう暫くの辛抱だ」


 素材だの報酬だのを気にし無い時のレイヴンは容赦が無い。

 レイヴンに任せておけば、いくらもしない内にダンジョン内の掃討は完了するだろう。


「ねえ、あなた達は何者なの?レイヴンの仲間だっていってたけど、ランスロットも冒険者なの?」


「ああ、そうだぜ。つっても、最近は自分が冒険者なのか分かんねえ事ばっかだけどな」


「……?」


「悪い。こっちの話だ。早く行こうぜ」



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