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方針と予期せぬ報せ

 王都へ向かう途中。

 この地固有の魔物と何度か遭遇したものの、呼び寄せられた魔物とは一度も遭遇しなかった。

 既に相当数の魔物が集まっていてもおかしくない。なのに一体も見かけないのは変だ。

 結果的にランスロット達がこの地の魔物に対応する時間が稼げたのが唯一の収穫と言って良いだろう。


「キリがないね」


「もう何体目?これが冒険者の依頼ならかなり稼いでいると思うんだけど。というか寒い……」


「レイヴンは何で平気なの?」


 クレア、ルナ、ゲイルの三人は肉対的な強度が高い為かランスロットよりも少し薄手の防寒具を身に付けていた。


「平気ではない。流石にここまで寒いとは俺も予想していなかったからな」


「そう言えば、ずっと気になっていたのだが、どうして魔剣をあんな所に?」


 レイヴンは少し考え込むような素振りを見せて口ごもった。


 どうしてと聞かれても此方が聞きたいくらいだ。

 怪しげな三人組に会って意識を失った後、次に目が覚めた時には牢屋の中だったのだ。

 魔剣だと分からなくてもそれなりに価値がありそうにも見えるなくも無い。


「さっぱり分からない。気を失った直後の事は記憶に無いからな」


「気を失った?そんな話初耳なんだけど……」


「その辺りはもう少し状況に確信が持てたら説明する」


「じゃあ、王都へは何をしに?」


「王都へ行く前に人を探しに行く。途中にある街へ寄って探してみる」


 ダストンが行くとしたらカイトの所だ。

 何の目的かは分からない。しかし、望んで取り引をしたのでは無いだろうと思っている。

 食料を得る為に取り引をせざるを得ないのだとしたら、ダストンは何を差し出した?


「名前は?」


「ダストンだ。俺が依頼を受けたサラの父親だ」


「「サラ?」」


(……?)


「そうだ。この国には今、食料が無い。サラ達はダンジョンの一部を寝ぐらにしてどうにか今まで生き延びて来たが、それも限界だ。幸いこれから行く街で食料を調達する事は出来た。しかし、根本から解決しない事にはいずれその食料も底をつく」


「ならば、その食料を調達したという街を足掛かりにして問題の解決を目指すのか?」


「それは不可能だ。今から行く街に元凶の一つがあると俺は考えている。そして根本はレイナだ。この国は既に滅んでいる。国としての機能が働いていない以上、もしかしたら王都へ行っても無駄かもしれない。だが、俺にはそのどちらも繋がっている様に思えてならないんだ」


 レイヴンは、あのレイナという女が気になっていた。

 カイトの元にいながらこちらの心配をする。そんな事をする意味が分からない。

 “北へ行くな”とは、同時に“北に何かある” そう言っていると考えられる。


「なんだそりゃ。それじゃあ何処も彼処も原因だらけって事かよ」


「そうなるな。この国が滅びるかどうか、正直俺は興味がない。だが、生きようとしている人がいる」


「私達が何処までやれるか」


「レイナねえ……結局レイナって何者?普通の人間って感じじゃ無かったし、かと言って……」


「それも北へ行ってみれば分かるという事か。とにかく情報を集めない事には始まらないな」





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「お嬢、ただ今戻りました」


「うむ。ご苦労であったのだ!三人とも休んでくれ」


 いつにも増して散らかった部屋の中から小さな手がユキノ達の帰りを出迎えた。


「また書類増えましたね。それと、ガハルドとライオネットならもうとっくに羽を伸していますよ」


 普段であればこれだけ散らかしていたらリヴェリアを怒るところだ。しかし、今だけは特別だ。


「そうか。ユキノも休んでくれ」


 ランスロット達がレイヴンを探しに旅立って依頼、リヴェリアは中央大陸の混乱を最小限に抑える為に書類の作成や新しい仕組み作りに忙殺されていた。

 それも全て自分達が撒いた種だと言ってマクスヴェルトもリヴェリアの書斎に泊まり込みで作業を行っている。


 髪は乱れ、顔には疲労の色が濃く出て傍にはいつもの紅茶では無く眠気覚ましの珈琲が置かれていた。

 冒険者の最高峰とされる剣聖と賢者のこんな姿を一体誰が想像出来るだろうか。


「それで、先方の反応はどうであった?」


「恙無く。こちらが提示した提案書には目を丸くしていましたけれど、お嬢の思惑通りに事が進むと思われます」


「え?ちょっと何書いたのさ?悪戯に刺激しないようにって言っておいたよね?」


 マクスヴェルトは書類の跡が付いた顔を持ち上げてリヴェリアに怪訝な顔を向けていた。


「心配するな。あくまでも援助を申し出たに過ぎない。まあ、少々大袈裟であった事は認めるところだが、後はレイヴン達が上手くやってくれるだろう」


「ふうん……。でも、大丈夫かなぁ?」


「何がだ?お前から聞いた以上の事は手紙に書いていないぞ?」


 魔物の強さや特性についてはレイヴン達なら問題無い。危惧しているのは女王の存在だ。

 おそらくあの国では女王が倒れ、実の娘である第一王女が辛うじて残っている。

 レイヴンの力ならどうにかはなるだろう。でも、どうにかなるだけだ。リヴェリアが望む様に国の復興とまではいかない気がしていた。


「女王については?」


「女王?それは王女が……」


「あー……女王はまだ健在なんだよ。多分、あの国の人達は誰も気付いていないだろうけどね。そこが一番厄介なんだ」


「おい、それは聞いていないぞ……」


「あれ?そうだっけ?」


「「あははははははははは!」」


「「……」」


 書斎に間の抜けた空気が流れる。

 お互いに疲労が溜まっていた事もあって二人の思考は停止していた。


「どどどどど、どういう事なのだそれは⁉︎ 女王が生きている⁇ 」


「落ち着いてよ。生きてはいるけど眠ったままだから大丈夫だって。どちらかと言うと大変なのは王女探しの方ってだけだから」


「王女?それならば王城で眠って……まさか……」


「正解ッ!」


 妙に清々しい笑顔のマクスヴェルトを見たリヴェリアは思わず頭を叩きそうになるのをグッと堪える。


 こちらが何も言わなくてもレイヴンはおそらく王女を救う為に動く。それは今までがそうであった様にレイヴンであれば自然と厄介事を引き寄せるであろうという経験から来る予測だ。だが、肝心の王女が居ないのでは話にならない。もしも先に女王と出会っていたらそれこそ面倒な事になる。


「呑気に言っている場合か!城の者達はまだ気付いていないとしてもだ。大臣達が必死になって眠りを覚まそうとしているのは女王の方だと⁈ もし目覚めてしまったらどうするのだ⁈ 」


「それは無いね。誰がやったのか知らないけど、厳重に呪いがかけられているみたいだから難しいと思う。ただ、あの国が冬に覆われた原因は依然として女王が鍵を握っている。……まあ、とくかく王女を探さないとどうにもならないよ」


「あの、お嬢?私がもう一度北へ行きましょうか?マクスヴェルト様の転移魔法でなら直ぐですし」


「いや。今回の旅のメンバーは乱戦と対応力に強い者を選んでいる。そこは問題ない。問題無いのだが……」


「レイヴンを信じてみるしか無いね。クレアとルナがいれば無茶はしないだろうから」


「それはそうだが……」


 コンコン。


 煮詰まった書斎をノックする音がする。


 ユキノ達以外の部下達は別件で皆出払っている筈だ。

 組合にも客を通さない様に伝えてある。


「誰だ?」


「私が出ます」


 ユキノが手を伸ばす前にドアが勢いよく開かれた。


「ミーシャちゃん!ただいま帰還しましたああああああ!!!」


「くるっぽーーー!!!」


「「「……」」」


 頭の上に小鳥サイズになったツバメちゃんを乗せたミーシャが入って来た。

 リヴェリアに頼まれた仕事は無事に終わらせた様だ。

 やり切った感というか、達成感に満ちた艶やかな表情が眩しい。


「あれ?どうしたんですか?そんな暗い顔して。元気出しましょう!それと団長さんから伝言預かって来ました。いやあ、聞いていた以上の強烈な人でしたねぇ。なんだかこっちまで元気になっちゃいましたよ!あ、それで伝言なんですけど」


「「「……」」」


「えっと、そのまま伝えますね。『新しいダンジョンを探してこのまま北上する!さっさとランスロットとレイヴンをこっちへ寄越せ!北にいるのなら話が早い!』だそうです!」


「「「うわあぁ……」」」


 三人揃ってあから様に嫌そうな顔をして力が抜けた様な声を上げた。


 ユキノはへたり込み、リヴェリアとマクスヴェルトは書類の山に突っ伏している。

 重たい空気が更に重たくなってしまった事に気付いたミーシャは訳も分からず混乱していた。


「え?え?え?どうしたんですか?団長さんなら戦力になると思って喋っちゃったんですけど……あれぇ?もしかして言わない方が良かったです……か?」


「何て事だ……あやつの事を放置し過ぎたぁああああ……」


「ま、まあ良い方に考えよう……良い方に……良い方に、ね。ははは……」


 マクスヴェルトの乾いた笑い。

 リヴェリアとユキノは白目を剥いたまま天井を見つめていた。


「ああ……これはミーシャちゃん失敗しちゃった感じですねー……」


「く、くるっぽ……」


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