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レイヴン捜索隊

 

 ズビーーーッ!!!


 ズズッ!!!


「ほら、もっとちゃんと顔を拭かないと」


「お嬢、もう一回です」


 ズズ、ズビーーー!!!


「またかよ、汚えな……。お前、ちょっとは遠慮しろよな!」


「う、うむ……」


「ランスロットは黙ってなさい」


「そうよ!お嬢に馬鹿が移ったらどうするの⁈ 」


 中央大陸とそれを取り巻く状況について粗方の説明を終えたリヴェリアは、いつもの子供の姿に戻っていた。

 今はユキノとフィオナが泣いてしまったリヴェリアの為に身なりを整えている最中だ。


 皆の前では泣くまいと決めていたリヴェリアではあったが、長い時を繰り返しながら後悔に縛られていた心をランスロット達が溶かしてくれた。


 我儘で傲慢な願い。それでも彼らは真正面からぶつかって来た。

 待ち望んだ出会いが、まさかこんなにもリヴェリアの心を揺さぶろうとは思いもしなかった。


(私の我儘で始まった事ではあるが、本当にありがたい事だな)


 それはマクスヴェルトも同じ気持ちだった。

 何やら嬉しそうに大量のお菓子を取り出して並べている。


「こ、こんなに食べられませんよ……」


「いいからいいから」


「甘っ! 何だこりゃ?肉とかつまみみたいなのは無いのかよ?これじゃあ腹の足しにならねえよ」


 暫く休憩をしていた一同はすっかりいつもの雰囲気に戻っていた。

 リヴェリアはそろそろ本題に入っても良い頃合いであると判断して手を叩いて皆の注目を集めた。


「では、そろそろ本題に移ろうか」


「本題?世界がどうとかって話でもうお腹一杯なんですけど……」


「それはそれだ。お前達を呼んだ理由はもう一つある。レイヴンの捜索だ」


「はあ?何でまた?ミーシャなら直ぐに見つけられるだろ」


 風の精霊であるツバメちゃんの力を使えばレイヴンがどこにいようと探し当てる事が出来る。ミーシャが加わってからはずっとそうして来たのだ。

 それなのに今更捜索とは意味が分からない。


「レイヴンが何処をほっつき歩いていたとしても、今となっちゃあ何も問題無いじゃないか。あいつに勝てる奴なんていないだろ」


「そんな事は分かっておる。今までであれば定期的に連絡が取れればそれで良かったし、居場所の特定は絶えず行っていたのだ。しかし、今回はマクスヴェルトの使役する精霊の力でも居場所が分からない。それにーーー」


「ちょっと待ったああああ!!!居場所の特定は絶えず行っていただと⁉︎ じゃあ、俺は今まで何の為に世界中レイヴンを探して旅してたんだよ!」


「今自分で言ったではないか。レイヴンを探す為だと」


「いや、だからそうじゃなくて!居場所が分かってたんなら探し回る必要無かっただろって言ってんだ!」


 最初からちゃんとした情報が伝わっていれば無駄に歩き回る必要は無かった。

 そうすればもっとレイヴンの旅に同行していられたのに。


「あれはレイヴンの為と言うよりも、お前の為だったからな。良い気分転換になっただろう?」


「そ、そりゃあ、確かにそうだけど」


 強さに固執していたランスロットは中央でも浮いた存在だった。腕は良いが、自信過剰な性格が他の冒険者達の反感を買ったのだ。


 リヴェリアの狙いは、レイヴンと出会った事で己を知ったランスロットに気分転換をさせつつ、レイヴンに仲間の存在を意識させる事にあった。

 自分の事を気にかけて訪ねて来る者がいれば、レイヴンにとっても変わるきっかけになると思ったのだ。

 結果は上々。ランスロットの裏表の無さ過ぎる性格は、レイヴンには分かり易くて相性が良かった様だ。


「とにかくだ。レイヴンを取り巻く環境と状況は未だに謎が多い。特にステラの存在が気にかかる。早急にレイヴンの居場所を探し出し、厄介事を解決するのだ」


「リヴェリアちゃん。厄介事って何ですか?」


 ミーシャの問いに同調したのはクレア、ルナ、ゲイルの三名のみ。

 他の者達は皆、厄介事という言葉だけで凡その状況を察していた。


「レイヴンが厄介事に巻き込まるのは今に始まった事では無いものね……」


「ですね。また、二つ返事で厄介事を引き受けている可能性大です」


「言えてるわね」


「「「はあ〜……」」」


 レイヴンが関わると決まって厄介事を引き寄せる。

 事の大小はあれど、それが良い結果をもたらして来たのも確かだ。


 リヴェリアは 再び手を叩いて皆の注目を集める。


「ほらほら、そんな顔をするな。目的地は北の大陸にある氷の国、通称ニブルヘイムだ。マクスヴェルトがある程度の情報を集めてくれてはいるが、いかんせん詳しい情報や状況は直接行って見ないことには分からない。そこで、メンバーを決めておいた。先ず、ランスロット。お前にはリーダーを任せる。頼んだぞ」


「はいよ。でも、俺じゃあユキノ達が言う事聞かないぜ?」


「ふふふ。その心配は無いから安心しろ。次にゲイル。お前はランスロットのサポートだ。この中で多少なりとも外界の知識があるのはお前だけだからな」


「断る。私にはレイヴンとの約束がある」


 ゲイルはレイヴンが戻って来るまでの一年間、クレアの護衛をする事になっている。

 世話になっているとは言え、その約束を反故にするなど有り得ない。


「それならば承知している。故に!今回はクレアをメンバーに選んだ。クレア、今まで教えた事を覚えているな?」


「は、はい!大丈夫です!」


「ええ⁉︎ リヴェリアちゃん、大丈夫なんですか?」


「問題あるまい。昇格試験こそ行っていないが、クレアは既にSランク冒険者以上の実力がある。足りないのは実戦経験だけだ」


「はえ〜……クレアちゃんいつの間に」


「凄く頑張ったの!」


 実際のところ、クレアはよく頑張った。

 しかし、それも天賦の才とレイヴンと一緒に旅に行きたい強い気持ちがあっての事だ。

 でなければ、僅か一年にも満たない期間でここまでの成長はあり得なかった。


「僕は⁈ 僕も行きたい!」


「落ち着け。勿論、ルナにも同行してもらう。ただし、無茶はするなよ?」


「分かってるよ。大丈夫。僕がレイヴンを見つけてみせるとも」


 ルナはまだ使える魔法がそれ程多くはないが、攻撃、回復とバランス良く習得している。近接戦闘能力はBランクといったところまで成長していた。

 クレアもルナも恐ろしい程の成長速度だ。努力以上の何か別の原因があると思っているが、はっきりとした理由は分かってはいない。


 二人に共通するのは、人工的に創られた人間である事、一度魔物堕ちした状態からレイヴンの力で元の人間に戻っている事だ。

 同じく魔物堕ちしたゲイルとでは明らかに能力の成長速度に差がある。

 この辺りの原因については調査中だ。


「リ、リヴェリアちゃん!私は⁈ 私はメンバーに入っていないんですか⁈ 」


「ミーシャ。お前には別に頼みたい事がある。今回は今言った四名で事にあたる」


「そんな……クレアちゃん、ルナちゃんとお別れなんて……」


「お前がもし、仕事を早く終わらせれられれば合流しても良い」


「本当ですか⁉︎ 」


 ミーシャについてはマクスヴェルトから先の一件について報告を受けている。

 独自の判断ではあったが、ミーシャは実に良い働きをした。


 戦う力は無いに等しい。精霊魔法が使えると言ってもツバメちゃんしか呼び出せない。それでも、ミーシャは機転をきかせてよく動いてくれた。

 今では欠かせない存在となっている。


「ただし!ルナと同じだ。無茶だけはするな」


「はい!」


「他の皆にも言っておく。レイヴンの強さについては言うまでも無いが、精神は不安定だ。私達にとって当たり前でも、レイヴンにとってはそうでは無い事を忘れるな。その逆もまた然りだ」


「どういう意味ですか?」


「レイヴンが成長しているからだね。新たに芽生えた感情は、レイヴンをこれまで以上に不安定な状態にしているんだよ」


 レイヴンは感情を手にする事で今までに無い力を得た。けれども、感情が豊かになった分、戸惑いも大きい。

 心が揺れれば揺れる程、大き過ぎる力の制御が難しくなる。


「仲間が増え、孤児院などの守る対象が増えるにつれて、その危険性は増していると言って良いだろう。ランスロットが言った様に私達が特別な事をする必要は無い。ただ……」


「ただ?」


「何があってもレイヴンの味方でいてやってくれ」


「……?」


「あ、いや。忘れてくれ。今のは旅の出発に相応しく無いな。幸運を祈る!また会おう!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ランスロット達が出発の準備に取り掛かった後、リヴェリアは次の準備に取り掛かろうとしていた。


 中央大陸にかけられていた魔法が解けた事による混乱を鎮めなければならない。

 下準備はマクスヴェルトに一任してある。後は実行に移すだけだ。


「リヴェリア、不安かい?」


「いや、もう後には引けぬからな。腹を括るしかあるまいよ」


「それもそうだね」


 気になる事があると言えば、外界の情報が乏しい事だ。


 帝国の戦力を調べた限りでは驚異となる者の存在は確認出来なかった。しかし、ステラやトラヴィスの事もある。単純な力でレイヴンに勝てる者がいるとは考えられ無いとの結論から、外界への旅を許可した。

 それでも絶対では無い。

 表に出て来ていないだけの強者がいる可能性は捨て切れない。


「次にあやつらが戻って来たら驚くであろうな」


「その顔、実はちょっと楽しみなんでしょ?」


「そうでもないさ。しかし、そう見えたのなら、そうなのだろうな」


「何だいその答えは?」


 リヴェリアはレーヴァテインを持つと、大人の姿となった。


「別に。さてさて、肩のこる生活に戻るとしようか」



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