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認識とズレ

 リヴェリアは組合に帰って来るなり自分の机に突っ伏した。


 頭では理解していたつもりだったのに、痛い所を全部言い当てられてしまった。

 昔からこちらの考えの足りない部分を的確に指摘してくる人だった。けれど、今回程有り難いと感謝した事は無かったかもしれない。

 本当によく見てくれている。


「で?どうだった?」


 そんなリヴェリアの気持ちを知ってか知らずか、マクスヴェルトは呑気に茶を飲みながら結果を訊ねて来た。


「魔法は解いてくれるそうだ。多少の混乱が起きるのは覚悟している。後はお前が上手くやってくれれば一先ずは問題あるまい」


「成る程。じゃあ、早速話を進めようか」


「ちょ、ちょっと待て!もう少し時間をーーー」


 リヴェリアが言い終わる前にマクスヴェルトが指を鳴らして魔法を発動させた。


(もう少し気持ちを落ち着かせてからと思っていたのに)


 眩い光が部屋に満ちる。


「うわっ! 何だ⁈ 急に場所が変わったぞ⁈ 」


「ここは……お嬢の書斎?」


「わわわわわわ! クレアちゃん! ルナちゃん! ミーシャお姉ちゃんの手を離しちゃ駄目ですよ⁈ お姉ちゃんが怖がりますからね!」


「「う、うん……」」


「どうなってやがる? 今、ドワーフの連中と酒を……」


 現れたのは各地に散っていたリヴェリアの部下、ランスロット、ゲイル、ミーシャ、クレア、ルナだ。


「話は早い方が良いでしょう?」


 突然の事で皆驚いている様だが、呼んでしまったものは仕方がない。


「お前……。まあ良い!皆、席に着け! 」




 リヴェリアは皆が席に着いたのを確認して、一枚の地図を広げて見せた。


 それは、この世界にはありふれた世界地図。

 誰でも一度は目にした事がある物だ。


「お嬢、一体何です? まさか、また世界がどうとかいう話ですか?」


 ライオネットは以前リヴェリアが世界について語ったのを思い出していた。


 リヴェリアの話は非常に興味深い物ではあったが、あまりにも突拍子も無い話で笑い話程度にしか思わなかった。


「そうだ。だが、これから話す事は全て真実だ」


 皆が疑問を浮かべている中でただ一人、リヴェリアの広げた地図に違和感を覚えていた者がいた。


「ちょっと待って。僕が知ってる世界地図とは全然違うよ。それは世界地図じゃなくて、中央大陸の地図だ」


 発言したのはルナだ。


 ルナの表情を見たリヴェリアはニヤリと笑う。


「やはりな。ルナはクソ爺がかけた魔法の影響下には無い。ゲイルもそうだな?」


「クソ爺とやらが何者かは知らないが、コレが世界地図で無い事は分かる。我々外界にいた者からすれば、中央大陸は未踏の地。外界にある地図には中央大陸は描かれてはいない」


 ゲイルの衝撃的な発言によって部屋は静まり返った。


 信じ難い事ではあるが、西の大陸からやって来たゲイルが言うのなら間違い無い。


「お前達、今ゲイルが言うなら間違い無いと思っただろう?」


「そりゃあな、俺達は現に西の帝国との国境まで行ったからな。その先にある大陸をこの目で見てる」


「そうね。クレアちゃんを連れ戻しに行った時に帝国領をこの目で見たわ。北にも南にも大陸は続いていた。だとしたらゲイルの言っている事も信じられる」


 口々に帝国の存在を認識している発言をする姿を見て、リヴェリアはもう一度地図を見せる。


 そろそろ魔法が解ける。

 その前に知識として現実を知ってもらおうというわけだ。


「ルナとゲイルが言うように、これは世界地図では無い。そして、コレが……」


 もう一枚の地図を広げて見せる。


 そこには今までよりもずっと広大な大地が広がっていた。


「何だそりゃ? 」


「お嬢、その赤い丸印は何です?」


 広げられた地図の真ん中辺りに丸印で囲まれた部分がある事に気付いたユキノが疑問を口にした。


「我々が今いる場所。中央大陸だ」


「「「はい?」」」


「理解出来ないのも無理は無い。今はとある魔法によって認識を歪まされているからな。とは言え、かく言う私自身もあまりよく知らないのだ。ここから先はマクスヴェルトに説明してもらおう」


 咳払いをした少年が立ち上がる。


「誰だそいつ?俺が居ない間に新しい奴が入ったのか?」


「あの少年は賢者マクスヴェルトですよ」


 ガハルドらしく無い呆けた顔に周りで見ていたユキノ達が笑い出した。


 如何にも老練の魔法使いらしい年老いた老人の姿とは正反対。

 寧ろ何処にでもいる平凡な少年にしか見えない。


「「「あはははははは」」」


「全く失礼しちゃうよ。そうだよ。僕が賢者マクスヴェルだよ」


「だって、爺さんの姿でよお……」


 マクスヴェルトは指を鳴らして皆が良く知る老人の姿になってみせた。


「マジか……でも、どっちが本当の姿なんだ?」


「どちらも儂じゃ。しかし、どちらでもない。本当の姿など忘れてしまったわい」


 再び指を鳴らして少年の姿に戻る。


「ま、皆の反応を見た感じだどガハルド以外はもう薄々気付いていたみたいだしね」


 ガハルドは皆を見渡しガックリと項垂れる。

 本気で驚いているのは自分だけ。

 自分以外という事はミーシャや幼い二人の少女まで気付いていた事になる。


「そう気を落とすな。これからもっと気を落とす話をするからな!」


「そうだね。君達には今まで以上に頑張って貰わないといけなくなるからね」


「「フッフフフフ……」」




 世界というものの真実について詳細を聞かされた一同は愕然としていた。


 自分達が住む中央が世界だと信じ込まされていた事。

 王家の人間など一度も見た事が無いにもかかわらず、その存在を信じ切っていた事。

 帝国という存在を確認し、はっきりと認識していながらも、それが世界の一部であるという認識を持てなかった事。

 世界を隔てる壁の存在を知っても、中央大陸こそが世界であると信じて疑わなかった事。


 まだまだ沢山ある。


 しかも、それら全ての事をたった一つの魔法で行なっていたというのだから驚きだ。


「という事は、中央大陸に住む者達全てが同じ魔法に?」


「魔法の仕組み自体は単純だけど、とても強力でね。要は思い込みの力を利用しているんだ。と言っても、これは僕にも使えない。仕組みは単純だと言ったけれど、術式は恐ろしく複雑だ。中央大陸だけでも何万、何十万という人間がいる。しかも新しく産まれてくる命にまでその効果が及ぶ。人間の持つ処理能力では不可能な魔法なんだ」


「それって、人間以外の種族が関わっているというの?」


「そういう事だ。そして、世界を隔てる壁がその効果範囲を示している」


 何とも馬鹿げた規模の魔法だろうか。

 中央大陸に生きる者全てに暗示をかけていたなど、どうかしている。

 だが、一体何の為に?


 皆が疑問に思う中、ランスロットが口を開いた。


「何だよそれ。それじゃあ、今までずっと俺達を騙してたって事かよ」


「ちょっと、ランスロット!」


「本当の事じゃねえか! 中央大陸だけが世界じゃ無い? 王家なんて初めから存在しないだ? そんなのいきなり聞かされて、はいそうですかって訳にいくかよ。暗示以前の問題だろ。お前らだって納得出来るのか? 」


「それは……」


 ランスロットの言う通りだ。

 こんな事をしておいて今更、実は世界はこんな感じでしたなどと言われても混乱するばかりだ。

 悪ふざけにしてはタチが悪い。


「お嬢。世界の状況は知識として理解しました。ですが、一体なぜ? 」


「ごめんなさい、お嬢。お嬢を信じたい気持ちに嘘は無いけれど、その……あまりに急な事で……納得の行く説明が欲しい……」


 リヴェリアのやる事に従う。それは変わらない。けれども、肝心なのは理由だ。


「世界を隔てる壁が何の為にあるのか。いや、あったのか。先ずはそこから説明せねばなるまい。ゲイルは薄々気づいておるかもしれんがーーー」


 リヴェリアは呼吸を落ち着かせる様にゆっくり息をする。


「世界を隔てる壁は、魔物堕ちしたレイヴンから世界を守る為に設置した物だ」


「「「なっ……!」」」


 部屋の空気が一変する。


 レイヴンの魔物堕ち。

 それは、いつか起こり得る可能性。

 魔物混じりである限り、いつ訪れるともしれない魔物堕ちの恐怖を抱えている。


 運が良ければ魔物堕ちせずに一生を終えられるかもしれない。

 ミーシャの様に魔物の血が薄ければ魔物堕ちのリスクは低い。しかし、レイヴンの中に流れる魔物の血は濃く、今まで魔物堕ちせずに自我を保っているのが奇跡と言っても良い。


 だが、リヴェリアもマクスヴェルトも、今のレイヴンであればその可能性は低いと考えていた。

 それでも、絶対では無いのだ。


「そういう事なのね。あの結界が近付く者を強制転移させていた理由が分かったわ」


「レイヴンの力を考えれば当然とも言えるのかもしれません。ですがお嬢、その壁と我々にかけられていた魔法と何の繋がりがあるんですか?」


「その質問に答える前に、ルナには言っておかねばならん」


「僕に?」


「そうだ。ルナ、お前はまだレイヴンが幼かった頃に私と会ったのを覚えているな?」


「うん……」


「私にはそれから先の記憶は無い。始まる時はいつもこの部屋からだ」


「いつも? リヴェリアちゃん、それってどういう……」


 リヴェリアとルナが知り合いだという事を知って皆は益々訳が分からなくなっていた。


 自分達が知る限りレイヴンは孤児だ。

 それはレイヴン自身が言っていたので間違いない。


 ルナと同じ孤児院にいたと考えそうになった面々は頭を振って否定する。


 ルナはまだ幼い。

 レイヴンとでは年齢の計算が合わない。


「それは、この中央大陸だけが同じ時を繰り返しておるからだ。現在は八回目。そして、私は竜人族の者だ。今年で二百六十歳になる」


「に、にゃひゃ……⁉︎ 竜人族って、え⁈ え⁈ 」


「繰り返す?そんな馬鹿な話……」


「因みに僕は一応普通の人間だよ。この世界の人間じゃ無いけどね。異世界人とでも言えば良いのかな?」


「八度目? 竜人、異世界人? 何を言って……」


 リヴェリアは皆が動揺したままなのを承知で話を続けた。


「一度目は私一人だった。二度目はマクスヴェルトが加わった。四度目まで何も変化は無く、五度目と六度目はユキノ達がいた。七度目はまた私とマクスヴェルトだけだった。そして、八度目。お前達がいる」


「僕とリヴェリアは同じ後悔を抱える者同士、協力し合う事にしたんだ。レイヴンを救う為にね。七度目までは全て失敗に終わった。レイヴンは魔物堕ちし、そして……」


「「世界を滅ぼした」」


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