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強過ぎるCランク冒険者

よろしくお願いします。

 金を稼ぐ方法は奴隷商人から教わった。

 戦う方法は俺を助けてくれた爺さんから教わった。


 この世界は、力さえあれば生きて行ける。


 それが、このクソッタレな世界で生きて来た俺の出した答えだった。


 ある時、魔物と戦っていた俺の目に気付いた人間が言った。


 お前は『禁忌の子』だと。


 魔物と人間の間に産まれた子をそう呼ぶのだそうだ。

 どうやら父と母、どちらかが魔物だったらしい。


 『お前の体には魔物と人間の血が流れている』


 だから何だ。

 俺が望んだ訳じゃ無いーーー


 冒険者の集まる街パラダイムは俺が生きて行くには最適な場所だ。

 この街でなら俺は自分の存在価値を見失わずに済む。

 戦う事を生業とした連中が集まるのだ。中には俺と同じ、はぐれ者も大勢いる。


 やる事は単純だ。

 依頼を受け魔物を倒し、報酬を受け取る。

 それだけだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あら、こんにちはレイヴンさん。今日も依頼を受けに来たんですか?」


 冒険者の街パラダイムに来てからまだそれ程経ってはいないが、レイヴンは既に受け付けの女に顔と名前を覚えてもらえる程度には依頼をこなしていた。


 この街で商売をしている店には大抵、魔物討伐依頼の張り紙がある。

 魔物討伐と言っても内容は様々だ。


 薬屋なら薬の調合に必要な植物や動物の捕獲。

 武器、防具屋なら素材となる魔物の素材集め。

 酒場には危険度が高い代わりに報酬の良い依頼。


 当然、冒険者が最も多く集まるのは武器屋でも薬屋でも無い、酒場だ。

 どんな依頼であれ、ダンジョンに潜る限り危険は付き物。ならば、報酬の良い仕事をした方が効率が良い。

 何をするにも金は必要だ。


 レイヴンがやって来たのは酒場。

 此処には依頼を終えた者、仕事の無い者が昼間でも多く集まって来る。

 大抵はゴロツキだが、駆け出しの冒険者にも割の良い仕事があるので意外と若い連中も多い。


 報酬の良い専門の依頼を受けるならギルド組合に行けば良いのだが、煩わしいのが嫌いなレイヴンには縁の無い場所だ。第一、魔物混じりは組合の建物には入れない。裏口から身を隠す様にして依頼を受ける必要があるのであまり近付きたくは無いというのが本音だ。


「いつも通りBランクの依頼で良いですか?」


「ああ。なるべく報酬の良い討伐依頼があれば見繕ってくれ」


「おい、聞いたかよ? Cランクのはぐれ者がBランクの討伐依頼を受けるんだと。はっはっは! こいつは何の冗談だ?」


 酔った冒険者が後ろから野次を飛ばして来るのはもう慣れた。

 こういう輩はどういう訳かどこの街にもいる。いちいち相手にしていられない。


(またか、面倒な……)


 この街に限らず冒険者にはランクがあり、討伐依頼を受ける為には冒険者組合に登録する必要がある。

 Dランクから始まり、討伐依頼を受けてポイントを稼げば上のランクに上がる事が出来る仕組みだ。

 最高ランクはSS。ソロで討伐依頼を受けられるのはBランクまでだ。

 Aランク以上の依頼はパーティーを組まなければ依頼を受ける事が出来ない。


 自分のランクよりも一つ上のランクまで討伐依頼を受けられる仕組みなのだが、例外が一つだけある。


『Aランク冒険者はSランク以上の依頼を受けられない』


 この決まりは絶対だ。

 Aランクから先の依頼はパーティーを組んだ程度でどうにかなる難易度では無いからだ。Sランク以上の依頼をこなすには、個の力とパーティーの力、その両方が求められる。


 Sランクに昇格するにはポイントの他に戦闘試験を受ける必要がある。

 その試験で認められなければ、どれだけポイントを稼いでいようともSランク以上の冒険者にはなれない。

 

 当然、試験は上位の冒険者が担当する。半端な実力しか持たない者は昇格したところで魔物の餌になるのがオチだ。それ故、試験は実戦形式で行われる。パーティー戦では優秀でも、Sランク以上の冒険者に求められるのは個の力だ。

 

 そして、大半の冒険者はAランクで止まる。常人と超人を隔てる壁というやつだ。

 

 これらは冒険者の質を保つ為に中央ギルド組合の連中が設けた制度だ。

 飛び抜けた力が無い限りSランクとは認められない。と、同時に冒険者を強力な魔物に近付けさせない為でもある。低位の冒険者が無闇に藪を突く様な事があれば余計な被害が出てしまう。明確な線引きは必要不可欠な事なのだ。


 ちなみにレイヴンは、殆ど間を空ける事なく依頼を受け続けていたので昇格ポイントはとっくに基準を満たしている。だが、敢えてCランクに留まっていた。


 Bランクに上がればAランクの依頼を受ける事も可能。

 当然、依頼の危険度が増す代わりに報酬も多い。けれど、Bランクに上がるとパーティーへの勧誘が多くなる。

 人付き合いの苦手なレイヴンにとってこの仕組みは鬱陶しい物でしか無いのだ。



 討伐依頼に熱心な連中は、そういった勧誘活動をしながら有能な奴に唾を付けている。

 それは相手が魔物混じりであろうとも関係無い。むしろ魔物混じりである事は、連中にしてみればとても都合が良い。


 魔物の血がもたらす力は普通の人間の力を凌駕する。


 それに、途中で死んだとしても誰も文句を言う奴はいない。

 はぐれ者なら尚更だ。

 

 この世界で魔物混じりは『消耗品』

 その程度の存在でしか無い。



「おい! はぐれ野郎! 聞いてんのかぁ?」


 酔った男の吐く息が臭い。

 この手の輩はどの街にもいるが、どうしてこうも同じ様な言動で絡んで来るのか理解に苦しむ。


「もうよせって! あいつ気味が悪いぜ。関わるとロクな事にならねぇって!」


「邪魔だ。どけ……」


 こんな奴らに構っている暇は無い。


「なんだあその態度は? せっかくAランク冒険者の俺様が、寂しい寂しいCランクのはぐれ者に声を掛けてやってるんだろうが!」


「ちょっとお客さん! お店の中で騒ぎを起こすのは困ります! 喧嘩するなら外へ出てからにして下さい! お店汚して怒られるの私なんですからね!」


 勇敢にも受付の女が腕まくりをしながら間に入って来た。


 この手の揉め事には慣れているのだろう。いつの間にやら武器まで持っている。


(酔っ払いの冒険者を相手に良い度胸をしている。この店の受け付けは彼女以外には考えられないかもしれないな。まあ良いだろう。たまには人間相手に暴れてみるか)


 普段であればこの手の輩は相手にしない。

 ただ、この街ではまだ暫く依頼を受けるつもりだ。また絡んで来られては面倒なだけ。それだけだ。

 それに、ここで鼻っ柱をへし折っておけば、もうちょっかいを出して来る事は無いだろう。

 低ランクだろうが魔物混じりだろうが、強さを証明することは街での身の安全を確保するのには有効だ。


「良いだろう。俺に用があるなら外へ出ろ」


「へっ! 言うじゃねぇか。誘ったのはテメエだ。後から文句は言わせないぜ」


「御託はいらん。やるのか? やらないのか? さっさとしろ」


 男は血走った目でレイヴンを観察していた。

 レイヴンの格好は何処にでも売っている様な黒一色の軽装。腰には随分趣味の悪い装飾が施された剣が下げられているが、防具の類は一切身に付けていなかった。

 有り体に言えば舐めている。もしくは油断。


(どちらでも構わないがな)



「上等だ……。おい! 野郎共! はぐれ者が俺達のストレス発散に付き合ってくれるってよ。せいぜい楽しませてもらうとしようぜ!」


 レイヴンは酒場にたむろしていた男達がゾロゾロと出て行くのを見届けてから外へ出た。

 数が多かろうが関係無い。何度も違う奴に絡まれるより都合が良い。


「ちょ、ちょっとレイヴンさん! 大丈夫なんですか⁈ 相手はAランク冒険者。それもあんなに大人数で……。レイヴンさんは駆け出し冒険者、Cランク登録してからまだ日が浅いんですよ⁈ 勝てる訳無いじゃないですか!」


「問題無い。直ぐに終わる」


 実際のところ、人間相手の喧嘩なら嫌と言う程経験していた。

 レイヴンは子供の頃からずっと人間から疎まれて来た。魔物混じりであるというだけで言い掛かりをつけられて争い事に巻き込まれるのは日常茶飯事だったからだ。ただ、冒険者の依頼を頻繁に受ける様になるにつれて人間相手に力を振るう事は無くなったので人間相手は久しぶりだ。


(さて、さっさと始めるか)


 レイヴンは外へ出るなり、最初に挑発して来た男を殴り飛ばした。


「うぐあああっ⁉︎ 」


 男は反応すら出来ずに、向かいの店の壁に激突してそのまま動かなくなってしまった。


「……しまった。おい、俺が勝ったら壁の修理代はお前らが払っておけ」


 久しぶりの人間相手の喧嘩は力加減が難しい。それに、万が一にも殺してしまうと後が面倒だ。


 動かない男を見て惚けていた取り巻きの男達は、武器を構えると直ぐ様体勢を整え、レイヴンを取り囲むなり何やら無様に吠え始めた。


「汚ねぇぞ! まだ始まってねぇだろ!」


「寝言は寝て言え。先にけしかけて来たのはお前達だ。どうした?かかって来ないならこちらから行く……」


「クソが! 舐めやがって!」


 その後の戦いは実に呆気なかった。

 誰もレイヴンのスピードに付いて来れず、手加減されているとも知らない男達は一方的に叩き伏せられていった。


 こんな物は戦いですらない。言うなれば只の作業だ。

 余計な火の粉を振り払う為とは言え、これでは少々味気ない気もする。


 十人以上の冒険者があっさりと倒されるという異様な光景に、野次馬達は静まり返っていた。


(Aランクと言ってもこの程度か。そんな腕で良く今まで死なずに冒険者をやって来られたものだ。肩慣らしにもならないな)


 冒険者に与えられたランクが必ずしも本当の実力を示しているとは限らない。

 この男達はパーティー単位での活動が主でソロの経験は殆ど無いのだろう。


「終わりだ。もう俺に構うな」


「な、なんなんだよ。何でCランクのはぐれ者がこんなに強えんだ……」


「お前らが弱いだけだ」


 レイヴンはそれだけ言うと討伐の依頼をこなす為にダンジョンへと向かって歩き出した。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あちゃー……ちと来るのが遅かったか」


 未だダメージから立ち直れない男達は、声のする方に視線を向けた。


「だ、誰だ……?」


 そこには派手な鎧を着た戦士風の男が立っていた。


 兜は被っておらず、長い髪をポニーテールの様に結い上げている。切れ長の涼しい目をした長身の男だ。

 腰には如何にも高そうな拵えの鞘に入ったロングソードを下げ、盾は持っていなかった。


 彼が言葉を発せずとも、道を譲って脇に逸れていく。

 重たい鎧を着ているにもかかわらず音も立てずに歩く姿は、誰の目にも彼が並の冒険者では無い事を分からせた。


 熟練の冒険者である事は間違いない。それも一流の実力を持った冒険者だ。

 そういう雰囲気を彼は纏っていた。


「……にしても、あんたらも無謀だなぁ。レイヴンにちょっかいを出すなんてさ」


「あ、あんたは?」


「俺かい? 俺は中央ギルド組合所属のSSランク冒険者ランスロットさ」


「ちゅ、中央の……⁈ あ、あんたみたいな一流冒険者が、Cランクのはぐれ者に一体何の用が?」


 男の言葉にランスロットは目を丸くした。


 レイヴンの実力なら何処の街へ行っても短期間でSランク以上へ簡単に昇格出来る。そもそも、そんな面倒な事をしなくとも中央冒険者組合が発行した証を見せれば良い。証があれば何処のギルド組合だろうが、無条件でどんな依頼でも受けられる。それなのにCランク冒険者とはどういう事なのか分からない。


(あの野郎……。また悪い癖が出たな)


 レイヴンはどういう訳かどこの街でも身分を明かさない。

 人付き合いが苦手なのは承知しているし、馬鹿正直に身分を明かせば余計な事に巻き込まれるというのも分かる。それでもこんな下らない事に毎回巻き込まれるよりはマシだと思う。


「詳しい事は教えてやれねぇけど、レイヴンはお前らが束になってかかっても勝てやしないよ。ったく、俺でも無理だっつうの……」


「は? え? 今、なんて……?」


 ランスロットは、それ以上男の質問には答えなかった。


「あー、面倒くせえなぁ。またレイヴン探し続けんのかよ」


 面倒臭そうに頭を掻きながらレイヴンを追って去って行った。


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[一言]  読み始めたばかりだけど面白いです。応援しています!
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