憧れの異世界転生を果たしたけど、気が付いた時になぜか周りにはトロールしかいなかった。劣悪な環境だったので、ありふれた環境改善に取り組んだらいつの間にかトロールの族長に任命されることになっちゃいました。
なにかしらの形で小説家になろうにて、一番になりたかったので今作を手がけました。
それが、小説家になろう内「最長タイトル」にしたいと考えた物語です。
その為に「出オチ」感が否めませんが、物語は真面目に書かせて頂きました。
私の他に最大文字数のタイトルは、おそらく無いと思います。だから「元祖最長タイトル作品」になれたら嬉しいです。
※もし他作品で100文字タイトルがあれば教えて頂けると嬉しいです。
物心がついた頃から違和感を覚えていた。俺は両親を含めた周りの人たちとは違う容姿をしていることに。
そのことを両親に尋ねると『お前はまだ子供だからね。成長すれば同じになれるよ』と悲しげな表情で、そう答えた。
周りと違う……と、言う理由だけで蔑まされてきた。確かに俺はみんなとは違うと思うが、それでも同族である。その気持ちには違いはなかった。
――月日は流れ。俺は成人となる15歳を迎えた。この頃に明らかに周りと違うことを認識はしていた。それでも俺の仲間意識は変わらなかった。両親に対してもそれは変わらない、俺にとっては大事な家族なのだから。そう思っていた矢先に両親から真実を告げられた。
『お前は本当の息子じゃないんだ。実はお前は “人の子” なんだよ』
その言葉を聞いてショックを受けた。それと同時に別の衝撃が走る。頭が割れそうなくらい、酷い頭痛に襲われた。
そして、俺は全てを思い出した――
「俺、人間じゃん!」
自分自身が人間であることを自覚したのではなく、人間であることを思い出したのだ。
俺は日本でごく普通……いや、ヲタクなサラリーマンだった。仕事と漫画やアニメなどのヲタク趣味を堪能する毎日を送っていた。別に会社がブラック企業とかそんなこともない、至って普通の会社だった。だから日々の生活において、不平不満なんてなかった。
未婚で恋人もいないけど、その分ヲタク趣味に没頭できたから……いや、ホントは恋人欲しかったです。
そんな生活を送る日々の中で、ある日俺は死んでしまった。死因は失血死。無差別殺人の通り魔に殺されてしまった。
そして、俺は転生を司る女神と出会う事となった。
「はじめまして。私は転生を司る女神です」
「ま、まさか……俺を異世界へと転生するつもりですか?」
「え? よ、よくわかりましたね、その通りです」
「ヲタクとして当然ですよ! 今流行ですからね!」
「ヲタクって、みんなこうなのかしら……」
女神によると、その異世界は剣と魔法のファンタジーな世界。そして、その世界は勇者によって魔王は倒され平和になった。しかし、魔王によって人口が大幅に減ってしまい、その補充として俺のように転生させるとのことだった。
「でも転生させるなら、その世界の人たちをするべきでは?」
「それが出来れば一番良いのですが。魔王に依って魂ごと消滅されてしまい、転生が不可能なんです」
「なるほど。それで、俺にはどんなチート能力が貰えるんですか?」
「へ? いや、そんなの無いですよ。魔王がいなくなり平和そのものですからね、そんな強力な力は不必要ですからね」
「そんな……いや、でもこの姿のまま転生してくれるんですよね⁉」
「転生の意味わかってます? 新たに生まれ変わるのに、なんで今のまま転生させるんですか。新しい住人として転生させなきゃ意味ないでしょうに」
「え~……なんか思ってたのと違う」
「なに、馬鹿なこと言ってるんですか。それが転生というものです。はい、じゃあちゃっちゃと転生してくださいね」
そんなわけで俺は転生した。そして今、前世の記憶を取り戻した。
俺は女神によって異世界で人間として転生した。至ってごく普通の村人として転生したはずだったのだが、なぜか俺は人間の村で生活をしていなかった……そう、ここは “トロール” の住処だ。
トロール――RPGなんかでも登場する魔物。
醜悪で知能が低く好戦的であり、高い肉体再生力を有している。巨人の末裔と言われるだけあって、巨躯である。
なぜそんなトロールの中に別種族である、人間の俺が住んでいるのか。伊達に長年ヲタクをやっていたわけではない、その辺りも前世の記憶から推察することができる。
トロールには、ある習性があったりする、それは――『取り替え子』というものだ。その名の通りに、トロールがこっそりと人間の子供を攫い、代わりにトロールの子供を置いていくもの。
ちなみにこの習性はエルフにもある……エルフが良かったなぁぁぁ。金髪のエルフ娘とキャッキャ、ウフフしたかったぜ。なぜに俺はトロールなんだよ。
それにしても、トロールとして生活していた時にはなんとも思わなかったけど……この住処って汚いし臭いよな。人間としての記憶を取り戻した俺にとっては、住み慣れた場所にも関わらずに違和感を覚え始めていた。
まぁ、トロールとして考えれば問題ないと言えば問題ない。しかし、共生――と言うよりは利害関係のが近いかもしれない。魔物の強さで言えばトロールは強者と言える、それゆえにおこぼれなどに与かろうと魔物が集まってくることがある。主にはゴブリンだ、一番下の手下として見なされている。
次がオーク、これが意外と厄介だったりする。豚と猪の中間のような獣の頭部を持つ亜人で、人間ほどの大きさではある。だが、知性が低く好戦的で野蛮な性格をしているのだ……そう、とてもトロールと似ている
。体格差と強さに開きがある為に争いまでには発展しないが、面倒なことになりやすい。
最後はオーガだ。日本で言うところの鬼。残忍な性格で強さも体格も申し分ない、だがトロールほどではない。しかしゴブリン、オークと違い驚くべき能力を有している、それは変身能力である。けれど、これまた知能が低い為、上手く活用はしていない。
なんだろね……このINT値が低い集まりは。類は友を呼ぶ、とは言うが限度があるだろうに。
まぁ、とにかく近隣の魔物の中ではトロールは上位として君臨している。もちろん、世界は広くトロールより強い魔物は数知れずではある。
トロールからすると然したる問題ではない……けど、俺は人間なのである。本来ならば格下であるはずのゴブリンに昔からいじめられていたほどだ。食べ残しなどのゴミもそのままだから、黒妖犬が漁りに来るが、それにすら負ける始末。
この住処が不衛生である為に様々な魔物がちょくちょく入り込んで来る。その辺りをなんとかしたいところだが、俺は人間のトロールとして扱われている為、最弱にして最底辺。そんな俺が住処を好き勝手に変えては族長に怒られる……下手すれば殺される。
とりあえず、身の周りから改善してくかな。両親には相談しないとな……やっぱ悲しむかな、人間ぽいことすると。
家のゴミ問題から解決していくか……さて、どうしたもんか。日本での生活ならゴミ出しに決まりが定められている。ただゴミ捨て場を用意したところで、そのゴミの山を処理できなければ意味はないしなぁ。ゴミ処理場を作らないと根本的に解決には至らない。
しかし焼却処分や破砕処理は現実的ではない。日本でなら機械によって自動的に行える為可能だが、この住処でやるには管理者を用意しなければならない。俺はそんな面倒なのは嫌だし、仲間のトロールじゃ杜撰な結果になるのは明白だしなぁ。
とりあえず食い残しは、黒妖犬、ゴブリン、オークに与えて処理するか。アイツらなんでも食うからな、それと餌付けして今の立場を少しでも良くしとくか。
――そんな感じで、自宅のゴミ問題に取り組む。あとは燃やして処理することにした。
ゴミ処理を始めてから一週間が経った。その様子をなにも言わずに見ていた、父が突然話しかけてきた。
「……お前、最近妙なことをしているな?」
「やっぱり父さんにはそう思える?」
「あぁ。獲物の骨なんてその辺に捨て置けばいい。犬かゴブリンが勝手に食うからな」
「確かにね。けど、ちゃんと意味があるんだ。俺はトロールじゃないからね、弱いんだ。だからこうして餌付けで立場を分らせてやるんだ。それに……父さんの息子だからね、アイツらに舐められたくないしね」
「そうか……お前は人間だ、それでも俺の息子には違いない」
「ありがとう、父さん」
「それにお前には立派にトロールの才能があるしな」
「俺にトロールの才能が?」
「あぁ、俺たちは金物作りや薬作りもやる。その才能はお前が一番だ、父である俺は誇らしい」
「そっか……知らなかった」
「まぁ、お前の好きな様にやれ。なにかあれば俺に言え、手伝ってやるから」
「父さん……俺、父さんの息子で嬉しいよ」
改めて感謝の言葉を伝えたけど、父はなにも言わずに家の中へと入って行った。でも俺のことを理解してくれたのは充分に伝わっていた、それがすごく嬉しかった。
――そんなこんなでさらに二週間が経った。この頃になると、黒妖犬を数匹だけど飼い慣らすことに成功し、これで一人で外に出れる。これまでは弱すぎたから、一人で出歩くことは出来なかった。他の魔物に殺されることはなくても、襲われることはあったからな。八つ当たりやいじめの対象として見られてたからなぁ……あれは辛い。
それに黒妖犬が居れば狩猟の際に役立つ。
さて、少しは家の環境が改善されてきたとは言え、問題は山積みだ。次は何に取り組むべきか……やっぱ、自分自身のことだな。家は改善したが、自分自身のことをすっかり忘れていた……トロール感覚だから当然と言えば当然だけど。
風呂だ……身体を洗う行為をまともにしていないことを思い出した。まったくしていないわけではないが、体が痒いと感じたら水浴びするくらいだったしな。野生動物と大差がない状態だ。
いくら金物作りが出来ても、風呂釜を俺一人じゃ作れない。人間の武具を加工したり、作り直したりは出来るけど、大物となるとさすがに無理だ。
だから、ここは友人を頼らせてもらおう。アイツならきっと協力してくれるだろう、子供の頃からの付き合いで同じいじめられっ子だったからな。
同世代のトロールで一番の仲の良い友人宅へと向かうことにした。
「よぉ、今日はどうしたんだ? 森にでも行きたいのか?」
「それは心配ないよ。もう俺一人でも森に出掛けられると思うよ」
「なんでだよ? お前、俺らの中じゃ一番弱いんだぞ」
「知ってるよ。だから犬を連れ歩くことにしたんだ」
「へぇ、相変わらず変わったことするのな。それでなんの用なんだ?」
「頼みたいことがあってね。大釜を作りたいんだ、一緒に作ってくれないか?」
「大釜? そんなもん、なんに使うんだ?」
「まぁ、色々とね」
「まっお前が変なのはいつものことか。大きさは?」
「トロール一人が入れるくらいの」
「は? ますます、意味がわかんねー。そんな大きさの大釜なんてお前にはデカ過ぎだろ」
「駄目か?」
「いいぜ、一緒に作ってやるよ。お前と金物作りするのは面白いからな、変わった物ばかり作るから」
「ありがとう。でも変わってるは余計だ」
友人と共に大釜作りをすることに。もちろんこれは風呂釜として作っている。ゴミを焼却しているが、ただ燃やすだけなのはもったいと思った。だからその火で湯を沸かすことにした。
俺にとって大き過ぎる風呂釜を作った理由は両親に入って欲しかったからだ。年長のトロールほど、身体の汚れや痒みを多い。感謝したい気持ちもあった、これで少しは体が楽になると思ったからだ。
風呂釜が完成したので、友人と一緒に我が家へと向かう。そして父に頼み、早速入ってもらった。
その際に父が『お前、俺を煮て食べるつもりか?』なんて言うもんだから、友人と二人で笑い転げた。
煮沸消毒……までとはいかないが、これまでと比べれば消毒と滅菌効果はあるだろう。しばらくは父に毎日この風呂釜を使用してもらうことにした。それは風呂の効果を確かめる為とトロールが気に入るかを確かめるためだ。友人も見ていて興味を持ったようで、自分用の風呂釜を作っていた。
二人の様子と感想から風呂は好評とわかった。父なんかは『痒みが取れて、集中出来るようになった』と言っていた。
友人はいたく気に入ったらしく、暇を見つけては風呂に入っている。そんだけ入ると逆に体に悪い気がしなくもない。とりあえず、使ったあとの風呂釜もちゃんと洗うようにと忠告しておく。
風呂によって痒みが取れ健康を維持できるようになった。また臭いも抑えられ、狩猟の際に獲物に気付かれにくいこともわかった。
痒みは意外と厄介で、金物作りや薬作りをしている最中に痒みで集中力を欠くことがしばしばある。それは完成度を低める原因ともなる。
そういった理由からトロール中に風呂が広まり、族長公認のものとなった。これで住処のゴミ問題の半分は解決できた。ゴミを燃やして風呂を焚くのが習慣になった為、住処内のゴミが減った。
また、俺はゴブリン、オーク、オーガにも風呂に入るようにした。皆、満足な様子を見せる、その甲斐もあってか数匹のゴブリン、オーク、オーガが俺に従うようになった。俺としては友達感覚なんだけど、それを知られると他のトロールに怒られるので、内緒ではあるけど。会社でもそうだったけど、体裁というのは大事なものだ。
さて、残りのゴミ問題を解決しないとな。可燃ゴミは燃料になるので良いとして、問題は不燃ゴミだ。一応は、燃料としての役割がある為に可燃ゴミと不燃ゴミを分別することにはなった。
けど不燃ゴミは溜まる一方……破砕処理をしたいところだけど、手作業になるしなぁ。ゴブリン、オーク、オーガに任せると杜撰なうえに不平不満が出そうで厄介事になる可能性があるからなぁ。どうしたもんか、困ったな。大穴に溜め込むしか方法がないかなぁ、とその不燃ゴミの山を見つめながら悩んでると風呂好きになった友人が声を掛けてきた。
「ゴミ見ていて楽しいのか?」
「楽しくはないね」
「また考え事か? 今度はなにを悩んでるんだ? 俺なら喜んで協力するぜ」
「ありがとう。このゴミをどうにかできないかと思っていてね」
「ん? ゴミなんだから捨てるしかないだろ」
「それだといつかこの住処がゴミで埋もれるよ……どうにかして失くせないものかな」
「このゴミが失くなれば良いのか……だったら俺に言い考えがある。一週間くらい待っててくれ」
友人はそう言いながらどこかへと走り去ってしまった。一体、なにを考えているのだろう? このゴミ山をどうやって失くすというのか。俺には全くその考えが思いつかなかった。
リサイクルも出来ない不燃ゴミ……実はある程度とはいえ、元々リサイクルはしていたりする。主に金物作りとしてリサイクルしている。貴金属は溶かして、新たに金物として作り直すのが常だ。俺の武具もそうだしな。
しかし、この不燃ゴミはリサイクルにも使用できない……まさしくゴミである。友人はこれをどうするのか。とりあえず、一週間待つことにした。
―― 一週間ほど経過した。
俺は友人がどこかへと行った日から毎日ゴミ山を見つめ待っていた。そして彼は帰ってきたが、なぜかオークとオーガを数匹引き連れながらだった。まさか、オークとオーガにこのゴミをどうにかしようと言うつもりじゃないだろうな。それは俺も考えたが無理だと思うぞ……協力してくれた気持ちは嬉しいのだが。
「お帰り。どこに行って、何をしていたんだ?」
「へっへっへ。お前の為に集めてきたんだよ」
「オークとオーガにこのゴミを処理させようってのか?」
「違う、違う。コイツらは “コレ” を集める為だ」
友人はそう言いながら、背中に背負っていた大樽の中身を俺に見せてきた。その中身は、なんとスライムだった。
なるほどスライムか……確かにそれは盲点だったな。日本のゴミ処理を基にしていては出てこない考えだな、この異世界特有の考え方と言えるだろう。
スライム――RPGに登場する魔物の中で最も知られている存在。
アメーバかそれに類する不定形生物。一定の形状を保たない、ドロドロとした粘液生物の総称である。
スライムの体内は、分解酵素か酸性の粘液であり体内に取り込んだものを消化する。
確かにスライムならこのゴミを消化してくれるだろう。これでゴミ問題は解決だな。そして友人と共にゴミ山に大量のスライムを放す。
これまでの環境改善によって不衛生だった住処がまともになった。とは言え、元々ゴミ処理をしたいなかったに過ぎないから大したことはしていない。日本においては、ありふれたことでしかない。
しかしこの活動によって、俺はついに同族として迎い入れてもらえる事となった。また、俺の金物作りや薬作りの才能も認められたようで、住処での金物職人と薬師を任されるようにもなった。
これまでと違い、皆から頼られるのは凄く嬉しかった。だから俺は金物作りにより一層力を注いだ……その結果、武器に魔法を付与することに成功する。まぁこれは俺がRPGよろしく、そんな武器に憧れていたから作ったに過ぎないけど。
それとトロール、ゴブリン、オーク、オーガ、各々に見合った武具の制作にも力を注いだ。特にトロールだ、巨躯だけにあまり防具を身に着けることがない。サイズがないってのもある。
この武具の制作において、戦力が増強した。そして、俺は黒妖犬、ゴブリン、オーク、オーガを数匹ずつ従え統率していた。その彼らにも武具を俺は与えていた……まぁこれは俺の護衛としての戦力を高める為だったんだけど。
自分の為にと、そんなことを続けていたら族長から功績と統率力を見込まれ、次代の族長として認められてしまった。まぁ正直、嬉しくはあるけど人間である俺には相応しくないと思っている。一応はトロールの仲間として迎い入れてもらってはいるが、族長となると不平不満が出ることは明白だ。それはこの一族の崩壊をも招かねない、それは避けねばならない。
族長になった際に、少し様子見したら誰かを族長に任命するとしよう。俺は気ままに生活がしたい……というより、ただ金物作りをしていたい。族長になれば、そんなわけにはいかないからな、それは勘弁してもらいたい。
――数年の月日が流れ、現在は族長としての役目を担っている。
本音を言えば、もう辞めたい……マジ面倒くさい。上に立つって大変なんだなぁ、サラリーマンの時は自分が使われる立場だったからな。管理が大変だ、いつの間にかトロール、ゴブリン、オーク、オーガの連合とまでに拡大していた。日本だと会社や組織と言えるような状態だ……まぁみんな、INT値が低い集まりだからなんだけど。
そんな折――住処の近くで人間同士の争いが行われた。魔物である俺たちに人間の情報は入ってこない為、どういった理由で争っているのかは知らない。
斥候部隊を編成し、その争いの規模を調べさせることにした。規模によっては俺たちの縄張りにまで戦場と化してしまう、それは避けねばならない。
もちろん俺たちの領域に侵入してきた場合は、こちらも実力行使に出る。それが魔物ってもんだろう。無駄な被害を避ける為にも相手の情報は多く持っておきたい。
調べた結果、小規模の戦闘だったようだ。どこぞの国の小隊同士が小競り合いを始めただけだった。
これならあまり心配する必要はないな、これが大戦にまでに発展してはこちらが困る。魔物の連合とは言え、人間の軍隊と比べればこちらのが少数だ。それに俺たちは二つの軍隊を相手をすることになる、さすがにそれでは勝ち目はないだろう。例え勝てたとしても被害甚大だ。
族長としての器量が試されているような気分だ……やっぱ辞めたい。
状況によっては戦闘になる、その為に小隊を編成し戦場付近に潜み様子を覗うことにした。
見てみると、正規軍と……不統一な集団が戦闘を繰り広げていた。不統一な集団は、盗賊かなにかか? それとも冒険者たちだろうか。人間の世情に疎い俺には見当がつかんな。
全体の人数は50人弱と言ったところか。俺たちは20……見つからない様にと思って少数で来過ぎたか。伝令を出し、後詰めの部隊を待機させることにした。まぁ、20ほどの数でも勝てるとは思うが念には念を入れよ、と言うしな。人間同士の戦闘で数が減ったうえに統率の執れた魔物の軍勢による奇襲……であれば、苦戦を強いられることなく勝利するだろう。しかし、彼ら人間も伏兵や後詰めがいるやもしれないからな、警戒は怠れない。
――彼ら人間の戦闘を観察し続ける。1時間ほどで戦闘を終える事となった、見た限りでは正規軍が勝利を収めた様子。その正規軍は戦場を速やかに去って行った。どうやら、これ以上の戦闘には発展しないかもしれんな。しかし、それは憶測に過ぎないからもう少し情報が欲しいところだ。生き残った者がいるかもしれんな、居ればそいつから聞き出すとするか。
それに武具は俺たちの材料になるし、死体はそのまま食糧になるしな。ここまで出張ったのだ、何かしら得なければ皆が納得しないだろうしな。
「……どうだ、生きている奴はいたか?」
「族長、全部死んでる」
「族長、食べていいか?」
「食べるのはあとにしろ。まずは武具を剥ぎ取るのが先だ」
「族長、生きているの居た。居たけど……問題ある」
「問題? なにが問題なんだ?」
「コレ、エルフ。エルフ殺して食べるのは良くない。エルフと関わると問題になる」
「はへぇ~これがエルフか、初めて見たな」
人間に紛れてエルフの女性が居た。見た感じ20代頃……って、エルフは長寿な種族だったな。
怪我を負い、このまま放置しては失血死するだろうな。しかしエルフか、確かオークの祖先にあたるんだっけか。それと種族は違えど森に生きる者として同族意識が強いからな、ここで見殺しにしたりしては後々争いになり兼ねないか。
後詰めの一部を呼び寄せ、戦場に転がっている人間と馬の死体を持ち帰る。エルフの女性は手厚く扱い、治療するのが最善であると判断した。
住処へと戻り、エルフの女性を手当てすることにした。かなり負傷しているが問題ない、俺の作る薬は効果絶大だ。この程度なら、一ヵ月で完治するだろう。
治療している最中に痛みを感じたのかエルフは目を覚まし、跳び起きて警戒している様子を見せる。
「おっふ⁉ びっくりしたなぁ。大丈夫だ、安心しろよ傷の手当てをしていただけだ」
『…………』
思いっきり警戒しているなぁ。仕方ないか、気付いたら見知らぬ場所に連れて来られてるんだもんな。それに俺の容姿も警戒心を高めているんだろうからな。
俺は魔物を統べる立場にある、そんな俺が人間の姿のままでは示しがつかないと自分自身でそう判断した。だから、俺はギリースーツのような毛むくじゃらの毛皮を纏い、人間と獣の中間のような骸骨を彷彿とさせる仮面を着けていた。
そんな姿の魔物なんて見たこともないだろうからな……実際にそんな魔物は居ないしな。ここは仕方ない、警戒心を解いてもらう為にも人間の姿を見せるしかないか。
「――これでどうだ? ほら人間だよ。安心してもらえたか?」
『……ここはどこだ? お前は何者だ?』
「んあ? 言ってる言葉がわかんねぇ。つーか、お互いに通じてないなこりゃ……困った」
まさか言語が違うとは思ってなかった。ここじゃあ、普通に通じてたからなぁ……魔物の共通言語だと思ってた。どうやら、エルフにはエルフの言語があるようだし。
困ったので、住処にいる者の中でエルフと会話が出来る者を探してみたが皆無だった。通じるとは思ってないが、一応日本語で話しかけたが予想通りに通じなかった。
このまま手当をしないわけにもいかないから、なんとか身振り手振りでこちらの意志を伝える。なんとか通じたようで大人しく治療を受けてくれた。
『見たところ、ここはトロールの住処のようだが、なぜ人間がいる?』
「なんだそんなに俺の薬が怪しいか? 心配ないよ、効き目はバッチリだからさ」
『まさか取り替え子か⁉』
「何かに驚いているようだけど……やっぱエルフとトロールじゃ治療法が違うのかなぁ」
治療する中、彼女がなにかを語りかけているのはわかる。しかしその内容までは理解出来なかった。言語が違うと、こうまで大変だと思わなかったな。会話が成立しているかも怪しいが、なにも話さないよりはマシだろう。例え通じなくとも意志を伝えたいということは通じているはずだ。
そんな感じで言葉が通じないまま、彼女の治療を続ける。初めはかなり警戒していたようだけど、2週間もここで一緒に過ごせばそれなりに意志の疎通が出来るようになり、彼女の警戒心が薄れていると思えるようになってきた。
そして、彼女を助けてから一ヵ月――予想通りに全快に至った。
だからエルフが住む場所まで送ろうと思い連れ出そうとするのだが、なぜが嫌がる素振りを見せる。これまでの生活で言葉は解せなくても意志の疎通はできていた。しかし、今回は彼女の意志がわからない。なぜ帰郷を拒むのか、彼女を送り届けることはなんとか伝わっているはずなのに。
「困ったなぁ……なんで帰りたくないんだろう?」
『お前は人間だ、ここにいるべきじゃない。私と共に来い』
「……ん~何かを必死に訴えているのは伝わる。でも理解できん」
『お前は人間なんだぞ⁉ トロールではない。なぜそれがわからない』
とにかく、彼女は今は帰るつもりはないようだ。無理矢理、連れて行くのはまずいだろうしなぁ。仕方ないから、ここは彼女が帰る気になるまで気長に待つしかないか。
なにしろここはトロールの住処だ、生活圏――というよりは生活習慣が違うんだ、そのうち嫌になり帰るだろう。今までは怪我のせいでここに留まって居たに過ぎないしな。
彼女に好きなだけここに居れば良いと、身振り手振りで伝える。
すると――
『良し、まだここに居て良いのだな? なら、お前を人間に戻してやろう』
「あぁ、気にしなくてもいいよ。帰りたくなったら、いつでも帰って大丈夫だよ」
『私は人間の言葉もわかる。だから、まずはお前に人間の言葉を教えてやる』
「なんだろ? 急に態度が変わったみたいだけど……なにがしたいんだろ?」
相変わらず会話は成立してないようだけど、別にいい。端から俺は異端な存在なのだから。人間でありながらトロールでもある、それが俺という存在なんだ。だから種族が違ってもいつかきっと必ず彼女とも共存していける……そう確信している。
――トロールの住処に、人間の男一人とエルフの女が一人。後に、この奇妙な共存は思わぬものへと発展していくことになる。
農耕を得意とするエルフが、トロール達にそれを伝えさらなる繁栄へと導いた。また、トロールの金物作りはエルフ達へと伝わり繁栄へと導いた。
こうして様々な異種族が共存しあい、それが時間を掛けて広がり……やがては、異種族が共生し合える国を作り上げるまでに発展していくことになる。
その際に立役者である一人の人間の名が、後世にまで残ることに成る。
『憧れの異世界転生を果たしたけど、気が付いた時になぜか周りにはトロールしかいなかった。劣悪な環境だったので、ありふれた環境改善に取り組んだらいつの間にかトロールの族長に任命されることになっちゃいました。』~完~
最後までご愛読してくださり有難うございました。
長々と書いてきましたが、読んだ感想はどうだったでしょうか。なるべく、トロールの特性などを活かせるように頑張ってみました。それと前書きで言いました「出オチ」感にならないように、ストーリー性を高めたつもりです。
「最長タイトル」だからといって、それで終わらずに物語として楽しめるように書かせて頂いたつもりです。