新しい年になりました
「先に部屋に行ってて」
真央は一度台所に行き、冷蔵庫を開けた。
すると、リビングでテレビを見ていた雅子が話しかけてくる。
「香蓮ちゃん泊るの?」
「んー、多分ね。それか夜中帰るか」
そういいながら500mlのミルクティーのペットボトルを2本取り出した。
「それがどうかしたの?」
「泊るなら朝、お雑煮食べるかなって思ったから」
「あー…なくて大丈夫だと思う。じゃあおやすみー」
雅子と博幸にそういってから部屋に戻ると、
香蓮がドレッサーに座ってスキンケアをしていた。
「香蓮!なんで使ってるの?わたしまだ使ってないのに!」
「だってあるんだもん、使うに決まってるじゃん」
「ひどい!どいてよ」
「もうちょっとで終わるから待って。それにしても大きいドレッサーっていいね。なんか大人になった気分」
くそー、なんかすごく悔しい!
ドレッサーがあるのに、今まで通り机に座ってドライヤーで髪を乾かし始めると、
スキンケアを終えた香蓮が真央のところにやってきた。
「終わったから交代」
そういって手を差し出してくる。
ドライヤーを貸せということか。
「ドライヤーはまだ貸さないよ。わたしが終わってから」
真央はドライヤーのコンセントを抜き、ドレッサーのところに行ってから
再びコンセントに電源をさしてから乾かし始めた。
やっと使えた…けど、やっぱりドレッサーっていいな。
毎日こうやってやるのが楽しみになってくる。
10分ほどで乾かし終わったので、
香蓮にドライヤーを貸すと「そこで乾かしたい」と言い出した。
「スキンケアが終わったらね」
「早くしてね」
「香蓮、これわたしのなんだけど」
「知ってるよ」
ホントにこういうところは香蓮らしい。
昔からのことだから、いちいち気にしてなんていられないや。
スキンケアを終え、香蓮に場所を譲ってあげてから真央はテレビを付けると、
気が付けばもう11時を過ぎていて、紅白歌合戦も終盤に差し掛かっていた。
「あー、もうすぐ今年が終わるのか。なんかそんな気しないよね」
いつものように香蓮が一緒にいるので、特にそう思えていた。
髪を乾かし終わった香蓮も隣に座ってテレビを見ながら話しかけてくる。
「それよりさ、木谷とは次いつ会うの?」
「明日初詣に行くよ」
「そうなんだ、じゃあ神社で会うかもね!わたしも佑太と行くから」
会ったら会ったで少し恥ずかしいかもしれない。
「もちろん手くらいは繋ぐんでしょ?」
「うっ…多分」
そんな姿、絶対に見られたくない…やっぱり会わないことを祈ろう。
「そのままキスくらいまではいっちゃいなよ!今の木谷ならしれくれそうだし」
「ま、まだしないよ!キスなんて…それに一週間前に付き合ったばかりだし…」
「付き合ったのは一週間前だけど、両想いだったのは3か月以上前からじゃん」
「そうだけど…」
まだそこまで考えられない。
今は2人で一緒にいられるだけで満足だ。
しかし、香蓮はなおも攻めてくる。
「えー、だってファーストキス自体まだでしょ?もうすぐ高3になるんだから早めに済ませておいたほうがいいよ」
付き合ってすぐにファーストキスを済ませていた香蓮は、少し上から目線で言ってくる。
まずい、完全に香蓮のペースだ…なんとかしないと。
真央は話題を変えることにした。
「そういえばお風呂で話してた続き、教えてよ」
「えー…どうしようかな」
どうしようかなって…自分でお風呂から出たらって言ったし!
もったいぶって話そうとしないのを見ると、相当言いたくて仕方ないらしい。
「早くー、お風呂から出たら話すって言ったじゃん」
「んー…しかたないなぁ」
少しニヤニヤしながらも、頬はなぜか赤くなっていた。
「一昨日ね、佑太としたの…」
「したって?なにを?」
すると、香蓮は頬を膨らませながら呆れていた。
「もー…エッチに決まってるじゃん」
「エッチ…?ホントに??」
「うん」
そっか、香蓮が佑太くんと…
「よかったね、おめでとう!で、どうだった?」
「痛いって聞くけど、わたしはそこまでじゃなかったかな。あ、こういう感じなんだって思った」
「へー…そうなんだ…」
「なんか興味深々だね。真央もすぐに経験することになるから」
「ちょ、ちょっと何言ってるの!」
思いがけないことを言われてしまったので、真央は焦っていた。
「だって付き合ってればそのうちするんだし、木谷だって男なんだから真央とエッチしたくなるよ」
エッチに関してはキス以上に考えていないので、返答に困る。
「そ、そのうちね…」
「そのうちっていつ?」
「そんなのわかんないよ!そういうのって決めてするもんじゃないし…」
「真央って思った以上に純情。男の頃からそうだったけど、根本はやっぱりそんな変わってないよね」
「そう…かな?」
特に意識したことがなかったので、聞き返してしまった。
「うん、少しぶっきらぼうだけど、根がすごく真面目で優しくて、そんな真央が幼馴染の親友でよかった。男とか女とか関係なくね」
急に真面目なことを言うので、少し拍子抜けしてしまう。
でも、そう思ってくれていることには感謝しかない。
「ありがとう、わたしも香蓮が幼馴染の親友でよかったよ。わがままでムチャばっかり言って困らせてばかりだけど、内心はすごく友達想いで自分のことよりもわたしや巴菜のことを優先してくれて…そんな香蓮が好き!」
「ありがとう、真央。じゃあ早くキスしてエッチしてね」
「は?」
なんでそうなるの?意味わかんない!
「さっきの撤回、香蓮なんて大嫌い!全然話が繋がってないから」
「だって真央にも同じ気持ちを知ってもらって共有したいんだもん。親友として」
嘘だ、絶対に嘘だ。
「本当は面白がってるだけでしょ?」
「バレた?」
そういって香蓮はケラケラと笑っていた。
ホント…香蓮といると…なんだかんだいって楽しい!
真央も一緒になって笑っていると、ゴーンと鐘の音が外から聞こえてきた。
「あ、除夜の鐘…」
「もうすぐ年明けだね」
気が付けば紅白歌合戦も終わってて、あと数分で年明けになる。
「来年はどんな年になるかな?」
「真面目に進路のことも考えないとね…」
「もう、そういうところ本当に真面目だよね、真央って」
「だって3年になるんだよ、普通考えるでしょ」
「そうだけどさぁ…例えば来年は誰と同じクラスになるかな、とかデートどこに行こうかなとかあるじゃん」
ホント香蓮って毎日楽しそうでいいな…
そんなことを思っていたら、テレビでは新年へのカウントダウンが始まっていた。
一緒にカウントはしないが、2人でそれを眺めている。
「3・2・1、ハッピーニューイヤー!」
年が明けたので、2人で同時に「明けましておめでとう」と言い合い、笑っている。
すると、今度は2人とも急いでスマホを操作し始めた。
まずは龍弥におめでとうを送る。
次に巴菜に送ろうとしたら、先に巴菜から「おめでとう」がきてしまった。
これはもちろん同時に香蓮にも届いている。
「巴菜も一緒だったらよかったのにね」
巴菜は田舎に帰っているので、戻ってくるのは3日の夜だ。
こんな感じでしばらくの間はスマホをいじって過ごしていた。
「あ、龍弥からだ」
「なんて書いてある?」
「普通に明けましておめでとうって」
「なんか寒くない?「愛してる」とか「大好きだよ」とか書いてないの?」
「そんなこと書くはずないじゃん!新年のあいさつだよ?」
「佑太はちゃんと書いてくれたよ」
「ホントに?見せてみせて」
「真央が木谷に「大好き」って送ったら見せてあげる」
まったく意味がわからない。
絶対にそう送らせたいだけだ。
「本当は書いてないでしょ」
「バレた?」
「さすがにそれくらいはわかる、香蓮の性格を考えたら」
「うー、最近の真央は純粋じゃなくなってきた。すぐに疑うんだもん」
「そうさせたのは誰?」
「んー…、巴菜!」
「香蓮だよ!!」
そういいながらも、お互いのことが大好きな2人は、
明け方近くまでずっと笑いながら話していた。




