突然の訪問者
クリスマスも終わり、街中が正月の準備になっていて、今年もあとわずかだなと実感する。
真央はバイトのシフトをたくさん入れていたので、今日も朝から夕方までバイトだった。
あーあ、もう少し減らしておけばよかったかな…
龍弥と付き合うと思っていなかったので、デートできないことを後悔していた。
それは龍弥も同じで、お互い冬休みはバイト三昧になっている。
終了時刻の夕方5時になり、「お疲れさまでした」と挨拶してお店を出ると、
外には意外な人物が真央のことを待っていた。
なんでここにいるの…?
それは衣香だった。
あいかわらずニコニコしながら真央のことを見ている。
龍弥と付き合ったことに対して文句を言いにきたのだろうか?
せっかく幸せな気持ちでいるのに、すべてをぶち壊されるかもしれない。
最大限の警戒をしながら衣香に訊ねた。
「なにか…用?」
「ちょっと話があるの」
やはり、龍弥と付き合ったことを言っているに違いない。
文句を言われるなんてまっぴらだ。
それに関わりたくないので、真央は無視して歩き出したら、
衣香が腕を掴んで引っ張ってきた。
「ちょっと!」
「いいから来て」
あまりにも力強く強引に引っ張るので、さすがに観念せざるを得なかった。
「わかったよ!行くから放して!!」
怒鳴り気味に言うと、衣香は掴んでいた腕を放してくれた。
どこに連れていくつもりだろう?
衣香は無言のまま歩き続ける。
気まずさと逃げ出したい気持ちで、
真央にとってはこの移動時間がとても長く苦痛に感じた。
5分ほど歩き、着いたのは小さな公園だった。
ブランコが2つ、それに滑り台とベンチしかなく、もう暗くなっているので子供はおろか、人は誰もいない。
背を向けていた衣香がクルリとまわって、真央の正面を向いてきた。
すると、ニコニコしていた顔が急に真顔に変わったので、
怒鳴られるか罵声を浴びせられると思い真央は身構えたら、衣香が突然頭を下げてきた。
「真央ちゃん、ごめんなさい!」
「へ…?」
あまりに突然の出来事に、真央は呆気に取られてしまった。
ごめんなさい?それに…真央ちゃんって…
「わたし、龍弥くんを取られたくなくて、真央ちゃんに最低なこと言っちゃって…本当にごめんなさい!」
ダメだ、さっぱり話が見えてこない…罠かなにか?
完全に混乱してしまい、思考が追い付いていなかった。
「あのさ…ちゃんと説明してくれる?」
まだ警戒心は解かずに、探ってみる。
衣香は顔を上げ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「龍弥くんの気持ちが、真央ちゃんに向いてるって初めからわかっていたの。それでも龍弥くんのこと諦めきれなくて…離れてから3年間ずっと好きだったからね。どうやったら龍弥くんの気持ちを真央ちゃんからわたしのほうに向けられるかなって必死に考えたの。けど正攻法でいっても無理だと思った。真央ちゃんすごくかわいいし、みんなからも好かれてるし」
なんなんだ一体?今までの衣香のイメージとまったく違うんだけど…
これが本当の衣香なの?
話は続くので、とりあえず最後までちゃんと聞こうと思った。
「そんなときね、クラスの子から真央ちゃんが春まで男の子で、突然女の子になったって話を聞いたの。信じられなかったよ、だって普通に女の子だし友達になりたいとすら思ったから…」
あはは…友達ねぇ…
わたしのほうが信じられないよ…
「でもこれはチャンスだと思った…真央ちゃんをあおって、龍弥を諦めさせようと…例えまわりから嫌われてでもって。だけど意味なかったね、真央ちゃんは女だって堂々としてるし、龍弥くんも真央ちゃんは女だっていうし…さすがにわたしが諦めるしかないよね。でもね、ただじゃ諦められないから、別れる条件に真央ちゃんと今すぐ付き合うようにって言ったの。真央ちゃんだったらしかたないって思えるから。イブの日、どうだった?」
そういうことだったんだ…だから龍弥は「今すぐ」って言ったんだね。
それにしても…後押ししたのが衣香っていうのがすごく不思議…
でも嘘は言ってなさそうだし、わたしもちゃんと話すかな。
「うん、付き合ったよ」
それを聞いて、衣香は「よかったね」と微笑んでいた。
なんか調子狂うな…
「ところでさ、なんでバイト先知ってたの?」
「龍弥くんから聞いたの。真央ちゃんに謝っておいてってお願いしたら、自分で謝れって言われちゃってね。だったら早く謝ったほうがいいと思って…許してくれるかな?」
そういいながら衣香は申し訳なさそうな表情をしていた。
まあ…後悔してるっていうし、こんな顔されたらねぇ…
「もう…いいよ。過ぎたことだし」
「ホント?ありがとう!」
衣香は手を握ってきて喜んでいる。
ホント…調子狂う…なんか以前も似たようなことがあった気が…
真央は杏華のことを思い浮かべていた。
「もう絶対に邪魔しないから仲良くしてね」
やっぱり杏華と同じパターンだ…
「そうだね、あはは…」
苦笑いをしながらも、衣香が本当は悪い子じゃないというのがわかったので
内心はホッとした真央だった。
「バイト終わったら外にいるからビックリしちゃったよ」
「あはは」
その日の夜、龍弥から電話がかかってきたので、衣香のことを話すと呑気に笑っていた。
「あはは、じゃないから。龍弥、今日くるのわかってたんでしょ。教えてくれてもよかったじゃん」
「突然のほうが面白いと思ってさ」
「そういう問題じゃない!龍弥とのいきさつ知らなかったんだから…また文句言われるかと思ってすごく警戒したんだよ」
こっちの気も知らないで、他人事のように言っている龍弥に段々と腹が立ってきた。
文句の一つでもいわないと気が済まない!
「大体龍弥はさ、人の気持ちを考えなさすぎなんだよ!特に女心がわからなすぎ。だから」
「悪かったよ、ごめん」
まだ言い終わってないのに、
かぶせるように謝ってきたので真央も言葉に詰まってしまった。
「もう…今度から気を付けてよ…」
「わかった、ところで元日は会えるんだよな?」
「うん、その日は初詣に行きたかったからバイト入れないでおいた」
「よかった、楽しみにしてる」
「初詣を?それともわたしと会うのを?」
わざとこういう質問をしてみる。
昔の龍弥なら照れて誤魔化していただろうが、今の龍弥は違った。
「両方だよ、初詣も真央に会えるのも」
こういうことを普通に言われるのは、とても嬉しい気持ちになる。
「ありがとう、わたしも楽しみにしてる。お風呂入るからそろそろ切るね」
通話を切り、鼻歌を歌いながら着替えを持って部屋を出ると
雅子が立っていたので驚いた。
「な、なんでいるの?」
「真央の洗濯物持ってきたんだけど、楽しそうに電話してたから入りづらくて」
一気に嫌な汗が噴き出てくる。
「まさか…会話聞こえてた?」
「さあ?あまりよくは聞こえなかったけど」
そう言いながらも、雅子はニコニコと微笑んでいた。
絶対に聞こえてたな…マジ最悪…
穴があったら入りたい気分で階段を下りようとしたら、雅子が呼び止めてきた。
「恋人がいるのは恥ずかしいことじゃないんだから堂々としていいのよ。むしろわたしは真央に恋人ができて嬉しいんだから」
「ホントに…?」
「もちろん」
そうだよね、別に恥ずかしいことじゃないよね!
わたし、女の子だし!
「ありがとう、母さん!」
真央は再び鼻歌を歌いながらお風呂場に向かっていった。




