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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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自暴自棄

真央が学校に復帰したのは金曜日だったので、土日を挟んでの登校。

巴菜が言っていたように1日目よりはだいぶ落ち着いていた。

龍弥は相変わらずよそよそしいが、それ以外は比較的普通だった。

ただ、やはり真央のまわりは女子のほうが集まってくる。

このまま完全に女子になってしまいそうで少し不安だった。

「竹下!」

「お、佐山」

廊下を歩いていたら1年のときに同じクラスだった佐山が話しかけてきた。

「お前、マジで女になったんだな」

「ああ、なんとなく慣れてきつつあるけどな…」

「そうなのか、まあ俺はお前を男としてしか見ないからよ」

こういう風に言ってもらえるのは嬉しい。

真央の心はまだ男だ。

「頼むぜ、マジで!」

「当たり前だろ、じゃあまたな」

「おう!」

真央は気分よく教室へ戻った。

「なんか機嫌よさそう、いいことあった?」

「まあな」

鼻歌を歌いながら授業の準備をした。


翌日はついに体育の授業がやってきた。

一人で教員用の更衣室で着替えてから校庭にでる。

男子は体育館だったので、校庭には女子しかいなかった。

やっぱり気まずいな…

そーっとそこに近づいていくと香蓮が「真央」と呼んでくる。

このときばかりはすがる様に香蓮の後ろに隠れてしまった。

「堂々としてればいいのに、ねえ巴菜」

「そうだよ、こそこそしてるほうが不自然だよ」

チャイムが鳴り、体育教師の加賀がやってきた。

加賀は40歳くらいの女性でサバサバしている性格だ。

「竹下もちゃんといるね?」

「は、はい…」

「じゃあまずは準備運動から」

特別扱いをせず、授業は普通に始まった。

それでもこの場所は落ち着かないな、やっぱり…

この日はソフトボールの授業だった。

ボールを持つととても大きく感じてしまった。

そっか、手…小さいもんな

ペアになってキャッチボールを始める。

相手は香蓮だ。

「近くないか?」

「えー、これでも遠いよ。えい!」

香蓮が思いっきり投げてきたボールをグラブで受け止める。

そしていつもの感覚で投げ返すと香蓮の手前に落ちてしまった。

「あ…」

そうか、筋力も落ちてるんだった…

「ほら、遠いでしょ」

「う、うん…」

仕方なく少し近づいてキャッチボールを続けることにした。

なんか俺、情けないな…男なはずなのに…

「みんな肩慣らしは終わった?じゃあ試合するよ」

試合と聞くと燃えてくる。

ランナーを3塁に置いて真央に打席がまわってきた。

「よし、絶対に返すぞ!」

「真央、頑張って」

得意げにバットを持って打席に入る。

初球を叩くとボテボテのセカンドゴロになってしまった。

思った以上にバットスイングが遅かったからだ。

「マジかよ…」

それでもセカンドの子がうまく取れなくてセーフで1点を取ることができた。

みんな野球やソフトボールなんてほとんどやったことがないので

試合と呼べるような内容ではないのだ。

これには思わず苦笑いだ。

それでも点が入ったのでみんなキャッキャと盛り上がっていた。

チェンジになって戻ると、杏華が近づいてくる。

「男のくせに女子に交じってムキになってバカじゃない?」

一気にまた気分が落ちてくる。

こないだのように香蓮や巴菜がすぐに慰めてくれたが、

この言葉は心に大きくのしかかっていた。

そうだよな、俺は男なのに女子と試合して本気になって…バカだな。


このときから真央は静かになってしまった。

一応登下校は香蓮と一緒にしているが、「ああ」とか「そうだな」という答えばかり。

「真央、今日うちに来る?」

「悪いけどやめとく」

「そっか…」

香蓮はそれでも頑張って話かけるが、巴菜たちは話しかけづらくなっていて、

あまり会話をしなくなっていた。

こんな状態が二週間続いた。


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