3年ぶりの香蓮の部屋
香蓮が「ただいまー」と玄関を開けると、懐かしい感じがした。
最後に行ったのはいつだ?確か中2の夏に宿題を写させてもらったときだから
3年ぶりか、隣なのに。
「おかえりー」
奥から由紀恵が笑顔で出てくる。
「あら、お友達?」
「友達というか」
真央が照れながら「お久しぶりです」と会釈をして「あ、ひょっとして!」と
気づいたようだった。
「真央ちゃん!こんな感じになったのね」
香蓮の母、由紀恵は昔からの名残で今でも「真央ちゃん」と呼んでくる。
「真央ちゃん、ちっとも来てくれないから嬉しい!さあ上がって」
「お、お邪魔します…」
由紀恵はおっとりとした性格で香蓮とは真逆だ。
この2人といると調子狂うんだよなぁ…
そんなことを考えながら3年ぶりに香蓮の部屋に入る。
部屋は白とピンクで統一されていて、小物や化粧台なんかもある。
3年前よりかなり女の子らしい部屋だ。
「どうしたの?」
「思った以上に女っぽい部屋だなって思って」
また頬をつねられる。
「だから女子だって何回も言ってるじゃん!」
「いてて…化粧なんかもするの?」
「休みの日はね。って、何回もメイクした状態で会ってるんだけど!」
「意識してないから気づかなかった…」
「ホント真央ってそういう細かいところ気づかないよね」
なんだろ、この感覚…香蓮のことはなんでも知っていると思っていたのに、
この部屋には俺の知らない香蓮がいる…
真央は物心ついた頃から香蓮が隣にいて、常に一緒だった。
活発で行動力があって強引でわがままな香蓮が。
そのイメージのままずっときていたので、
こういう感じの香蓮というのを想像したことがなかった。
「どしたの?」
香蓮が顔を覗き込んでくる。
よく見ると香蓮は巴菜たちと同じ今どきの高校生の顔をしていた。
そうだよな、香蓮だって成長してるんだよな…
俺は幼馴染といいながら、香蓮のことをちゃんと見ていなかったんだ…
「なんでもない、久々の香蓮の部屋だからちょっと緊張しただけだよ」
「そんな変わってないでしょ」
「いや、かなり変わってるよ。特に香蓮が」
「どういうこと?」
「俺、見てるようでちゃんと香蓮のことを見てなかった…香蓮はずっと昔のままで妹のようなイメージしかなかったから…こんなにも女の子だなんて気づかなかった。ごめん…」
ややあってから香蓮が頬を膨らませた。
「今さら?ずっとわたしは真央の成長を見てたのに。また背が伸びたなとか、最近たくましくなったなとか、姉のような気分でね」
そこまで言って香蓮が笑っていた。
「なんで香蓮が姉なんだよ、妹だろ!」
「はあ?絶対に真央のほうが下だから」
言い合っていたら由紀恵がケーキとお茶を持って部屋に入ってきた。
「わたしからすれば双子みたいな感じだけどね」
「ちょっとお母さん!なんで双子なの?」
「あら、すごくそっくりじゃない。いつもそうやって言い合ってるくせに本当は仲がいいところとか」
それはお互い心の中ではわかっていることなので反論できなくなってしまった。
「ほらね、昔から変わらないんだから。ふふふ、ケーキ置いておくね」
由紀恵は微笑みながら部屋を出ていった。
「ホント昔からこんな感じだな…」
「うん…」
「ちょっとは…成長するか」
「そうだね、もう高校生だもんね」
「けど妹は香蓮だからな」
「だから真央だって言ってるじゃん!しかも真央は弟じゃなくて妹、めっちゃ世話の焼ける妹!」
「妹とか言うな!大体香蓮はいつも…」
お互い目が合うと笑いだしてしまった。
そう、俺たちはなんだかんだで仲がいいんだ。
俺が男だろうと女だろうと、きっとこれからもずっと…