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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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女になってから初登校

「リボンもしないといけないんだよな…」

鏡を見ながらリボンを付けて着替え終わった。

やっぱり恥ずかしいな…俺はうまくやっていけるのか…

「真央、支度できた?」

「あ、うん…」

リビングに降りると雅子は「似合ってる」と言ってきた。

博幸は少し複雑な顔をしている。

女子の制服にしたと言ったときは「なんで?」と散々言ってきたが、

あきらかに似合ってなかったと雅子が説得し、渋々わかった感じだったが、

今の姿を見て、確かにこっちのほうが自然だと思ってしまったからだった。

朝食のパンを半分だけ食べて時計を見たら7時38分、

そろそろだとバッグを持って玄関へ向かった。

靴を履いているとドンドンと叩く音が聞こえてきた。

「じゃあ…行ってきます」

「いってらっしゃい」

雅子に見送られドアを開けると、香蓮が立っていた。

いつもの光景だと思ったが、少し違っていた。

香蓮の顔が同じ目線にあるからだ。

「わー、真央いいじゃん!」

「そ、そうか?」

やはり女子の制服は恥ずかしい。

思わず下を向いてしまった。

「香蓮ちゃん、真央のことよろしくね」

「任せて!行こう」

「う、うん…」

なぜだろう、いつもなら「ああ」なのに「うん」と言ってしまった。

真央は香蓮に引かれるように学校へ向かいだした。

「なに、緊張してるの?」

「そりゃするだろ…」

「誰も気にしてないって。それより真央歩くの遅くない?」

「香蓮が速いんだよ、もっとゆっくり歩いてくれよ」

「これでわたしの苦労わかった?いつも真央が速いから頑張ってついて行ってたんだよ。歩幅が違うのに。おかげでその速度に慣れちゃったんだから。けど今は真央もわたしと同じくらいの歩幅だから速く感じるんだろうね」

そういって少しだけ歩く速度を遅くしてくれた。

「真央にはもっと男と女の違いを教えていかないといけないな」

「別にいいよ、そんなの」

「そういうわけにはいかないの!教室でだって股開いたらいけないんだからね、それにね…」

あー先が思いやられる…

駅についていつもの車両に向かおうとしたら「こっちだよ」と腕を引っ張られた。

そこは女性専用車両だった。

「今までは真央が一緒だったから普通車両に乗ってたけど、今日からはこっち。空いてるし楽だよ」

そうか、俺はこれに乗ることができるんだもんな…

女性専用車両は思った以上に快適だった。

決して空いているわけではないが、ギュウギュウになることはない。

ただ女性しかいないのは複雑な気分だった。

駅を出て再び歩き出すと巴菜を発見した。

会うの気まずいなぁ…それに恥ずかしいし…

「巴菜!」

香蓮は人の気も知らずに巴菜を呼んでいた。

「お、おい!」

巴菜が振り向き、香蓮を見たあとに真央を見てきた。

目が合い、巴菜は一瞬固まったが、すぐにニコっと微笑んできてくれた。

「おはよう、香蓮。真央くん」

「お、おはよう…三上」

「へー、こんな感じになったんだ、香蓮と同じくらいの身長だね」

巴菜は香蓮より大きい、つまり今の真央よりも大きいということだ。

少し見上げているのが悔しい。

「気にしてるんだから言うなよ」

「わたしは逆にこれくらいになってくれて嬉しいけどね。いつも真央のこと見上げてて首が疲れてたんだから」

「お前が小さすぎるからだろ」

とっさに真央は身構えた。

こういうことを言ったあとは蹴りが飛んでくるからだ。

ところが香蓮は蹴ってこなかった。

「蹴らないのか?」

「蹴らないよ、今の真央は女の子だから。その代わり…」

香蓮は頬を軽くつねってきた。

「なにすんだよ!」

「今度からほっぺたつねる。ってか、真央のほっぺた柔らかくて気持ちい!巴菜触ってみ」

「ホント?」

巴菜も軽くつねってくる。

「ホントだ、プニプニしてる!」

なんだこの状況…

「いい加減にしろ!」

2人を振りほどくと、香蓮も巴菜も笑っていた。

「まったく…」

そういいながらも、こういう楽しい感じは嫌いじゃないと思った。

それに2人のおかげで緊張も和らいでいたし、一緒に教室に入ったのも大きかった。

席に着くまではスムーズにできた。

問題はここからだ…

みんなが真央を見てくる。

うわー…すげー嫌だ

真っ先に来たのは龍弥だった。

「真央…だよな?」

「う、うん…」

「そ、そうか…いろいろ大変だったな…」

少しよそよそしい感じだ。

それもそうだろう、男友達が女になったら、どう接していいかわからない。

「その…あれだ、俺は今までとかわらないから仲良くやろうぜ」

「サンキュー、龍弥」

他にもみんな「大変だったね」「困ったことがあったら言ってね」

とやさしい言葉をかけてくれる。

そんな中、威圧するような視線を一つだけ感じた。

その相手に視線を向けるとプイっと反対を向いていた。

なんだあいつ?

ホームルームの時間になり、黒岩が改めて真央のことを説明し、

それ以上は触れてこなかったので安心した。

それでも休み時間になるとみんなが集まってくる。

そこへ伊藤がやってきて変なことを聞き始めた。

「なあ、女ってどんな感覚だよ?」

「どんな感覚って言われてもなぁ…背が縮んだから歩くのが遅くなったとかトイレが近くなったとか…」

「そうじゃなくて、オナニーのほうだよ!」

「はあ?」

真央はそんなこと一切していない。

しいていえば、胸を揉んでみたくらいだ。

まわりの男子たちも興味深そうな顔をしている。

こいつら…人の気も知らないで!

怒りがこみ上げてきた瞬間に香蓮が伊藤に向かってノートを投げつけた。

「伊藤死ね!ホント最低!」

「違うよ、ほら、男と女の感覚が違うっていうからどうなのかと思って…」

更に今度は教科書を投げつけた。

「死ね!死ね!」

まわりの女子たちも「バカじゃないの!」「クズ!」と怒っている。

伊藤が離れていくと、ほかの男子たちも気まずそうに真央から離れていってしまった。

「ホント男子って最低!真央、気にしなくていいからね」

香蓮をはじめ、まわりの女子たちに守られる形になってしまい複雑だった。

さっきの件のせいか、休み時間になっても真央のまわりは女子しか

集まらなくなってしまった。

そんななか、凜が質問してくる。

「竹下くん、ひょっとしてブラしてる?」

「一応…」

香蓮が「一緒に買いにいったんだよ」と話すと「もう女子じゃん!」と言ってきた。

「まあ一応女子だから…」

身体はね…

「もう竹下くんじゃなくて竹下さんって呼ぼうかな。それとも真央ちゃん?」

「やめてくれよ、頼むから」

「あー、照れてる!かわいい」

まわりが盛り上がり、勘弁してくれと思っていたら、杏華がこっちへやってきて

「気持ち悪い」と通りすがりに言って、教室を出ていってしまった。

気持ち悪い…か

この一言はショックだった。

好きで女になったわけじゃないのに、好きで女子の制服着て、

女性の下着を付けているわけじゃないのに…

「頭きた!なんなの、あいつ」

「けど気持ち悪いなんてひどい、香蓮じゃなくても怒るよ」

かなり落ち込んだが、香蓮たちが慰めてくれたのがせめてもの救いだった。


昼休みになり、香蓮たちはパンを買いに行くから一緒に行こうと誘ってくれたが、

昼はいつも龍弥と学食と決まっている。

「悪いな」

断ってから龍弥のところへ行き、「メシ行こうぜ」というと

「あ、ああ」とたどたどしい返事で返してきた。

どうもいつもの龍弥ではない。

移動中もそっけない受け答えしかしてこないので思い切って言ってみた。

「お前、俺が女になったからってよそよそしくしてんじゃねーよ」

「そ、そういうわけじゃねーよ」

「俺は俺だ、見た目が変わっただけで今まで通りだ。女扱いしたらぶっ飛ばすからな」

「そ、そうだよな、真央は真央だもんな」

とは言ったものの、やはりいつもの龍弥とは違っていた。

「ライスは…付けないのか?」

真央はいつもラーメンライスと決まっていたのに、ラーメンのみだったからだ。

「女になったせいでよ、胃が小さくなっちゃったんだよ」

「そうか…」

龍弥は無言でご飯を食べ始めていた。

どうも調子狂うな…


そして午後の授業が終わり、やっと長い1日も終わりを迎えた。

「真央、一緒に帰ろう」

「そうだな」

今日は誰とも約束をしていないし早く帰りたかったので香蓮と帰ることにした。

ただ、駅までは巴菜も一緒だ。

凜は部活なので学校で別れる。

「どうだった、女の子1日目は?」

「疲れたよ」

それに対し巴菜が答える。

「最初だけだよ、すぐにみんな慣れてくれるから」

「だといいけど…」

本当にそう願いたいものだ。

巴菜とも別れて香蓮と2人だけになる。

「帰ったら何するの?」

「テレビ見るかゲームするか」

「だったら遊びにきなよ」

「えー、疲れてるんだけど…」

「いいじゃん、わたし暇だし。それにさ、真央って全然来てくれないじゃん。いつもわたしが行ってばっか」

「そりゃこんなんでも一応女の部屋だからな」

「一応じゃなくて立派な女です」

またほおをつねられてしまった。

「けど一応気を使ってたんだ?」

「そりゃ、まあ…」

「けど今は女だから気を使わなくいいじゃん。はい決まり!」

「おい…」

相変わらず強引な香蓮だった。

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