準備も終わり
今日は制服の寸法を測りに行く日だ。
雅子と一緒に車に乗る。
「ブラウス着なかったんだ?」
「着るか!あれは香蓮が勝手に選んだんだよ。まったく…」
今は最初に自分で選んだストライプのシャツにジーンズという格好だ。
これでも女に見えてしまうのが悲しい。
寸法を測ると、「男性用ですよね?」と聞いてきた。
「はい」
「これちょっと着てくれます?」
出てきたのは別の学校の制服だった。
「多分これならサイズ合うと思うので、イメージできるかなと」
同じブレザータイプでデザインも似ているので、着慣れた感じで着替えてみた。
着心地は悪くない。
ただ、鏡を見て絶句してしまった。
あきらかに似合ってないのだ。
しいていうなら男装しているような感じだ。
雅子を見ると同じような反応をしている。
そりゃそうだよな、いくら中身は男でも身体は女だもんな…
せめてもうちょっと中性的な顔になってればおかしくないんだろうけど、
悲しいことに今の真央の顔に男っぽさはない。
毎日こんな感じで学校に行くのか…
「真央…試しに女子の着てみたら?」
嫌だと思ったが、試しに着るだけならいいかなと思い、着てみることにした。
「女子用ならサンプルでピッタリのサイズのがありますよ」
これスカートだよな、本当にいいのか…
恐る恐るブラウスを着てスカートを履く。
スカートってこんな感じなんだ…
そしてブレザーを着て鏡の前に立った。
真央の率直な意見、普通。
髪が短くても普通に違和感ない女子高生が写っていた。
「真央、かわいそうだけど絶対にそっちのほうがいいよ」
雅子の言うことは理解できる。
自分の気持ち的には恥ずかしいが、まわりの目からの恥ずかしさはない。
仕方ないか…
「こっちにします…」
「わかりました。これなら同サイズのもの在庫がありますよ。今日持って帰れます」
あーあ、結局女子の制服にしてしまった…香蓮になんて言われることやら
真央はいつしか香蓮のことで憂鬱になっていた。
その日の夜、香蓮が家に来て「結局女子にしたんだ」とニヤニヤしている。
「うるさい、仕方ないだろ」
「でも真央と同じ制服着て学校行くの楽しみだよ、これは本当に」
前も同じことを言っていたな…
「それでいつから学校に行くの?」
「一応制服できてからってことだったんだけどさ、もうできちゃったから明後日から行くよ。学校にも連絡したし」
「明日からくればいいのに」
「なんか学校側が生徒たちに説明してからにしてくれって言ってた。まだ話してないんだ?」
「うん、だからわたしも誰にも話してないよ」
「ふーん…」
みんなの反応を想像すると少し怖くなってきた。
それを感じ取ったのか、香蓮が笑顔で言ってきた。
「大丈夫、わたしがついてるから!」
このときばかりは香蓮が頼もしいと思えた真央だった。
翌日、香蓮が学校に行くと朝のホームルームで
担任の黒岩が大事な話があると言ってみんなを黙らせた。
真央のことだ!と香蓮は瞬時に理解した。
「最近、竹下が休んでいるが、実は竹下に大変なことが起きてな…信じられないかもしれないが、4日前に突然女になってしまったんだ」
これを聞いて「嘘つくな」「バカじゃねーの」とざわつき始める。
「真面目に聞け!」
黒岩が怒鳴ってシーンとなる。
「こんな話を嘘でも冗談でも言えるか?本当のことなんだ、そうだろ大谷」
「へ?」
みんなが一斉に香蓮を見てきた。
なんでわたしに振るの?担任なんだから自分で説明してよ!
「は、はい…真央は女になってました…」
死んでもわたしのせいかもしれない、とは言えない。
「そういうことだ、それで明日から学校に戻ってくるが、デリケートな問題でもあるから気を使ってやってくれ」
そこで、クラス委員の根津杏華が手を挙げる。
「なんだ根津?」
「竹下くんは男子として学校にくるんですか?女子としてくるんですか?」
「一応学校としては女子ということになる」
「じゃあトイレとかどうすんですか?体育の着替えだって、一緒なんて無理です!」
相変わらず真面目だなと思った。
正直、香蓮は杏華のことが好きではない。
真面目で融通がきかず、いかにも堅物だからだ。
「トイレは職員用のを使ってもらう、体育の着替えも女性の先生の更衣室って決まってるから問題ないだろう」
「あります!わたしは絶対に反対です。じゃあ身体測定は?体育の授業だって一緒になんて嫌です」
香蓮は杏華の発言にイライラしてきた。
黒岩がいくら言っても聞かないからだ。
まわりのみんなもうんざりしている。
もう限界!
香蓮は机をバンと叩いて立ち上がった。
「辛いのは真央なんだよ!なんで根津さんが被害者みたいに言うの!それにわたしは気にしないよ、別にトイレが一緒でも着替えが一緒でも」
「それは大谷さんが付き合ってるからでしょ」
「だから付き合ってない!真央はもうわたしたちと同じ女なんだよ、そこまで毛嫌いしなくてもいいじゃん」
すると巴菜が「わたしも気にしない」と言い出した。
「さすがに着替えとかはまだ抵抗あるけど…真央くんが一番つらいんだよ、わたしたちがサポートしてあげないでどうするの?」
この言葉を聞いて、クラスの女子たちが「わたしもそこまでは」と言い始めた。
かたくなに反対しているのは杏華だけだった。
「根津、お前だけだぞ」
「わかりました…我慢するけど、わたしは絶対に認めません!」
そう言い切って話は終わった。
休み時間になると、みんなが一気に香蓮のところへ集まってくる。
「本当に女になったの?」
「うん、普通に女だったよ。本人も最初はショック受けてたみたいだけどもう吹っ切れたのか、今はいつもの感じになってるしね」
そんな中、お調子者の伊藤大吾が「かわいいの?」と聞いてくる。
「もうちょっと髪伸びればかわいいかも」
それは香蓮がずっと思っていたことだった。
「そうかー、ヤラせてくれないかなぁ」
ニヤニヤしながら言っていた。
「バカじゃないの!死ね!」
ムカついて本気で怒鳴ると「冗談だよ」と苦笑いしながら離れていった。
「あいつマジ最低だね」と巴菜が言っているので思いっきり頷いていた。
男子ってなんですぐにああいう発想をするんだろう…
香蓮にはまったく理解できなかった。
そこへ凜が話しかけてきた。
「これで竹下くんと付き合えなくなっちゃったね」
「だーかーらー、そういう関係じゃないって何回言えばわかるの?」
けど、こういうことも今後言われなくなってくるのが嬉しかった。
放課後、巴菜と帰っているとふいにこんなことを言ってきた。
「本当に女の子になっちゃったね」
「え?」
「ほら、こないだ帰りに真央くんが女の子だったらって話したでしょ」
そうだよ…その一言が原因かもしれないんだよ…
「でもね、なんとなく想像つくんだ。香蓮と真央くん、きっと今までと同じ…ううん、今まで以上に仲良くなりそうって」
「そうかな…?」
「うん、絶対にそうだよ!でもそうなってもちゃんと仲間に入れてね」
「決まってるじゃん、巴菜大事な友達だもん!」
すると巴菜は「ありがとう」と笑顔で返してくれた。
このまま駅前のファーストフードへ行き、今後の作戦を練ることにした。
「名付けて、真央をうちらのグループに入れよう作戦!」
真央は今まで通りに生活するのは大変だから、
自分たちのグループに入れて守ってあげようというものだ。
ちなみに香蓮のグループは、香蓮、巴菜、凜の3人だ。
ほかにも友達は多いが、特にこの3人で行動することが多い。
「伊藤みたいな考えの男子もいるし、根津さんもいるからね」
「あー、ホント根津さん嫌い。自分がモテるとでも思ってるのかな?真央は絶対に嫌いなタイプだよ」
「なんかわかる!っていうかさ、根津さん好きな人っていないと思うよ」
本人がいないので2人は言いたい放題だ。
どんどん話が逸れていき、結局作戦がなにもまとまらないまま7時近くになっていた。
「やばい、そろそろ帰らないと!」
「どうする、何も決まってないよ」
「続きは帰ってからLINEでしよう」
「そうだね」
巴菜と別れ電車に乗り、家に帰る前に竹下家のドアを叩いた。
ドンドンと直接ドアを叩くのは香蓮だけなので普通に真央が出てくる。
「どうした?」
真央はこないだ買ったデニムとロンTを着ていた。
身体のラインがしっかりでているので女の子だとよくわかる。
「明日寝坊しないでねって確認」
「しないよ、さすがにね…」
もう緊張しているのがわかる。
「じゃあ7時40分にね」
「ああ…」
冗談抜きでちゃんとサポートしてあげないと!
真央と別れて香蓮は隣の自分の家に入った。