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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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香蓮に連れていかれて

寸法を測るのは明日、制服ができるまで一週間、

それが終わるまで真央は学校を休むことになっている。

今日は両親とも仕事に行っているので一人だ。

「暇だなぁ…」

誰かと連絡を取ろうにもみんな学校だし、

仮に学校じゃなくても今は女の自分を知られたくない。

結局ゲームをして時間をつぶし、時計を見ると夕方の4時半だった。

もうこんな時間か。

そのタイミングで、例のドンドンという音が聞こえる。

「また香蓮か…」

そう思いながらも、一日引きこもっていたので、ちょっと楽しみだった。

ドアを開けると私服姿の香蓮が立っていた。

「あれ、制服じゃないんだ」

「うん」

入っていいよと言ってないのに香蓮は勝手に上がってくる。

「また勝手に入って…」

「どうせ暇してたんだからいいじゃん」

香蓮は真央よりも先に部屋に入っていった。

「今日は真央のために、あるものを持ってきました」

「どうせろくでもないもんだろ?」

香蓮が袋から取り出したのは服だった。

「これ、真央でも着れそうなやつ。ずっとブカブカなわけにいかないでしょ、それに着替えて買い物行くよ」

「は?なに言ってるの?」

あまりにも唐突すぎたので呆れてしまった。

「おばさんに頼まれたの、服とか早急に買い換えないといけないから一緒にいってあげてって。お金も預かってる」

香蓮は5万円を見せてきた。

母さん…香蓮と手を組みやがったな…

まあ、確かにこのブカブカの服を着てるよりマシかもしれない…けど

「香蓮の服なんてどうせスカートとか持ってきてるんだろ。ワンパターンなんだよ」

「ちゃんと見なよ、一応気を使ってパンツ系にしたよ。それにさ、その髪型でスカートとか似合わないし」

よく見るとジーンズにグレーのパーカーだった。

これなら違和感なく着れそうだ。

「悪い、サンキュー」

「わかればよろしい、あとこれ」

小さな布切れを手渡していた。

「これって…」

「スポブラ、さすがに普通のブラのサイズは合わないだろうから、それで我慢して」

いやいやいや…

「無理だろ…」

「はぁ?ノーブラで出かけるほうが無理だから!いい、いくら中身は男だって言っても身体は女なんだよ、それくらいは自覚して!!」

香蓮が珍しく真面目に怒っている。

威圧されて「はい」と返事をしてしまった。

しかたない、着替えるか…

パジャマのボタンを外そうとしたら、ジッと香蓮が見つめているのに気付いた。

「なんで見てるの?」

「真央の胸どれくらいなのかなって思ったから」

「バ、バカじゃねーの!見んじゃねぇ」

慌てて背を向けると、「いいじゃん」といいながら回り込んできた。

「今は女同士なんだし、小さい頃お風呂だって散々一緒に入ったじゃん」

「いつの話をしてるんだ、幼稚園の頃だろ。それに女同士って言うな」

「だって女同士じゃん。それにちゃんと付けられるかチェックしないと」

「付けるもなにも…こんなの被るだけだろ」

「ほら、やっぱりわかってない!いいから脱いで」

別に見られるのは構わないけどさ…しかたない。

脱いで上半身をさらけ出した。

「よかった」

「なにが?」

「わたしのほうが大きかったから」

「どうでもいいわ!」

さっさとスポブラを被る。

なんだこれ、気持ちわりぃな…

すると、香蓮から指導が入った。

「付けたら自分で胸を掴んで位置を調整するの。やっぱりわかってないじゃん」

「うっ…」

ちょっと悔しい。

言われたとおりにすると気持ち悪さがなくなり、楽になった気がした。

「どう?」

「まあ…そこまで悪くはないかな…」

チラッと鏡を見ると、スポブラを付けた姿が写っている。

俺、ホントに女なんだな…

急に恥ずかしい気持ちになったので、慌ててパーカーを被った。

そしてパジャマの下を脱ぐと、

ゆるゆるのボクサーパンツを見て香蓮が「それ、気持ち悪くない?」と聞いてきた。

「仕方ないだろ、これしかないんだから」

「それもそっか、なおさら早く買いにいかないとね」

「はいはい…」

最後にデニムを履くと、サイズはぴったりだった。

けど…

「ジーンズ履いてるのに女の脚みたいだな」

「女の脚じゃん」

「そうじゃなくて!」

「ストレッチ入ってるからぴっちりなるの。これはさすがに我慢して、わたしストレッチ入ってるのしか持ってないもん」

そうだな、貸してくれただけでも感謝しないとな。

「すまん」と一言謝ってからちゃんと鏡を見る。

男でも女でもおかしくない格好をしているのに、髪が短いのに、女にしか見えない。

ここでようやく真央は悟った。

どうやったって女にしか見えないんだ…これならいくら男っぽくしても無意味だな、

だったら今の自分に似合う格好をするのが一番かもしれない

「真央、準備OK?」

「ああ、行くか」

香蓮のスニーカーを履いて、一緒に自転車で買い物に向かった。

着いた先はファストファッションで人気のお店。

ここなら3万あればそれなりの数を買えることができる。

ただ、レディースのコーナーなどいったことがないので少し緊張する。

大丈夫かな…

ドキドキしていたが、まわりは一切気にしていなかった。

「真央、考えすぎだから」

「そうみたい…だな」

まわりからも女としか見られていないので、あまり気にせず服を選ぶことにした。

無難なやつ、無難なやつ…

手に取ったのはストライプのシャツ。

「おかしくないよな?」

「うん、いいと思うよ」

「サイズはどれだ…」

「Sだよ」

S…前はLLだった、LL、L、M、S…こんなにサイズダウンしてるのかよ…

散々小さいとバカにしていた香蓮と同じくらいだもんな…

気を取り直してほかの服も選ぶ。

3枚ほどシャツを選ぶと「シャツ以外も買いなよ」と言われてしまった。

そして香蓮が手に取ったのはブラウスだった。

「これ普通に女物じゃん…」

「全部女物じゃん。はい買おう、あとこっちも」

香蓮は勝手にかごに入れてしまった。

「おい!」

「次いくよ、次」

最初はおとなしかった香蓮だったが、いつしか香蓮が選び始めていた。

絶対にこうなると思ったんだよな…

パンツ系はデニムが2本、あとはカラーパンツが2本。

「これから暖かくなるからショートパンツもいいね」

「もうなんでもいいよ…」

途中から何を買っているのかもわからなくなってきていた。

「ここスニーカーとかも安いんだよ」

23cmのサイズがピッタリで苦笑いしてしまう。

28cmだったんだけどなぁ…

「あとは下着かな」

思った以上にシンプルなのが多くてホッとした。

黒いスポブラを3枚選ぶ。

絶対に何か言ってくると思ったが、香蓮は何も言わなかった。

そしてショーツも選ばなければいけない。

「なんか種類がいろいろあるな…」

「ボクサーショーツでいいんじゃない?こういうほうが抵抗なさそうだし」

デザインがボクサーパンツに似ているので、

これならいいかなと思い、それも黒を3枚買うことにした。

「こんなもんかな」

「こんなもんって大量だろ…」

それでも総額は4万に届かない金額だった。

「よし、帰ろう」

「まだだよ、もう一つ行くお店があるの」

ついていくと、真央は足を止めてしまった。

「待て、香蓮!ここは無理だよ。それにさっき買っただろ!」

「普通のも買っておいたほうがいいし、サイズだってちゃんと測ってもらわないと!それにね、このお店安くてかわいいのが多いんだよ。わたしもよく買ってるんだから」

そう、それは下着専門店だった。

結局、強引に中に連れていかれる。

そうか、ここに連れてくるからさっきは何も言わなかったのか…

「こんにちは」

香蓮が真っ先に店員に話しかける。

「あら、いらっしゃいませ」

どうやら顔なじみらしい。

本当によく来ているみたいだ。

「この子のサイズ測ってもらえます?」

「いいですよ、こっちにきてください」

「は、はい…」

なんだかよくわからないうちに試着室へ連れていかれ、上を脱ぐように言われた。

どことなく恥ずかしい…

だが、店員は淡々とメジャーを使ってサイズを測っていた。

「トップが80、アンダーが67、Bの65ですね」

なんのことだかよくわからず「はぁ」と返事をしていた。

「試着したかったら声かけてくださいね」

また「はぁ」と返事をしていた。

戻ると香蓮が「どうだった?」と聞いてる。

「Bの65とか言ってた…Bカップっでことか?」

「うん、よかった、真央に負けてなくて。わたしBとCの中間だから」

香蓮が勝ち誇っているのがムカつく。

「それより65って何?」

「アンダーだよ。胸の大きさってトップとアンダーの差で決まるから」

「ちなみにわたしもアンダーは65だよ」と言っていたが、どうでもよかった。

「ほら、こうやってB65って書いてあるでしょ、この中から選ぶの。しかもショーツもセットなんだよ」

とはいっても、どれもこれもかわいいデザインのものばかり。

とても選ぶことなんてできない。

「これいいじゃん」

香蓮はピンクのブラを持っている。

「ピンクなんて無理!」

「もー、わがまま。じゃあこれは?」

シンプルな白、まだマシだ。

「いいよ、それで」

「じゃあまず一つ、次は…」

「まだ買うの?」

「当然」

このあとほかのデザインの白いのと黒、最後に黄色のものを香蓮は手に持っていた。

「これデザインかわいくない?わたしね、これのピンク持ってるんだよ」

「お前な、そういうの言うなよ…」

「なに、想像しちゃったの?そっかぁ、真央はわたしの下着姿を想像しちゃったんだ」

「するか、バカ!」

頭をコツンと叩いてやった。

「いたーい。叩いた罰で色違いの黄色買うからね!」

罰の意味がわからない、どうせ付けることないから「なんでもいいよ」と答えた。

「あと最後に…」

「まだ買うのかよ!?」

「これは大事なものだから」

そこにはサニタリーショーツと表記されていた。

「これ何?パンツ買ったじゃん。それにさっきのにも付いてるし」

「これは生理のときに履くやつ。真央もそのうち生理くるでしょ、多い日とかはサニタリーにしたほうがいいよ」

生理という存在を忘れていた。

詳しくは知らないが、出血するというのだけは知っている。

そうか…俺にもいつか生理がくるのか…

一気に憂鬱になる。

「不安?」

「まあ…よくわかってないし…」

「きたら教えてあげるから。それよりどれにする?」

結局これも香蓮が選び、長かった買い物が終わった。

家に帰ると、雅子が「いっぱい買ってきたねー」と笑っている。

「それより香蓮とグルになって!」

「いいじゃない、わたしと行くより香蓮ちゃんと行ったほうがいいと思ったし。それにその服、香蓮ちゃんのでしょ?似合ってるよ」

「うるさい。まったく…」

なんだか一気に疲れがどっときた気分だ。

真央はそそくさと自分の部屋へ向かった。

買ったものを改めて見てみると、ホント大量に買ったなと思った。

「これなんだ?」

ズボンかと思ったらオールインワンだった。

「あいつ、どさくさに紛れてこんなものまで…」

さらにスカートも1枚入っていた。

こんなの絶対に履かないのに…

一瞬、スカートが気になった。

履かないよな…?

頭を左右に振ってタンスの中にしまった。

そんなことをしていたら、夕飯だよと声をかけてきたので、下に降りる。

「父さんまだなんだ?」

「今日は遅くなるって、昨日休んじゃったから」

自分のせいで休んだから申し訳なく思う。

食べようと思って箸を持ち、ご飯をみて「あれ?」と思った。

ご飯の量もおかずの量も少なかったからだ。

「今の真央ならこれくらいがちょうどいいのかなって」

そうだ、昨日残しちゃったもんな…

今日の昼もインスタントラーメン食べたけど、これだけでお腹いっぱいになったし…

雅子の予想通り、これくらいの量がちょうどよかった。

ほどよい満腹感で食事を終えることができた。

「ごちそうさまでした。ちょうどよかったよ」

そう伝えると、雅子はニッコリしていた。

お風呂に入るために、買いなおしたパジャマとボクサーショーツ、

それとスポブラを手に取った。

今日からこれを使うんだよな…

そんなことを思いながらお風呂に入り、出てからボクサーショーツを手に取った。

けど、これって男物っぽいよな。

履いてみると、ボクサーパンツよりもピッチリしている。

ただ、履き心地は悪くなかった。

履いた姿を見てみる。

うーん…男っぽいデザインだけど履くと女のお尻だな…そりゃそうだよな、女物だし…

気を取り直してスポブラを付け、パジャマを着る。

「あれ?ボタンが逆??」

そういえば女物はボタンが逆だと聞いたことがある。

止めづらいな…なんで逆なんかにするんだよ

心の中で文句を言い、パジャマに着替えた。

喉が渇いたのでリビングに行くと、

その姿を見た雅子が「あら、いいじゃない」と言ってきた。

「はいはい」

もうこういうのは香蓮で慣れた。

適当にあしらって麦茶を飲んでいたら、ちょうど博幸が帰宅してきた。

「ただいま。真央か…一瞬誰かと思ったぞ」

「仕方ないだろ、前の服はサイズが合わないんだから」

「まあ、そうだよな」

博幸は苦笑いしている。

苦笑いしたいのはこっちだよ、まったく…

そう思いながら部屋に戻った。

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