真央の存在
香蓮も巴菜もほとんど会話がないくらい静まり返っていた。
「真央から返事ないね…」
「そうとう怒ってるんだね。取り返しのつかないことしちゃったね…」
LINEは既読になっているのに返事がないので2人は不安になっていた。
「わたしね…真央が本気で怒ったの初めて見たかもしれない…小さい頃からずっと一緒だったけど、いつもふざけあってて、何をしてもいいって勘違いしてた…真央は本気で嫌だったんだっていうのに気づかなかった…」
「それはわたしもだよ。最近の真央、ますます女らしくなったから、彼氏できたらいいなって…けどこういうのって強制するもんじゃないよね。そんな当たり前のことがわかってなかった…」
「真央が許してくれなかったらどうしよう…」
香蓮は思わず泣き出してしまった。
巴菜も涙目になっている。
2人が後悔に暮れていたとき、突然ドアが開く音がした。
ドアのほうに視線を向けると真央が立っていた。
「ただいま…」
「真央…」
最初は少し気まずい顔をしていたが、真央はニコッと笑顔になった。
「ちょっと、何お通夜みたいな顔してんの!ホントに俺がいないとダメなんだから」
それを聞いて香蓮も巴菜も少し笑顔になる。
香蓮は涙を拭いてから言った。
「また俺って言ってる…」
「あっ…癖なんだって」
そう返すと、香蓮は泣きながら笑っていた。
「もう怒ってないから、今まで通り…ね!」
「うん!」
今度こそ香蓮も巴菜も本当に笑顔になった。
そこで真央がスマホを見せてくる。
「終わらせてきた」
「え?」
何を言っているんだろうと思いながらスマホを見ると
創とのLINEのやり取りが表示されていた。
「ああ…言っちゃったんだね…」
「巴菜がいうとおり、あいつ多分わたしのこと好きだったと思う。それがわかった瞬間、無理ってなった。こっちは友達としか思ってなかったのにさ、毎日話したいって言われても…それが香蓮や巴菜みたいな親友だったら毎日でも話したいけど、一回しか遊んでない相手に毎日話したいって言われてもねぇ、それでいて中身のない内容だよ。友達としても無理ってなっちゃったよ」
いつになく真央が本音をペラペラと話している。
相当ストレスが溜まっていたんだ…
やっぱり真央にとって、創くんは友達以上にはなれない存在だったんだね。
真央の感情も考えずに押しつけようとしたことを本当に申し訳なく思う。
「香蓮、このことで佑太くんと気まずくなっちゃったらごめんね。けど我慢できなかったの…男らしくないんだもん」
そんな話をしていたら香蓮の電話が鳴りだし、画面を見ると佑太の名前が表示されていた。
このタイミング…絶対に創くんのことだろうな…
真央もいるし巴菜もいるので出づらいけど、
香蓮は佑太を無下にはできないので電話に出た。
「もしもし」
「あのさ、真央ちゃんからなんか聞いてる?」
聞いてるというか…目の前にいるんだけど…
「う、うん…」
真央も巴菜も聞き耳を立てている。
「そっか…香蓮ちゃんのほうから真央ちゃんのこと説得できない?創のやつマジで落ち込んでてさ…」
佑太もそうとう参っているようだ。
けど、今の真央に説得なんてできない。
それに香蓮も無意味だと悟っている。
「ごめん…無理だよ」
「無理って…親友なんでしょ?」
「親友だから無理なんだよ!ごめんね、最初はわたしも創くんと真央が付き合ったらいいなって思ってた。けど創くんはちょっと変わってて…ああいうLINEばっかり送ってたら女の子は嫌になっちゃうよ。それに僕はあなたが好きですっていうのが丸わかりだし。それでいて遊んでいるときはグイグイいかずに控えめでさ。ただの友達ならいろんな人がいるから創くんみたいな友達がいてもいいかなって思うけど、恋愛は別だよ。それにさ、佑太くんに説得するように頼むところがすごく嫌。男なら自分で行動しないと!佑太くんに頼む暇があるなら直接創くんが真央に電話でもすればいいのに」
「そういうけどさ、あいつはそういうの苦手なんだよ。だから俺たちが…」
「佑太くん、こっちは創くんのボランティアじゃないの!もし創くんが本当に女の子と付き合いたいなら自分が積極的にならないと無理だよ。中身のないLINEを毎日送りつけるんじゃなくて、相手の気持ちも考えながら、行くときはいく、引くときはひく、じゃないとホントに無理だよ」
「じゃあ協力はしないと…」
「協力もなにも紹介したよ。そこからは自分で考えて行動するもんじゃない?わたしは彩華に佑太くんを紹介してもらったけど、そこから彩華に一度も頼ってないよ。全部自分で考えて自分で行動して佑太くんとやり取りしてる。佑太くんだってそうでしょ」
「そりゃそうだけどさ…けどあいつはこういうの慣れてないから」
「慣れてないから面倒を見なきゃいけないの?悪いけどそれは違うと思うよ。ただ甘やかしてるだけだと思う」
「香蓮ちゃん…けっこうハッキリ言うんだね。けど創は俺の親友なんだよ、正直そこまで侮辱されてムカついてる」
「そうかもしれないね…けど、わたしも真央が大事な親友なの。真央が本気で嫌だって言っているのに協力はできない」
「わかった。もう創のことは頼まない。それと…俺もちょっと香蓮ちゃんのこと考えさせて。正直ちょっと香蓮ちゃんに対する気持ちがわからなくなってる」
きっとそういうと思っていた。
ここまでハッキリ言われると、創の親友である佑太の立場もない。
けど香蓮はどうしても譲れなかった。
軽い気持ちで真央を失うことになっていたかもしれない、
真央を失うのと佑太を失うのはどっちが痛手か、そんなのはわかりきっていた。
「わかった、佑太くんに任せるよ。けどね、これだけは言わせて。わたしは間違ってると思わない。じゃあね」
香蓮は通話を切って「ふー」と一息ついた。
真央が慌てて言ってくる。
「香蓮、あんなこと言って大丈夫なの?そこまで気を使わなくていいのに…」
「だって真央のこと説得してくれっていうんだよ。そんなの無理に決まってるじゃん。それでも納得してくれなかったから言っただけだよ」
「ありがとう…でも自分のせいで佑太くんとうまくいかなくなったら…」
真央が泣きそうな顔をしている。
真央にそんな顔をさせたらダメだ。
もとはといえば、真央を紹介した自分が悪い。
「ダメならダメで次を探すよ。男なんて腐るほどいるけど、真央は一人しかいないもん。ね、巴菜」
「そうだよ、彼氏なんて別れてまたできての繰り返しだけど、親友はそういうわけにいかないもん。って香蓮はまだ付き合ってもいないけどね」
そういって巴菜が笑っていた。
「そうそう、お互いいいなって思ってる程度だから。だから真央は気にしないで」
「うん…ありがとう!」
真央は優しく微笑んでいた。
そうだ、わたしにとってはこの笑顔が一番大事なものだ。
それに気づいた香蓮はいつもより誇らしい気分になっていた。




