香蓮にバレて
「誰…?」
香蓮は思わずそう言ってしまった。
布団から出てきたのが真央ではなく、同い年くらいの女の子だからだ。
お互い目が合う。
どう見ても女の子なのに、知っている気がする…
「真央…なの?」
女の子は無言で頷いだ。
「なんで女の子に…」
「俺が聞きたいよ!朝起きたらこうなってたんだ!!」
声はあきらかに女の子の声だ。
それなのに真央に間違いないと思っていた。
「朝起きたら女にって…あっ」
真央が女になりますように
まさか本当に?そんなバカな…
たかが彗星にそう願っただけで本当に女になるはずがない!
けど…もしそれが本当に原因なら…今は黙っておこう!
それに、もし本当にこのままなら彼氏とか付き合ってるとか言われずに
真央と仲良くできる!
香蓮の性格は、超ポジティブだ。
今の真央をいろいろ知りたくなっていた。
「ねえ真央、ちょっと立ってみて」
「あ、ああ…」
ゆっくり立ち上がると、正面に香蓮が立ってきた。
「やっぱり…」
「なんだよ?」
「背が同じくらいだなって思って」
「お前、なに呑気なこと言ってるんだよ!」
「だってなっちゃったものは仕方ないじゃん!ウジウジしてれば解決してくれるの?」
「うっ…」
それは香蓮の言う通りかもしれない。
「けどな、俺は男なんだぞ!」
「男だろうと女だろうと真央は真央じゃん。わたしは今までと変わらないよ」
「香蓮…」
そうだよな、男でも女でも俺は俺だ…
香蓮といると不思議と元気になってくる。
「ありがとな」
「そんなカッコつけてもカッコよくないよ、今の真央は女だから」
「う、うるせーな!香蓮こそ少しは女らしくしたらどうだ」
「わたしのどこが女らしくないっていうの、めっちゃ女子じゃん!」
「どこがだよ?ガサツだしすぐ蹴るし、言いたいことはズケズケ言うし」
いつの間にかいつもの感じに戻っていたことに真央は気づかず、
香蓮と言い合っていた。
そこにちょうど博幸と雅子が帰ってくる。
「おい、何を騒いでるんだ?」
「あ、おじさん、おばさん、お邪魔してます」
「なんだ、香蓮ちゃんか。いらっしゃい」
「いらっしゃい、じゃないだろ!こいつ勝手に入ってきたんだぞ」
「別にいいじゃない」
なぜうちの両親は勝手に家に入ってきてもどうも思わないんだ…
「それより香蓮ちゃん、驚いたでしょ?」
「最初はね、でも中身はいつもの真央だったから」
香蓮のせいか、全体的に和やかな空気になってしまった。
当の本人である真央も、いつの間にか明るいいつもの自分になっている。
「それより学校はなんだって?」
「そうそう、ちゃんと診断書も見せたら納得してくれて、今まで通り通って問題ないって」
それは一安心だ、まわりの反応が恐ろしいけど…
「ただね…どうしても男女の体格で差もあるし、いろいろ問題があるから体育は女子と一緒って言ってたの」
「まあ…仕方ないだろうな」
さっき香蓮と布団のつかみ合いをしたときに負けてしまった。
それくらい筋力が落ちているということだ。
男子に交じって体育をしても迷惑なだけだろうと薄々感じていた。
「あとね、制服なんだけど男子でも女子でもどっちでもいいって。どうする?どっちみちサイズが合わないから作り直さなきゃいけないし」
そんなの決まってる。
「もちろん男子のほうだよ」
「なんで!?」
反論してきたのは香蓮だ。
ありえないと怒っている。
「ありえないのはこっちのセリフだろ!俺は男だぞ、女子の制服なんて着られるか!」
「今は女子じゃん!」
「中身は男だ!」
また二人で言い合いが始まると、博幸も雅子もあきれたように「2人で相談して決めて」、
といって出て行ってしまった。
「なんで香蓮と決めないといけないんだよ、俺は絶対に女子の制服なんて選ばないからな」
「なんでそう意固地なわけ?女子なんだから女子の制服着るのが普通じゃん」
「あー!もう何度言えばわかるんだ!俺はな…」
ドアの外からこのやり取りを聞いていた雅子が笑っていた。
「ホント仲いいね」
「ああ、けど本当に選ばせていいのか?俺としては男子の制服で通ってもらいたいんだが」
「いいじゃない、どっちでも。わたしは香蓮ちゃんに任せたいな。だってさっきまで真央、あんなに落ち込んでいたのに今はあんなに元気になって。わたしたちがあれだけ慰めても変わらなかったのにね。香蓮ちゃんが一緒なら真央は大丈夫、それがわかったの」
それは一理あると思ったが、
香蓮に任せると真央は絶対に女らしくなってしまいそうな気がした博幸だった。
いくら話してもお互い譲らず平行線。
なかなか折れない…くそー、こうなったら。
「じゃあさ、ジャンケンで決めようよ。わたしが勝ったら女子の制服、真央が勝ったら男子の制服」
「なんでそうなるんだよ、意味わかんねー…」
「あ、負けるのが怖いんだ?怖いんなら観念して女子の制服着なさい」
こういえば真央は絶対にジャンケンする、そして真央は必ず最初にチョキを出す。
本人にはいったことがないが、それを香蓮は知っていた。
「怖いはずないだろ、いいよ、ジャンケンで決めようぜ。最初はグー、ジャンケン」
「ちょっと早い!」
「ポン!」
予想通り真央はチョキを出した。
だが、香蓮はとっさだったのでパーを出してしまっていた。
「あー!」
「はい、俺の勝ち!これで文句ないだろ」
「ずるい!いきなりなんて」
「ルールはルールだろ」
不覚!めちゃくちゃ失態だ…しかたない。
香蓮は観念することにした。
「わかったよ…あーあ、せっかく真央と同じ制服着て学校に行けると思ったのに」
「同じ学校の制服だろ」
「ちーがーう!もういいよ」
別のことを思いついたから。
香蓮は心の中でニヤリと笑みを浮かべた。
「でも真央が元気そうでよかった、今日はそろそろ帰るね」
「ああ、またな」
手を振って部屋を出てから、リビングにいる博幸と雅子に挨拶をする。
「お邪魔しましたー」
「香蓮ちゃん、ありがとうね」
「ううん、それよりおばさん、ちょっといい?」
香蓮は手招きして玄関まで雅子を呼んだ。
今からする話は雅子だけのほうがいいと思ったからだ。
小声で話すと、雅子は「何から何まで悪いわね」と言ってくれた。
よし、家に帰って探そうかな!
香蓮は小走りで隣の家に帰っていった。