巴菜と買い物に行ったら2
今日は巴菜より先に着いた。
いつも待たせることが多いので、ホッとしていたところで、巴菜が正面からやってきた。
白いフレアーのスカートにボーダーのトップス、ヒールのあるサンダルで
やっぱりオシャレだなと思った。
もちろんメイクもバッチリだ。
「お、ちゃんとリップつけてきたね」
「三上がつけないと行かないっていうから…」
「あはは、真央は素直でかわいいなぁ」
やっぱり巴菜に遊ばれてるな…
「それより早く買い物行こう」
「待って、何を買うの?」
そうだ、肝心なそれを伝えていなかった…アホだな、俺…
「夏用の服と…制服の下に着るキャミソールとか…」
あえてコスメの話はしない。
巴菜はそれを聞いてから真央の全身を見まわしていた。
今日の真央は黄色いブラウスに白いパンツ、そしてスニーカーだ。
「予算は?」
「5万…」
「5万かぁ…よし、あのお店に行こう!」
着いた先は、若い女性に人気のファストファッションブランド。
海外のお店なので香蓮と買いに行ったお店よりもオシャレ感がある。
「まずはワンピ買おう」
いきなりハードルの高いものを…
「やっぱり定番の花柄は外せないよね。これなんか真央に似合いそう」
薄い黄色の花柄のワンピースを真央の身体に合わせてくる。
「青のほうがいいかな?真央はどっちがいい?」
「いや、どっちも…」
「自分で決めて!真央の服でしょ」
「だったら…ワンピースじゃない服を…」
巴菜の目つきが変わる。
威圧するような目だ。
「わたしと買い物にきたってことは、こういう服を買うってことだからね。香蓮みたいに優しくないよ」
確かに優しくない。
香蓮だったら、じゃあ他のをってなったかもしれないが、巴菜は有無もいわさぬ感じだ。
なんかキャラが変わったんじゃないか…
真央は巴菜に対する認識が甘かった。
基本的には優しい性格だが、
オシャレに関しては人一倍こだわりがあるので、今の巴菜は本気だ。
「じゃあ…黄色で…」
そう答えると、ニッコリして次の服を選び始めていた。
「このワンピもいいね、襟付きでかわいい」
今度は襟とボタンラインが青くて、それ以外は白いワンピースだった。
しかもノースリーブだ。
俺の夏は完全に女っぽい服だけになりそうだ…
もういいや、どうせ女だし!こうなりゃ自棄だ。
真央は開き直った。
「それも買うよ。次は?」
「次はショートパンツかな」
これも2着選び、今度はスカートを2着、オフショルのトップスなども買っていく。
「ビスチェも夏はかかせないよね」
黒いビスチェも加え、あとはTシャツを3枚。
会計をしたら37000円だった。
これだけ買った割には安い。
「次のお店行くよ」
「肝心のキャミソール買ってないもんね」
「それはあとで」
そう言って向かったのは靴屋だった。
「ここ安くてかわいいのがたくさんあるんだよ」
巴菜が見ているのはサンダルだった。
もちろんヒールが高いやつだ。
「三上…まさかこれも?」
「当然!これいいんじゃない?履いてみなよ」
仕方なく履いてみる。
「うわ、バランスが…」
「慣れだよ、慣れ。それより視界が高くなったでしょ」
確かに少しだけ高くなり、男の頃と比べると全然だが、少し背が伸びた気がしていた。
「夏はやっぱりサンダルだよね」
結局、ここでも2足買い、残金が7000円になったところで
やっとメインのキャミソールを買うことになった。
「三上もやっぱり着たりする?」
「んー…着たり着なかったりかな。7月とかになると暑くて見えてもいいやってなっちゃう」
「そうなんだ…恥ずかしくない?」
「これも慣れだね。そう、女子は慣れが大事なんだよ」
そういう問題なのかな…
「けど男子は変な目で見てるよ」
「真央もそうだったの?」
「俺はちが…」
違うと言おうと思ったが、目で追っていた自分を思い出す。
「違わないかな…今思うとバカだなって思うけど、男ってそういう生き物なんだよ」
「真央が言うと説得力がありすぎる」
そういって巴菜は笑っていた。
キャミソールはシンプルな黒いのを3枚買い、残りは4000円だった。
これならコスメは買えない。よし!
「あといくら残ってるの?」
「4000円かな、もう買うものないよ」
「4000円あれば買えるかな…」
人の話を聞かずに考え込んでいる。
「よし、行こう!」
何を買わせるつもりだ…嫌な予感しかしないんだけど…
最後に向かったのはドラッグストアで、真っ先に化粧品売り場に向かった。
やっぱり…
「無理だよ、4000円じゃリップ一つ買っておしまいだもん」
「真央、化粧品って全部シャーロットフランシスみたいな値段じゃないんだよ。ほら、このファンデなんて600円なんだから」
「え?」
値段を見てみるとどれも3桁の値段だった。
「わたしだってそんなにお金があるわけじゃないんだから、基本はこういうので揃えるの。それで、1つか2つくらいシャーロットフランシスを混ぜたりしてるんだよ」
知らなかった、化粧品はどれも高いものだとばかり思っていた…
ん?ってことは…ある程度揃えられてしまう…
「待って待って!化粧品は今度にしようよ」
「ダメ、今日買う。まず下地でしょ、それにファンデに…」
勝手に巴菜が選んでいく。
目論見が崩れ去った…結局買うことになるのか…
下地、ファンデ、アイライナー、アイシャドウ、フェイスパウダーをかごに入れていく。
「マスカラは無理か…あと3000円あればマスカラとビューラーとチークとアイブロウも買えたんだけどな…でも全部揃えたいな」
真央は黙っていることがあった。
それは自分のお金が4000円あるこということ。
これを合わせれば8000円になる。
黙っておこう、そう思ったのに巴菜の「全部揃えられる」という言葉が引っ掛かった。
中途半端に揃えるくらいなら全部揃えたいかも…
「自分のお金が4000円ある…」
「ホントに?だったらグロスも買える!」
それらもかごに加わり、真央は化粧品を一式揃えてしまった。
「なんだかんだで真央も全部揃えたかったんじゃん」
「いや、中途半端よりはいいかなって…」
巴菜は「うんうん」と頷いている。
「真央にはもっともっと女の子を楽しんでもらいたいから、いい買い物ができた」
「楽しめるかはわかんないよ…」
「楽しめるって!かわいい服を着てメイクするのは女の子の特権なんだよ」
それはそうかもしれない、こういうことをできるのは女の子だけだ。
そして俺は今、それができる。
「ちょっとはチャレンジしてみるけど…期待はしないでよ」
「ううん、期待する。だって真央は絶対にやるもん」
巴菜は笑顔だった。
真央も、巴菜や香蓮と一緒にいたら絶対にやりそうな気がしていた。
「三上、今日は付き合ってくれてありがとう」
「どういたしまして。ところでずっと気になっていたことがあるの。わたしたちって友達だよね?」
「うん」
「親友だよね?」
親友…真央にとって一番の親友は香蓮だ。
けど、香蓮の場合は特殊で、香蓮を除くと一瞬龍弥が頭に浮かんだが、
それはもう過去の話で今一番仲がいいのは巴菜しか思い浮かばない。。
こうやって買い物に行けるのも香蓮を除けば巴菜だけだ。
「親友…そうだね!」
「だったらいつまで「三上」って呼ぶつもりなの?親友なら別の呼び方しない?わたしは真央って呼んでるよ」
なるほど、そういうことね。
「巴菜、今日はありがとう」
巴菜はニッコリして「うん」と答えていた。
家に帰り、買ったものを整理する。
またたくさん買っちゃったなぁ…それに化粧品まで…
突然ドアが開き、振り向くと雅子が入ってきた。
「なんでノックもしないで入ってくるの?」
「真央がどんなの買ったのかなって思って。ずいぶんかわいい服を買ってきたのね」
「これは巴菜が…」
「あら、香蓮ちゃんと行ったんじゃなかったの?ずいぶんオシャレな友達なのね」
間違ってないので「うん」と返事をする。
「それにちゃんと化粧品も買ってるし、お金を出した甲斐があったわ」
雅子は嬉しそうに部屋を出ていった。
もういくとこまでいってしまった…こうなったら女を楽しんでやる!
真央は開き直り、鼻歌を歌いながら買った服をタンスに閉まっていた。
翌日、真央は普通のブラを付け、その上にキャミソールを着てから
ブラウスを着た。
そしてスカートを履き、リボンを付けてから鏡を見る。
おかしくないよね…うん、おかしくない!
「いってきまーす」
元気に家を出て香蓮と合流する。
「おはよー」
「おはよ」
香蓮も下にキャミソールを着ていたのでホッとする。
「昨日ゴメンね」
「ううん、急に言ったこっちも悪かったし。その代わり今度また買い物付き合ってよ」
「もちろん」
駅を出て歩いていると、巴菜が後ろからやってきた。
「香蓮、真央」
「あ、巴菜!おはよ」
香蓮が言ったあと、真央は巴菜に向かって言った。
「おはよう、巴菜」
それを聞いた香蓮がビックリする。
「真央、今なんて…」
「ん?おはよう、巴菜って言ったんだよ。ねぇ、巴菜」
「うん」
2人がニコニコしている。
そっか…真央も巴菜って呼ぶようになったんだ。
「あとは「俺」っていうのを直すだけだね」
「だからこれは癖なんだって!」
「そういう問題じゃないの!ね、巴菜」
「そうだね、真央はそれ直さないとダメだよ」
「これだけは無理だって!」
真央が逃げるように走り出すと、2人は笑顔でそれを追いかけていた。




