リップ
季節はまもなく6月になり、明日からは衣替えになる。
「衣替えか…どうしようかな」
真央は休みの日以外はスポブラだったが、
これを機に日常的に普通のブラにしようか迷っていた。
ただ一つ問題がある、それは下着が透けるということだ。
透けるとなると、運動部でもないのにスポブラをしているのも微妙だし、
かといって普通のブラで透けるのも嫌だ。
記憶を一年前に戻してみる。
佐山がニヤニヤしながら近づいてくる。
この顔は絶対にエロい話だ。
「おい竹下、飯島青いブラしてるな」
「は?」
「透けるからわかるじゃん」
「くだらねー」
といいつつも、飯島というたいして仲良くもない女子の背中を眺めてしまっていた。
これが男の性というものだ。
次の日の朝、香蓮と学校に行っているときに気づいたことがあった。
香蓮はブラウスの下にキャミソールを着ていたのだ。
下着が見えないようにしてるのか、別に香蓮のなんか見たいと思わないけど。
「ん?どうしたの??」
「いや、別に」
「絶対に何かある!言え」
そういいながら蹴りを食らわされた。
そうだ、キャミソールだ!
あっ…そんなもの持ってない…
考えてみれば夏の私服も持ってないかも…ないものだらけだ。
聞いてみようかな…
真央はリビングにいる雅子のところへ向かうと、雅子は掃除をしていて
博幸はテレビを見ていた。
父さんに聞かれるのはなんとなく嫌だな…
小声で「母さん…」と呼び、気づいたので手招きした。
「どうしたの?」
「あのね、買いたいものがあるの…」
「あ、化粧品でしょ」
「違う!」
あの日以来、雅子はメイクしないの?と頻繁にからかってくる。
「明日から衣替えなんだけどさ…下着が透けるからキャミソールとか買いたくて…それに考えてみたら夏用の私服もなかったから…」
それを聞いて雅子が微笑んでいた。
「そういうのに気をつかうようになったのね。いいよ、買ってらっしゃい」
雅子は財布から前と同じ5万も渡してくれた。
「こんないらないよ」
「いいから、余ったら化粧品でも買いなさい」
「だからぁ…」
雅子は返答を聞かずにリビングへ戻ってしまった。
今日は目的が違うのに…けど、ありがとう!
部屋に戻って電話をする。
「香蓮、買い物に付き合って」
「えー、もう遊びに行く予定を入れちゃったよ」
「え、誰と?三上とか?」
「巴菜だったら真央も誘ってるよ。彩華たち」
彩華…ああ、山田彩華!
彩華は中学時代の同級生だ。
確かに香蓮は仲が良かった。
「真央もくる?」
いくら香蓮がいるとはいえ、さすがに行くとは言えない。
顔馴染の同級生とはいえ、彩華は男の真央しか知らないからだ。
「わかった、楽しんできて」
「ごめんね…」
まさか香蓮がダメだとは思わなかった。
こうなると誘えるのはあと一人しかいない。
真央はその相手に連絡をした。
「三上、今日って空いてる?」
「空いてるといえば空いてるし、空いてないと言えば空いてないかな」
もったいぶった言い方、絶対に空いているということだ。
「買い物に付き合ってほしいんだけど…」
「んー…こないだ買ったリップしてくるならいいよ」
なんでそうなる…
「あれは今度…」
「じゃあ行かない」
「わ、わかったよ…」
どうも最近、三上が香蓮のようになってきている気がする…
いや、香蓮より手強いかもしれない。
服を着替え、引き出しからリップを取り出す。
こんなに早く、しかも強制的に使うことになるなんて…
鏡を見ながらリップを塗り、ちょっと恥ずかしい気分で家を出た。




