変化
3日後、トイレを出て廊下を歩いていたら、
佐山がほかの男子と盛り上がっているのを発見した。
「佐山」
「お、竹下」
「何盛り上がってるの?」
「こいつがさ、すげーんだよ。ほら!」
こいつというのは、佐山と一緒にいた男子だ。
名前はよく知らないが、そこそこカッコいい男子だ。
そしてスマホの画面を見せてくる。
そこには女性の裸が写っていた。
「まったく…学校だぞ」
思わず呆れてしまった。
「すげーエロい体だよな」
その言葉に違和感があった。
エロい…はずなのにエロいと思わない…
しいて言うならスタイルがいいなと思ったくらいだ…
そういえばこないだ、香蓮の下着姿を見たときもエロさを感じなかった…
俺は女の裸を見ても興奮しなくなったのか?
「これさ、こいつの彼女なんだぜ」
それを聞いてカチンときてしまった。
自分の彼女の裸を友達に見せて、さらにネタにしているなんて彼女がかわいそうだ!
ありえない!
1秒でもこの場にいたくなかったので、真央は無言で立ち去った。
最低だ、あいつら!
教室に入ると今度は大きな声で伊藤が下ネタを話している。
それが低レベルだし不快に感じた。
「男ってなんでああいう話が好きなんだろうね」
女子たちが呆れるように話している。
それに真央は同調していた。
いや、ちょっと待て…俺も下ネタは好きじゃないけど、
普通にあいつらの会話を聞いていて、それなりに楽しんでいたよな?
それなのになんだ、この不愉快さは…
俺はどうしてしまったんだ…?
「真央、どうしたの?」
香蓮が顔を覗き込んで聞いてくる。
「な、なんでもない…」
「うそだ、その顔はなんかある」
「なんでもないって!気にしすぎだよ」
強引に誤魔化し、香蓮はこの場ではそれ以上聞いてこなかった。
絶対になんかあった。
真央は誤魔化すのが下手すぎる。
それなのに帰り道に聞いても「何でもない」しか言わない。
前みたいに自暴自棄になるような感じではないけど、
少し落ち込んでるというか悩んでるというか…
家に帰ってから電話で巴菜になにかわかるか聞いてみた。
「巴菜はなにか感じなかった?」
「うーん…わたしも結構真央と仲いいと思ってるけど、香蓮ほどは見てないかも…そこまで気にはならなかったよ。ちょっと暗いなとは思ったけどね」
「そっかぁ、なんか気になるんだよね…」
「けど本人は何でもないって言うんでしょ?」
「そういうときって何か隠してるじゃん」
「まあね、なんか言いづらいことなのかも。例えば身体のこととか」
「身体のことなんて何かある?もう生理だってきたし」
「うーん…」
結局なにもわからないままモヤモヤしただけだった。
時計を見ると夜の10時。
こんな時間だけどいいよね?
香蓮はルームウエアのまま玄関に向かった。
「こんな時間にどこに行くの?しかもそんな格好で」
「真央のところ」
「明日じゃダメなの?」
「うん、今日じゃないとダメ」
そういって家を出て隣の真央の家の前についた。
夜遅いので、控えめにドアをドンドンと叩く。
少しすると、雅子がドアを開けてきた。
「香蓮ちゃん、こんな時間にどうしたの?」
「ちょっと真央と話したいことがあって…遅いのにごめんなさい」
すると雅子はニコっとして「どうぞ」と言ってくれた。
「お邪魔します」
香蓮はそのまま階段を上がって部屋のドアを開けた。
お風呂から上がってもモヤモヤは晴れなかった。
いつから俺は下ネタを不快に思うようになったんだろう?
確かに女になってからそういう話はしていない。
それに、これといって性欲もわかないから何もしていない。
前に伊藤が女の感覚を教えろ、とか言ってたっけ。
男なら知りたいだろうな…
けど、実際に女になってわかったのは女の身体はデリケートだということだ。
そういうこともわからない奴に絶対教えたくなんてない!
真央はベッドの上にボンっと跳ねながら座り、
そのままスマホを持って仰向けになった。
なんか男だったのに男がわかんなくなってきた…
龍弥はなぜかずっと避けてるし、伊藤たちは下ネタしか言わないし、
佐山だって…そういえば、女の裸に何も感じなかった…
本当に何も感じないのかな…
真央はスマホで「女性 裸」と検索してみた。
フィルタリングがかかっていないので、すぐに裸の画像のサイトが出てくる。
一番上のをタップしてみた。
男の頃に何度か見たことがあるので、どういうものかは知っている。
下に動かしていくと、すぐに裸の女性の画像が出てきた。
おっぱいキレイだな…次は…ああ、くびれがすごい、あ、この人はおっぱい小さい、俺と同じくらいかな…
ここで真央が「ハッ」となった。
なんで自分と比較してるんだ…それにやっぱりエロいと思わない…




