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彗星に願いをこめて  作者: 姫
12/122

遊びに行って

「真央、明日暇でしょ?」

唐突に香蓮が聞いてくる。

まあ、よくあることなのでいちいち気にしないで答えた。

「なんで最初からそうやって決めつけるんだよ」

「巴菜と映画行くから一緒に行こうよ」

相変わらず人の話を聞かない…けどたまには映画もいいかな、三上とも最近は仲がいいし。

「いいよ、何時?」

「2時からのだから1時かな。そういえば休みの日に真央と出かけるのって久しぶりだよね。女の子になってから初めてじゃない?」

言われてみればそうかもしれない。

いくら学校では仲良くても、なんとなく男女だと休みの日に遊ぶには抵抗があったが、

今は気兼ねなく遊ぶことができる。

真央も少し楽しみだった。


さて、何を着ようか…

ジーンズにシャツ、いつもの格好をしたところで迷いが生じた。

別に男っぽい格好をする必要もないんだよな…

遊ぶ相手も男友達じゃなくて香蓮と三上だし…

思い切ってタンスからレースのブラウスを取り出した。

しばらく睨めっこする。

着てみるか!

シャツを脱いだところで再び止まる。

考えてみれば別にスポブラじゃなくてもいいんだよな…

タンスから普通のブラを取り出して睨めっこする。

これにしてみるか!

初めて普通のブラを付けてみた。

なんかスポブラよりもブラをしてる感があるな…

けどこっちのほうが胸は安定するかな…

いきなりガチャっとドアが開いたのでビックリしながら振り返ると香蓮だった。

「な、なんでいるんだよ!」

慌てて胸を隠してかがんでいた。

「だってもう1時だもん」

迷っているうちに時間になっていたのに気づいていなかった。

「ってか、普通のブラ付けてるんだ」

「べ、別にいいだろ!」

「うん、いいと思うよ」

普通に言ってくるので拍子抜けしてしまった。

「しかもそれ、前に言ったわたしと色違いのやつだよ。ちょうどしてるし、ほら」

香蓮は平然と着ているロンTを捲って下着を見せてきた。

おい!と思ったが、見てみると何も感じなかった。

「ほら、お揃いでしょ」

「うん…」

おかしい…香蓮だからか?

いや、香蓮も立派な女だ、なんで女の下着姿を見てもどうも思わないんだ?

「着替えないの?」

「あ…着替える!」

冷静に考えてみると香蓮に下着姿を見られてもそこまで恥ずかしくないかも…

首を少しかしげながらジーンズを履き、ブラウスを着た。

「それも着たんだ、いいじゃん!行こ♪」

「やけに楽しそうだな」

「真央とペアルックだからね、下着」

「そんなんで喜ぶなよ」

「でも嫌な気しないでしょ」

ちょっと考えてみる。

まあ、確かに香蓮と一緒ていうのは嫌な気はしないかも…

「まあ…」

「ほら、今度は双子コーデしようよ」

「なんだよそれ?」

2人は賑やかに家を出ていった。

「化粧してるんだ?」

「うん、薄くね。真央も今度する?」

「しない」

「もー、そういうところは意地っ張りだよね。メイクは女の子の特権だよ」

確かに女の自分を受け入れている。

だから普通のブラもしてみたし、女しか着ない服も着てみた。

けどそこまでの気はまだない。

「はいはい」

とりあえずあしらっておくのが一番だ。

中身のない会話をしながら、巴菜との待ち合わせ場所につく。

「2人とも遅刻、遅いよぉ」

「真央が遅れたんだよ、わたしじゃないもん」

香蓮が真央のせいにするが、事実なのでなにも言えない。

「そうなの?」

「うん、ごめんよ」

「真央くんならいいや」

「え、なんで真央だといいの?わたしは?」

「香蓮のせいだったら怒る」

「ひどーい」

なんかこういうのも悪くないな。

2人のやり取りを見て真央は笑っていた。

巴菜はサスが付いたグレンチェックのショートパンツに白いTシャツを着ていて、

香蓮はスカートを履いている。

2人とも女の子らしい格好だ。

男っぽい格好でこなくて正解だったな…

もしそんな格好できたら浮いていた気がする…

「早く映画行かないと始まっちゃうよ!」

巴菜に急かされ、3人で映画館に向かった。

「そういえば何観るの?」

あまり深く考えないできてしまい、ここにきてようやくその疑問にたどり着いていた。

アクションとかがいいな、それかパニック系とか…

「ユキナの恋愛事情だよ、CMでもバンバンやってるやつ」

ユキナの恋愛事情は漫画を実写化したラブコメ映画だ。

確かによくCMでよく予告が流れているので知ってはいる。

マジかよ…

真央はラブコメなんて基本的に観ないので、頭の中に選択肢に入っていないのだ。

思わずため息をついてしまった。

「楽しそうだよね!」

「ね!早く中に入ろうよ」

香蓮と巴菜が楽しそうにしている。

なにを観るのか確認しなかった自分がいけないので、おとなしく一緒に中へ入った。

映画館の中は女性同士とカップルしかいない。

以前だったら気まずかったかもしれないが、今はそれほど気にならなかった。

内容は女子高生が主人公で、元気いっぱいな主人公が3人のイケメンたちに告白されて

誰を選ぶかというもの。

こういうものは本当に観ないので逆に斬新な感じがして、思った以上に楽しかった。

「楽しかったねー」

「でもわたしはリュウノスケとくっついてほしかったなぁ。真央くんはどうだった?」

「えっと…まあ、楽しかったんじゃないかな」

さらに香蓮が突っ込んでくる。

「真央は誰とくっついてほしかった?」

「あー…えーと…」

3人の男性のキャラや性格を考えると最終的にユキナが選んだ

ソウタでよかったと思っていた。

「ソウタかな」

「だよね!絶対にそうだよ、巴菜」

「えー、リュウノスケのほうがいいよ」

こんなやり取りを見ていて、2人とも女の子だなと思った。

さて、問題はこのあとだ。

とてもこのまま帰るとは思えない。

「ねぇ、見に行きたいお店があるから行こうよ」

ほら始まった。

香蓮と巴菜はヘアアクセサリーのお店に入っていった。

ゴムやクリップなどを見て付けてみたりしている。

女の子ってこういうの好きだなぁ…

他人事のように見ていたら香蓮が呼んできた。

「なに?」

香蓮はなにも言わず、真央の髪に何かを挟んできた。

「お、おい!」

「あ、かわいい。巴菜、かわいいよね?」

「うん、似合ってる!」

ちらっと鏡を見ると、リボンの形をしたバレッタが付いていた。

「真央さ、髪がまだ短いけどこういうの付ければかわいくなるよ」

「そうやってまた俺のことを…」

言いかけてやめた。

女扱いするよな、女なんだから…

「それ買いなよ、絶対に似合ってるよ」

「いやいや…どうせ高いでしょ」

「300円だよ」

「そんな安いの?」

値札を見ると確かに300円と書いてある。

それでも躊躇い、戻そうとすると香蓮と巴菜が無言で圧力をかけてくる。

「か、買う…よ」

真央は結局買ってしまい、挙句の果てに付けさせられてしまった。

うー…やっぱりこれはこれで恥ずかしいな…

「ねえ、このままプリクラ撮りに行こうよ!」

巴菜が言い出すと香蓮も「撮ろう」と乗り気だった。

もちろん真央も連れていかれたのは言うまでもない。

「真央遠い!もっと近づいて」

「そうだよ、早くしないと撮影始まっちゃうよ」

2人はキチンとポーズを取っている。

真央も思わず見様見真似で同じようなポーズを取ってしまった。

次は横に並んで顔だけを向けたり、あえて目線を反らしたり、

よくもまあ思いつくものだ。

ある意味感心してしまった。

それが終わるとペンで落書きを始める。

自分のところには平仮名で「まお」と書かれていた。

完成したのを見てみると、普通に仲のいい女友達3人が写っているようにしか見えない。

それに、目が大きくなったり肌が補正されたりするので、普通にかわいくなっている。

そこに男の面影は一切残っていなかった。

このあと、少しブラブラして帰宅。

家のドアを開けたら、雅子がちょうど玄関にいて靴箱の整理をしていた。

「ただいま」

「あ、おかえり。あれ、そのバレッタ…」

「あっ」

付けっぱなしにして忘れていた。

慌てて取ろうとすると「似合ってるから取らなくていいよ」と言ってきた。

「いや、香蓮たちが付けろっていうから…」

「そう、とってもかわいい。それにその服も」

「あ、ありがとう…」

真央は顔を真っ赤にして自分の部屋に逃げていった。

ベッドにダイブして枕に突っ伏す。

あー、なにをやってるんだ、俺は…

まるで女じゃないか…女だけど…

少しその状態でいたあと、スマホを取り出してさっき撮ったプリクラを見てみた。

どう見ても普通に女だよな…

けど…香蓮が一緒にいて、三上が一緒にいて…悪くないかも

真央は無意識に優しく微笑んでいた。


翌日、学校に行くと凛が話しかけてきた。

「竹下くんって外でもめっちゃ女子なんだね」

「は?」

さらに、ほかの女子たちも話しかけてくる。

「今日はバレッタしてこなかったの?」

「なんで知ってる…」

真央は思わず香蓮を睨んだ。

香蓮以外に考えられない!

「わたしじゃないよ」

「嘘つくな、香蓮以外に誰が…」

「わたしだよ」

振り向くと巴菜がニコニコしていた。

「昨日のプリをインスタに載せたの」

「インスタって…おい!」

つまり、あのプリクラが世界中に見られている可能性があり、

少なくとも巴菜をフォローしている人はみんな見ただろう。

「だってわたし、プリクラ撮ったら必ずインスタに載せてるから」

悪びれた様子もなく平然と言っているあたりが最悪だ。

香蓮よりタチが悪いんじゃないか…?

「竹下くんってもう立派な女子だよね!今度から竹下さんって呼ぼうかな」

おいおいおい、ちょっと待て!

すると香蓮が言い出した。

「ってかさ、わたしと同じで真央って呼べばいいんじゃない?」

「あ、そうだね」

まあ、竹下さんよりはいいかもしれないが…

「じゃあ…わたしも真央くんじゃなくて、真央って呼ぶ」

巴菜が笑顔でそう言ってきた。

もういい、なんか疲れた…

「好きに呼んでいいよ…」

このときから、クラスの女子たちは「真央」と呼ぶようになり、

傍から見れば完全に女子のグループの一人だった。

おかげで今まで以上に男子たちは話しかけづらくなり、

特に龍弥は完全に疎遠になっていった。

そしてもう一人、同じ女子の杏華だけは鬼のような形相になっていた。

それらを真央本人は気づいていなかった。

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