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彗星に願いをこめて  作者: 姫
11/122

受け入れて

体温計を見る。

37度5分、朝よりちょっと下がったけどまだダメかな…

布団に入りながら真央のことを考えた。

明るくなっていたのに急にあんなふうになって…

やっぱり男に戻りたいんだよね…わたしのせいかもしれないし…

わたしがあんな願いしなかったら、真央は男のままで普段通りだったのかな…

自己嫌悪になりかけたとき、ガチャンと家の鍵が開く音がした。

お母さん?

ところがドアを開けたのは真央だった。

「よっ」

「真央!なんで勝手に入ってくるの?」

「合鍵の場所知ってるから。それに香蓮だって勝手に入ってくるからお互いさま」

「うっ…」

事実なので何も言い返せない。

「それより具合どう?」

「まだ熱が下がらない、明日も休むことになるかも…」

「そっか、無理するなよ」

「わざわざお見舞いにきてくれたの?」

「まあ…ね」

昨日までの真央の雰囲気じゃない、元に戻ったんだ…

少し沈黙が続いてから、真央が気まずそうに言ってきた。

「香蓮、あんな態度とってごめん…」

「こっちこそごめん、わたしも真央の気持ちを考えないで女扱いしてたし…」

「しかたないよ、俺…実際に女だし…」

そんなことを言い出す真央にビックリした。

思わず顔を見ると、いつもより真央の顔が優しい表情をしている気がした。

「なにか…あったの?また根津さんに嫌なこと言われたとか?」

真央はすぐに答えない。

やっぱり…これ以上真央を傷つけさせるわけにはいかない、

学校に行ったら文句を言ってやる!

「生理に…なった…」

「へ…?」

予想していたのと全然違う答えだったので驚いてしまった。

「大丈夫だったの!?一人で苦労したでしょ!今はどうしてるの?ナプキンは?」

「香蓮、落ち着いて。全部、三上がやってくれたよ」

「巴菜が…そっか、よかった…」

ホッと安堵のため息が出た。

「いろいろ生理について教えてくれたし助かったよ。最初は香蓮いなくてどうしようかと思ったけど」

そう言ってくれるのはちょっと嬉しい。

けど、それ以上に巴菜を頼ったことのほうが嬉しかった。

なんだかんだで巴菜のことも友達と思ってるんだ。

けどそれでか、自分は女だって言ったのは…なるほどね。

「あんまり長居すると悪いから今日は帰るよ。早くよくなれよ」

「ありがとう」

真央は少し微笑んで手を振ってから帰っていった。

それを見送り、香蓮はこれからの真央が楽しみになっていた。


鍵を開けようとしたらすでに開いていた。

そういえば母さんが午後休みとか言ってたな。

父さんいないし丁度いいや。

「ただいま」

リビングから雅子の「おかえり」という声が聞こえてくる。

そのままリビングに向かうと雅子は本を読んでいた。

「なんか雰囲気が違うね、やっといつもの真央に戻った?」

家でも殻に閉じこもっていたので、雅子も博幸も心配していたのだ。

「さあ?それよりさ…」

「ん?」

生理になったと言おうと思ったが、恥ずかしくて言えなかった。

それに報告する必要は…あるな。

うーん…そうだ!さらっと言ってみよう。

「夜用のナプキンある?」

「あるけど…ひょっとして真央」

真央は少し顔を赤くしてコクンと頷いた。

「いつ?」

「1時間目終わってトイレに行ったら…」

「そう、大丈夫だったの?香蓮ちゃん助けてくれた?」

「香蓮熱でて休みだったから、別の友達に…いろいろ教えてくれたから何も言わなくていいからね!」

そういうと雅子は笑顔で「わかった」と返事をし、

夜用と普通のナプキンのある場所を教えてくれた。

「父さんには内緒だよ」

「わかってるって」

雅子はずっとニコニコしている。

「な、なんだよ」

「真央に香蓮ちゃん以外の女の子の友達がいるんだって思って」

「そりゃ1人2人くらいはいるよ!」

「そうじゃなくて、こういうのを頼れる友達」

「一応…はね」

三上は本当にいい子だ。

香蓮や三上という友達がいることが真央は誇らしく感じていた。


翌日、サニタリーショーツにナプキンをつける。

よし、履くか!

それを一気に腰まで引きあげ、微調整してから制服に着替えて学校へ向かった。

今日も香蓮は休みなので一人だ。

駅に着き、普通車両へ向かいかけたが、足を止めて女性専用車両へ向かう。

その車両に乗り、電車を降りると駅前で巴菜が立っているのを発見した。

「おはよう、どうしたの?」

「香蓮今日も休みでしょ、朝連絡があったの。だから真央くん一人だなって思ったから待ってたの。行こう!」

「ありがとう、うん」

真央は笑顔で巴菜と一緒に歩き出した。


翌日からは香蓮も復帰し、それから5日後、真央の初めての生理も終わったのでホッとした。

ただ生理というものは、真央に大きな変化をもたらしていた。

それは自分が女だというのを自覚させたということだ。

例えば重いものを運ぶとき、男なのにこんなのに苦戦するなんて…

という考えだったのに、重い…けど仕方ないか、女なんだし…

という風に、「男だったのに」が「女だから」と思うようになっていた。

それは体育で著しく現れる。

女子しかいない校庭へ行っても、嫌じゃなくなっていたのだ。

「今日も勝とうね」

「もちろん!」

真央はこの日のソフトボールも本気で臨んだ。

結果は三振だった。

「真央、三振じゃん」

「だってバットが思いんだから仕方ないだろ」

そう答えると、巴菜が「確かに重いよね」と言ってきたので「うん」と同調した。

そこへ杏華がやってくる。

「男だったくせにバットが重いとは恥ずかしくないの?情けない」

前なら落ち込んでいただろう。

だが、今の真央は違う。

「しかたないじゃん、今は女なんだから」

杏華は怒った顔をして去っていった。

杏華の言葉なんて気にしない、俺は今の自分を受け入れて自然体で生きていくんだ。

こうして真央は少しずつ女性の自分を受け入れていき、1か月が過ぎた。

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