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彗星に願いをこめて  作者: 姫
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巴菜に助けられて

なんか今日はだるい…

学校行くのやめようかな…

だが、休むとこのまま登校拒否になってしまいそうだったので

我慢して行くことにした。

ところが時間になっても香蓮がこない。

しかたない、俺から行くか。

真央は香蓮のようにドアは叩かない。

インターホンを押すと由紀恵が出てきた。

「おばさん、おはよう。香蓮は?」

「それがね、熱が出ちゃったのよ。だから今日は休ませようかなって」

香蓮が熱を出すなんて珍しい。

「大丈夫なの?」

「ただの風邪だと思うから、ありがとう、心配してくれて」

「ううん、じゃあお大事に」

真央はひとりでトボトボと駅に向かって歩き始めた。

考えてみれば一人で登校するのって初めてだな…

いつも香蓮が一緒だもんな…

いないと寂しいもんだな…

不貞腐れていても、なんだかんだで香蓮の存在は大きかった。

駅に着き、いつも通り女性専用車両へ向かいかけて足を止める。

香蓮もいないし普通車両に乗ろう、俺は男なんだ!

ところが普通車両は思った以上に地獄だった。

小さい真央は完全に潰されてしまい、自分の非力さを痛感する。

予想以上に体力を消耗したなと思いながら電車から降り、

またトボトボと歩いていたら巴菜が話しかけてきた。

「おはよう、香蓮は?」

「熱が出て休みだって」

「香蓮が熱なんて珍しいね…」

「そうだな」

会話もないまま一緒に歩く。

沈黙が耐えられなかったのか、巴菜のほうから話し出した。

「やっぱり…根津さんの言葉を気にしてるの?」

「別に」

「やっぱり気にしてるんだ…香蓮ね、そのことで落ち込んでる真央くんのことずっと心配してるんだよ。熱だってきっとそのせいだと思う…」

「俺が悪いのか?」

「そういうんじゃなくて…」

「悪い、話したい気分じゃない」

巴菜の話を終わらせてしまった。

俺は最低だ、何も悪くない香蓮や三上に嫌な態度とって、クズだな。

自己嫌悪に陥りながら1時間目の授業を受け、休み時間に職員用のトイレへ向かった。

俺って本当になんなんだ…

自分自身にイライラしながらトイレットペーパーで拭くとヌルりと

いつもと違う感覚に気づいた。

ん???

見てみるとトイレットペーパーには血がついている。

これって…生理!?

未知の体験に真央はパニックになった。

どうすればいいんだよ、おい!

香蓮に相談し…香蓮は休みだ…

どうしよう、どうしよう…

とりあえずトイレットペーパーを何重にもしてパンツに敷いてからゆっくり履いてトイレを出た。

ほかに頼れる人…頼れる人…


「はあ…」

「巴菜がため息なんて珍しいね」

「うん…なんとか真央くん元気になってもらいたくて」

「そうだよね、最近ずっとあんな感じだもんね。香蓮も頑張ってるのに…」

凜とそんな話をしていたら真央が教室に戻ってきて、速足で一直線に巴菜へ向かってくる。

え、わたし??

少し驚いていると、耳元に顔を近づけてきて「ちょっといい?」と言ってきた。

「う、うん…」

いつもと様子が違うので不安になりながら一緒に廊下の隅へ行く。

真央の顔を青ざめているのになぜか恥ずかしそうにも見える。

「どうしたの?」

「あの…その…香蓮もいなくて…三上しかほかに頼れそうになくて…」

なかなか言い出さないのでちょっとイライラしてきた。

「だからなに?言ってくれないとわかんないよ」

すると真央はボソッと言った。

「生理…なった…」

なんだ、と思った。

ん?生理…ええええ???

「初めて…だよね?」

「当たり前だろ!どうしたらいいんだよ…」

「ナプキンは?」

「そんなのないよ…」

真央は今にも泣きそうな顔をしている。

そうだよね、考えてみればこないだまで男だったんだもん、不安にもなるよね。

ちゃんと助けてあげないと!

「わたしのあげるからちょっと待ってて」

小走りで教室に戻り、バッグからナプキンの入ったポーチを取り出した。

「どうしたの?竹下くんは?」

「ちょっとね」

凜にそう答え、廊下で待っている真央のところへ戻ったタイミングでチャイムが鳴った。

「あっ…」

そこへ次の授業の数学の教師、奥寺真由美がやってくる。

「早く教室に入りなさい」

真央はいまだに不安そうな顔をしている。

しかたない…

巴菜は真由美に小声で話しかけた。

「竹下くん、生理になっちゃったみたいで…」

真由美は真央を見て「ああ」と答えた。

「どうしていいかわかんないんだね」

「はい、保健の先生に任せるのが一番なんだけど、きっと恥ずかしいと思うから…」

「そうね…わかった、いってらっしゃい。彼…彼女のことサポートしてあげてね」

「はい!」

真央のところに戻ると「言ったの?」と聞いてきた。

「授業抜けるんだもん、ちゃんと言わないと。けど奥寺先生は女だから大丈夫だよ。それより行こう」

巴菜は真央の手を取って歩き出し、女子トイレへ向かった。

「待って…俺、職員用しか入っちゃいけないから…」

「別に授業中で誰も入ってこないから平気だよ」

そういって巴菜は真央を強引に連れ込んだ。


まさか生徒用の女子トイレに入るとは…

「パンツ降ろしてもらっていい?ナプキン付けるから」

「う、うん…」

スカートを履いているとはいえ、パンツを降ろしているのがとても恥ずかしい。

巴菜はナプキンの付け方を説明しながらセットしてくれた。

「はい、履いていいよ」

「これだけなの…?」

思ったよりあっさりしているので拍子抜けしてしまった。

「あとはナプキンが吸収してくれるから。家にはあるんだよね?」

「多分…」

知らないのでそう答えるしかなかった。

「初日だから夜用を付けたほうがいいかも。あとサニタリーはある?」

「こないだ香蓮に買わされた記憶が…」

「だったら明日はサニタリーにナプキンのほうがいいかも。2日目って結構量が多かったりするから」

それを聞いてまた不安になってくる。

「そんな心配しなくて大丈夫だよ、慣れてくればもうすぐ生理かって思うくらいだから」

「いつくるかわかるの?」

「大体1か月周期だよ、それで徐々に量が減ってきて一週間くらいで終わる感じかな。生理中はお腹痛くなったりするときもあるから、そのときは生理痛の薬飲めば大丈夫、あと胸が張ったりなんとなく怠くなったりすることもあるけど、それも生理のせいだから気にしなくて大丈夫だからね」

聞いていて気がめいりそうだった。

「女って大変なんだね…」

「そうだよ!けど真央くんも身体は女だって意識しないとダメだよ。女の子の身体はデリケートなんだから」

こないだの杏華とは別の意味で、この言葉がのしかかった。

そうだよな…いくら俺は男だって思っていても実際は女なんだもんな…

生理だってきちゃったし…もう少しちゃんと自分自身と向き合わないとな…

「ありがとう、三上」

「ううん、本当は香蓮のほうがよかったよね。わたしでごめんね」

「そんなことない!三上までいなかったら…俺本当にどうしていいかわからなかった…」

「そういってくれると…少し嬉しいかな」

巴菜はニッコリと微笑んでいた。

三上の笑顔、久々に見た気がする…違うな、俺が笑顔にさせてなかったんだ、香蓮も…

「授業…戻ろうか?」

「うん」

真央は巴菜と一緒に教室へ戻った。


初めての生理でなんとなく落ち着かない感じだったが、やっと放課後になった。

帰ろうと思い、バッグを手に取ってから思い切って自分から言ってみることにした。

「三上…駅まで一緒に帰らない?」

香蓮がいないから一人で帰る、そう思っていたのに、なぜか巴菜と帰りたいと思っていた。

「いいよ、一緒に帰ろう」

巴菜が笑顔で返事をしてくれたのでホッとする。

「考えてみれば、三上と2人で帰るのって初めてだ」

「いつも香蓮がいるからね。それより生理大丈夫?」

「なんとなく…」

「ならよかった。あーあ、わたしももうすぐくるよ。憂鬱…」

「そうなの?」

「うん、3日後くらいにね」

前の真央だったらこんな話をされて「おい!」となったかもしれない。

けど今は同じ体験をしているので違和感なく聞いてしまっていた。

あれほど自分の殻にこもっていたのに、今は自然体で巴菜と会話をしている。

あらためて自分がバカだったと悟った。

根津に何を言われようと関係ない、俺にはこんないい友達がいるじゃないか!

それに香蓮だっている!俺は一人じゃないんだ

そう思うと、香蓮の顔が見たくなった。

「帰りに…香蓮のお見舞いに行こうかな」

「うん、行ってあげて。元気になった真央くんみたら香蓮喜ぶよ」

「だといいけど」

話せば話すほど、巴菜がいい子だというのが伝わってくる。

ややあってから真央は巴菜に問いかけた。

「三上…これからも仲良くしてくれる?」

「もちろん!香蓮も一緒にね」

巴菜がニッコリしていたので、真央も笑顔で返した。

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