真央と香蓮
ご無沙汰しています。
最近は社会人を主人公にしてちょっとミステリー要素を加えてみたり、
ミッドナイトで思い付きで書いたものを投稿していましたが、
久々に王道の青春ものが書きたくなって2月末くらいから今作を書き始めて、
やっと無事に書き終えることができました。
もちろん男→女の作品です。
ただ、今まで書いたものと同じようにしても仕方がないので、
ベースは学園ものだけど、少しずつ変化を加えたつもりです。
とはいえ、過去の作品の人物もまたちょっとだけ出したりという遊び心もあるので、
その辺も踏まえて最後まで楽しんでもらえたら嬉しいです。
ちなみに、過去最長の作品になってしまいましたので、飽きずに付き合ってください笑
では、1話目です。
玄関を出て空を見上げると、今日も快晴だった。
こういう日は気分的に爽やかになる。
「んー、気持ちいい!」
香蓮は思いっきり伸びをしてから辺りを見回した。
今夜、大きな彗星が地中の近くを流れるなんて想像できない。
数日前のニュースで、肉眼でもハッキリ見ることができる彗星が夜の7時過ぎに
西の空を流れるという発表があった。
特に星などに興味はないが、そこそこ話題になっているので
見てみようかなとは思っている。。
単なる興味本位だ。
それにしても…まったく、いつも遅刻してくるんだから!
隣の家のドアをドンドンと叩く。
すると家の中から「香蓮ちゃんきたよー」という声が聞こえてきて、
それから1分ほどしてドアが開いた。
眠そうにあくびをしている。
「真央、いつも遅刻」
「間に合うんだからいいだろ…」
真央は「いってきます」と家の奥に向かって叫び、ドアを閉めて歩き始めた。
「今日の彗星見る?」
「見ない、興味ないから」
「ホント真央ってロマンチストじゃないよね」
「悪かったな、ロマンチストじゃなくて」
そういいながら、軽く頭をコンと叩いてきた。
「いたーい!いじめだ、いじめ」
真央はそんな香蓮を置いてさっさと歩いている。
それを香蓮は慌てて追いかけた。
「ちょっと、歩くの速いっていつも言ってるじゃん!」
「香蓮が遅いんだろ」
「違う、真央が速いの!そもそも真央のほうが背が大きいから歩幅大きいんだよ」
「小さい香蓮が悪い」
「ムカつくー、えい」
香蓮は真央に体当たりをしていた。
「何すんだよ」
「別に♪」
「ったく…」
こんなやり取りは毎日している。
そして駅に着き、電車に乗って3駅、朝の通勤ラッシュで電車の中は混みあっていた。
いつものことなので気にしないが、小柄な香蓮は押しつぶされそうになっている。
「うー…」
そこへ真央が身体を挟んでつぶされないようにしてくれた。
「さすが、頼もしい!」
「うるせーな、結構キツイんだから茶化すな」
そういいながらも真央はしっかりとガードしてくれている。
こういうところを見てると、やっぱり男だなと思ってしまう。
やっと駅に着き、電車から降りると同じ制服を着た人たちが
何人も学校へ向かって歩いていた。
「そういえば香蓮さ、昨日ニンニク食べた?」
「え、食べてないけど…」
「じゃああの電車の中でニンニク臭かったのは香蓮じゃないのか」
ムカついたので蹴りを入れた。
「いてーな!」
「学校なのにニンニクなんて食べるはずないじゃん!バカ真央」
「相変わらず朝から仲がいいね」
声をしたので振り返ると三上巴菜が笑顔で歩いていた。
「巴菜おはよー!」
「おはよう香蓮、真央くん」
真央は「おう」と少し素っ気なく返事をしていた。
巴菜は真央を名字の竹下とは呼ばず、真央と呼んでいるのは香蓮の影響だ。
さすがに巴菜も友達の香蓮のことは苗字の大谷とは呼ばず、香蓮と呼んでいる。
「真央、ちゃんとおはようくらい言いなよ」
「うるせーな、別にいいだろ」
「よくない、大体真央はいつも「うるせー」ばっかり」
「うるせーな」
「ほら言った!」
すると巴菜がクスクスと笑っていた。
「この2人見てると飽きないなぁって思って」
「三上、俺は迷惑なんだぞ。香蓮がいつもゴチャゴチャうるさくて迷惑なんだから」
「ちょっとひどい、その言い方!」
こんなやり取りもいつも通りの日課だった。
学校へ着き、教室に入る。
香蓮も真央も巴菜も同じ2年3組だ。
教室に入って、やっと真央と離れて仲のいい女友達のところに巴菜と一緒に合流した。
真央も男友達のところへ行っている。
こうして、当たり前の何気ない1日が始まっていった。
体育の時間になり、香蓮は友達と隣のクラスに向かった。
体育の授業は隣のクラス、4組と合同で、
男子は3組、女子は4組で着替えることになっている。
そこで話しながら着替えていると、友達の芦邉凛が真央のことについて聞いてきた。
「香蓮ってホントに竹下と付き合ってないの?」
「だから付き合ってないって。なんで真央なんかと付き合うの」
「だって仲良すぎじゃん。傍から見たら絶対に付き合ってると思うよ」
こういうことはまわりから何度も言われているのでため息が出る。
「あのね、真央はただの幼馴染、幼稚園からずっと一緒だから恋愛感情なんてまったくないの!不愛想な弟みたいなもんだから」
なんで仲がいいと付き合ってるってなっちゃうんだろう…
いつもなら、ここでみんなこれ以上聞いてこないのに、凜は食い下がらなかった。
「でもさ、無意識のうちに好きだってこともあるよ。それにわたしは男女の友情なんてないと思ってるから」
「凜はわたしの口から真央のことが好きだって言わせたいの?残念ながらありません!」
けどそこで、「確かに男女の友情はない」という話題になってしまった。
みんなが口々に「ない」と言い始める。
なんでみんなそう言うんだろう…真央は本当に幼馴染で姉弟みたいな友達なのに…
理解されないことに少し苦しんでいた。
真央は授業のサッカーでシュートを決めてガッツポーズをしていた。
「よっしゃぁぁ!」
仲間たちとハイタッチをしていると、木谷龍弥が話しかけてくる。
「今の愛しの香蓮ちゃんに見せたかったろ」
「お前、ぶっ飛ばすぞ」
真央はこういうのが一番鬱陶しい。
いくら付き合ってない、好きじゃないと言っても信じてもらえない。
なぜなんだ?
真央は香蓮に対して恋愛感情を持ったことは一度もなかった。
物心ついた頃から隣にいつもいて、感覚的には兄妹、真央的には妹のような感覚だ。
面倒くせーな、まったく…
真央は大きなため息をついていた。
学校が終わり、真央は香蓮のところにやってきた。
「俺、今日は龍弥たちと遊びに行くから」
「あ、そう。わたしも巴菜たちと遊びに行くから。じゃあね」
「ああ」
軽く手を振って真央は龍弥たちのところへ合流した。
「巴菜、行こう!」
香蓮は帰り道に巴菜とファーストフードに入っておしゃべりをしていた。
そこで、偶然1年のときに同じクラスだった沢辺美夏と石野咲奈に会い、
4人で話し始めていた。
そこでも真っ先に出てきたのは真央のことだった。
「今日は彼氏と一緒じゃないんだ?」
「だから彼氏じゃない、幼馴染」
「そういうけどさ、絶対に心の中じゃ好きなはずだよ、あれだけ仲いいと」
こういう話はもううんざりだ。
せっかく楽しく話したかったのに、一気に嫌な気分になる。
どうして誰もわかってくれないんだろう…
「もうやめようよ、香蓮も真央くんも違うって言ってるんだからさ」
巴菜だけは唯一の理解者だった。
香蓮はそんな巴菜が大好きだ。
2時間ほど話をして、美夏と咲奈と別れて巴菜と2人になった。
「巴菜、ありがとうね」
「ううん、いつも香蓮も真央くんも迷惑そうだから」
「ホントだよ、なんで幼馴染と仲良くしてるだけで付き合ってるってなるんだろう…そんなに性別違うのが問題なのかな」
「そうだねぇ、真央くんが女の子だったらこんなこと言われないだろうけど」
「真央が女?ダメ、気持ち悪い、無理!」
想像しただけで寒気がする。
「それは今の真央くんを想像してるからだよ、元から女の子だったら違うかもよ?」
「あのね、そんなことありえないから!」
「それもそうだね」
そういって巴菜は笑っていたが、香蓮の中に「真央が女だったら」という言葉が残っていた。
巴菜とも別れ、駅から家までトボトボと歩いていると、空はもう夜になっていた。
「星がきれいだなぁ。もうすぐ7時だ、見えるのかな」
ワクワクしながら空を見上げて立ち止まる。
ほかに歩いている人たちも、何人かは同じように空を見上げていた。
もちろん彗星を見るためだ。
すると、西の空に大きな光が流れているのを発見して「あっ」と声を上げた。
あれがそうなんだ、大きくてキレイだな…
普段見る流れ星とは比べ物にならないほど大きく、
それでいて流れている時間がそこそこ長いので、思わず見とれてしまう。
「あ、なにかお願いしないと!えーと、えーと…」
流れ星に願い事をすると叶うと昔からよく言うが、香蓮はこの彗星も同じ感覚で願い事を言わないとと思い、必死に考えた。
すると、ふいに巴菜との会話のやり取りが頭の中に蘇ってきて、
思わず「真央が女だったら」という言葉が出てきた。
真央が女になりますように…
「ん?違う!そんなこと願ってない!」
「一人で何騒いでるんだ?」
振り向くと真央が立っていた。
「ちょ、いつからいたの!?」
「今さっき、なんか空見てブツブツ言ってるから、頭大丈夫かなって…」
とっさに足が出て真央を蹴っていた。
「すぐに蹴るなよ、いてーな」
「大きな彗星が流れるって朝も話したじゃん!それを見てたの!バカ!!ホントに女になっちゃえ」
「は?何??なんて言ったの??」
「なんでもない、帰るよ!」
少し歩くと、会話は普通に戻る。
怒っていても、すぐにいつも通りになるのがこの2人の関係でもあった。