第8話
夜が明け、二人にとっての新しい朝が明けた。
時間は午前7時過ぎ。
結局、楠目にあっては能力を獲得するまで丸一夜かかったが、安部にあっては俺の見込んだ通り、才能もあり、能力解放の訓練を始めて僅か一時間足らずで覚醒した。
結局、楠目にあっては脳を20パーセント、安部にあっては40パーセント脳を解放出来るようになった。
この数字についてだが、まず20パーセントというのは、前の時代での、覚醒者の新兵の平均値であり、まぁ無難なところと言えよう。
安部の40パーセントという数字に関しては、はっきり言って以上である。
40パーセントの覚醒者とは、この時代でいうと、完全武装した1個中隊、能力によっては1個大隊に匹敵する力がある。
うる覚えだが、前の時代の覚醒者全700万人の内、40パーセント以上の覚醒者は一万人もいなかったはずだ。
しかも安部にあっては、未だ能力を解放したばかりの初期スペックでこのレベルである。
このまま訓練を継続すれば、上位者と呼ばれる50パーセント以上の覚醒者になる日もすぐだろう。
そして、それぞれの強く覚醒した能力(俺の時間操作のような得意な能力)についてだが、これも安部にあっては以上であった。
なんと強く覚醒した能力が2つあったのだ。
通常は、俺のように1つの能力が強く覚醒し、覚醒した能力だけが覚醒率分だけ使いこなせるようになり、そのほかの能力にあっては、どれだけ訓練しても脳の覚醒率の5〜6割程しか使いこなせない。
しかし安部は、自分のマックスの力(覚醒率分使える力)を使える能力が2つあるということだ。
これは単純に考えても戦闘力が2倍、上手く能力を使いこなせば数十倍の戦闘力になる可能性を秘めている。
しかも、その発言した能力も異常であった。
一つは外力系の水を操る能力であり、これは前の時代でもよくある能力の一つなので、訓練のやり方は知っているので問題ない。
しかしもう一つは特殊系を発現し、しかも、よくよく魔法で調べてみると、今まで誰も発言した者がいない、結合力操作という能力であった。
これは簡単にいうと、原子や電子等を結合する電子結合、水素結合、共有結合等のあらゆる結合を操作し、結合を解いたり逆に結合力を強くしたりできる能力である。
つまり、世界中の全ての物体を原子分解して消滅させたり、空気中の酸素を分解して無くしたり、逆にO2から更にOを加えてO3、つまりオゾンを作り出したりと応用力は無限大にある。
ただ、今まで見た感じだと、安部は少し天然というかバカな部分があるので、この能力をうまく使いこなすのはまだ当分先の話のような気がするが…もったいない!!
ついでに楠目にあっては外力系のテレキネシス、いわゆる物体を動かす念力を発現した。これは前の時代では非常にポピュラーな能力であるので訓練の指導もしやすい。
まぁぶっちゃけ、楠目には組織の運営能力に期待しているので能力云々(うんぬん)に関してはどうでも良い。20パーセントしか覚醒してないと言っても、基本的に覚醒すれば、普通の人間からは完全に逸脱した身体強化がされており、テレキネシスが使えれば銃弾を止めることも簡単なため、ゴ○ゴみたいなやつでも出てこない限り、ヤクザの集団程度ならわけなく壊滅させられる。
さて、これで一応本格的に組織を作る段取りができたわけだが、
「すみません閣下、一つお聞きしても?」
「ん?なんだ?」
「能力を授けて貰えたのはとても有り難いのですが、具体的に私はどれぐらいの強さなのでしょうか?」
「その質問は抽象的すぎるな。お前はテレキネシスという力を手に入れた。お前ほど頭がいいのであればその力で何が出来るか分からないわけではあるまい。」
楠目は少し思案した後、自分が何を言いたいかを述べる。
「確かにこの力があれば様々な力を誇示することができますが、具体的にどれくらいの敵。
相手の武装状態や人数がどれくらいならば一人で対処が可能か知りたいのです。
それによって、これからどの程度の戦闘員や拠点の防衛体制が必要なのかの目安になりますので。」
(ふむ。確かにな。ここで俺が1個小隊並みの戦闘力といっても、実際に戦争を経験したことがないのだか
らピンとこないか。ならば丁度いい。経験させるか、戦闘というものを)
俺はニヤリと悪巧みを思いついた顔をし、片方の顔の口角をグッと上げて楠目と安部を見据える。
「な・何か?」
楠目は岡野の顔を見ると背中がゾクリとし悪寒を感じた。
「そうだな。ならば丁度良い。3日、お前らの能力の簡単な訓練をしたのち、戦闘というものを経験させて
やろう。そこで戦闘とは、人を殺すとはどういうものかを学べ。」
「ひ・人殺し・・ですか…」
楠目はゴクリと唾を飲み込み、三日後に行われることに緊張した。ただ、この時安部にあっては特に緊張感や恐怖感などの感情はなさそうに平常通りの顔をしていた。もしかしたら、安部はこれからこのようなことが起こることを予想していて、とっくに覚悟ができていたのかもしれない。