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All knowing〜世界を従えるもの〜  作者: 留也 装等
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第6話

(あぁ、私はここで死ぬんだ。)


私、安部あべ あかねは地震で倒壊した瓦礫に埋もれながらこれまでの人生を振り返っていた。

父親は私が小さい頃に借金を残して蒸発した。母親は残った私を女で一つで育ててくれたが、2年前に過労により倒れて、そのまま帰らぬ人となった。

母は、父の残した莫大な借金をほぼ返してくれたが、それでも数千万円以上残っていた。当時私はまだ16歳で、母も死に、親戚もいなかったため、高校を辞めて働き出した。

でも、高校中退の私にまともな職があるわけもなく、朝から深夜まで、色々なアルバイトをしながらお金を返していった。

当然毎日仕事で、友達をつくる余裕もないのでいつも一人だった。

それでも借金を返したらこの生活も変わると思って必死に働いて、24歳で残った借金の半分程は返済した。でもそんな時に起こったこの地震で、今私は死にかけている。いや、このままなら確実に私は死ぬだろう。


「だ、誰か・・助け、て・・」


瓦礫に埋もれて体が圧迫されて上手く声が出ず、とても小さなかすれた声で助けを求める。

しかし、こんな小さな声では誰も気がつくはずもなく、返事はない。


(私は何のために生まれてきたんだろう。)


彼氏も友達もつくらず必死に父の借金を返すために働いて、追い討ちのように今死にそうになっている。


(こんな人生ならもう死んでもいいかな。別に生きてても楽しいこともないし。)


次第に私は生への渇望がなくなり、死を受け入れていき、今や歓迎すらするような気持ちになってきた。そんな時、急に私を押さえつけていた瓦礫が粉々に砕け、火事によって赤く染まった夜空が顔をだす。


(え?何が起きたの?)


「お、いたか。思ったより重症そうだな。」


声がして前を向くと、歳の離れた兄弟だと思う二人の男子がこちらに向かって話かけながら歩いてきていた。


「あなたたちは誰?」


私はかすれた小さな声で尋ねる。こちらに向かってくる二人、正確には10歳ぐらいの男の子がとても場違いに思えたからだ。

先ず服装。

20歳そこそこだと思う方は普通の青年が来ていそうな服装で、それが所々土ほこりが付き、破れている。良く見れば、ズボン等にはかなりの血が付いていたが、この地震で怪我でもしたのだろう。特に疑問には思わなかった。

しかし子供の方は、軍服のような物を羽織っており、大人サイズのため、まるでマントのように軍服を羽織っている。

そして二人とも、ここが大地震がおきた直後の被災地なのに、まるで日曜日の散歩でもしているように緊張感なく、こちらに向かってきて話しかけていたからだ。


「私は楠目泰二と言います。今回は私のあるじであるこのお方があなたに興味を持たれたので、助けにきました。あなたのお名前は?」


「私は、安部…茜と言います。」


(楠目という男に聞かれたから答えたけど、何でこんな状況で私は自己紹介なんかしているんだろう。)


そんなことを考えているともう一人の男の子が私に話しかける。


「安部、と言ったか。お前、俺と来る気はないか?」


「?」


変な子だと思った。多分、20代の男の人はこの子のお守役か何かで、この子の両親はとてもお金持ち。それで酔狂かただの思いつきで、死にそうになっている私を助けようとしているんだと私は思った。


(どうせ助かっても借金を返すための日々が続くだけだし、特に夢も、生きたい理由も無いしなぁ。)


「私は大丈夫なので、他の人を助けてあげて下さい。」


私がそう言うと、男の子は若干驚いたように眉毛をピクリと動かした。


「何だお前、生きたくないのか?」


「子供のあなたには分からないかもしれないけど、生きるのって結構疲れるのよ。私はもうこの人生に疲れたから。だから・・ね」


(こんな子供に愚痴なんかいっても仕方ないのに)


私は言いながら自分の今までの、そしてこれからの人生がつまらないものだと思いついつい子供に対して愚痴を言ってしまった。もしかしたら、お金持ちで、何不自由なく過ごしていそうなこの子に嫉妬したからかもしれない。


「くだらんな。」


「え!?」


「人生に疲れた。それはつまりお前の人生がつまらんと言うことだろう。それなら自分で楽しくすればいいだけの話だ。」


子供はまるで私が全て悪いような言い方をして来た。10年ぐらいしか生きていなく、しかも、お金持ちで今まで何不自由なく、何の悩みもなく生きて来たであろう子供に言われ、私は今までの人生への不安が爆発する。


「ふざけないで!!あなたに何が分かるのよ!!!

親が残した借金をひたすら返すためだけに働いて、食べたいものも、やりたいことも何一つできない人生なんて何の意味があるのよ!!」


「ハッハッハ。元気ではないか。本当に人生に絶望しているやつはそんな元気に喋らないぞ。」


子供は笑いながら私に問いかける。だがその目はまるで私の心を見透かすようにとらえている。


「うるさいわね!!あんたみたいなお金持ちの子供には貧乏人の気持ちなんか分からないわよ!!」


「ほう。つまりお前は人生ではなく、今の生活が嫌と言うことでいいのだな。」


「だったら何よ!!」


「それなら俺と契約しろ!俺がお前の生活を変えてやろう。そして人生もつまらないと言うのならば、それを変える力も与えてやろう!その代わり、お前は俺についてこい。」


「あなた何を言って・・」


るのよ、と私が言おうとすると、急に男の子が右手を地面から平行に横に上げた。そうすると、右手の前やその周囲から、直径30センチぐらいの黄色い丸い物体がバチバチと音を鳴らしながら無数に出現する。次の瞬間!無数の黄色の物体から、レーザーのような光線が音速のような速さで射出され

、右手の進路状にある、建物や瓦礫を全てなぎ払う。

後には瓦礫などの遮蔽物しゃへいぶつは一切なくなっており、ただの平地となっていた。


「これが俺がお前に与える力だ。俺はこれからある組織を作り、世界を裏から支配していく。それはとても楽しく刺激的なものだろう。お前にはそれを俺の間近で感じる権利を与えてやる。その資格がお前にはあるからな。どうだ。中々楽しそうな人生ではないか?」


男の子はニヤッと笑いながら私に手を差し伸べる。何もない私にとっては、これから起こる自分の人生を想像すると、それはまるで、天使のようであり、悪魔のようでもある手に見えた。

そして私はその魅力にあらがうことは出来ず、男の子の手を取る。


「俺は岡野。これから宜しく頼むぞ。」


岡野と名乗る男の子は無邪気な笑顔で、しかしその内面は悪魔のような感じがする雰囲気を持ちながら私の手をしっかり握り、私の世界から外に引っ張り出してくれたのだった。

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