第5話
(何だ?音が聞こえない??)
岡野という子供の真下に、急に黒い魔法陣のようなものが浮かび上がり、一瞬激しく光ったかと思えば急に音が消えた。それまで人の悲鳴や爆発音、何かが燃えるような様々な音が鳴り響いていたのに今はそれが一切聞こえない。
「ようこそ俺の世界へ」
岡野は両手を広げ、俺に告げる。
「俺の世界?」
「そうだ。俺の、俺が支配する世界。どんな生物も、どんな物質も、どんな現象も、全て俺の許可なしには行動、発生することが許されない俺の世界。喜べ楠目。お前はこの世界で、初めて行動することを許された初めての生物だ。」
全てが行動、発生出来ない?…まさか!!
「と・時を止めた!??」
「ほう、理解が早くて助かるな。その通りだ。今この世界は、俺とお前意外、全ての時が止まっている。試しにそこら辺の石ころを持ってみろ。」
(ば、バカな!!ありえない!!!時を止めるだと!!???そんな非現実的なことありえるわけがない!!!)
俺は本能では理解しつつも理性が拒絶し信じられずにいた。そして、震えながらその辺に転がっている瓦礫の石ころを手に取る。
「離せ。」
俺は岡野の言われるがまま手に持った石を離した。
「う・嘘だろ!!???」
離した石は、普通なら重力によって地面に落ちるはずだった。しかし、石は離した場所に留まり続け、空中に浮いていた。
浮いてる高さは、俺が瓦礫に埋もれてうつ伏せの状態で話したので、地面から数十センチの位置だったが確かに浮いていた。
俺は信じられず、浮いている石を凝視する。
「信じられない!!?ま・まさか・・こんなことが!!?」
「だがこれが現実だ。だからお前の出血も今は止まっているだろ。それと、ついでに痛みも止めてやったから今は痛みも感じないはずだ。」
「!!???」
確かに言われて見れば、先ほどまであんなに出血していた血が止まり、怪我による痛みも全く感じない。
まさかこんなことが現実で起こりえるなんて。これではこいつ、いやこのお方はまるで・・・
「ふん。表情が変わったな。やっと俺という存在を理解出来たみたいだな。」
「あ・貴方は一体・・な・何者なのですか?」
俺がそう問いかけると、岡野はニヤリと頬をあげ答える。
「そうだな……神…ではないが、生物の進化論でいえば最新形態、頂点にいる者、といったところか。」
確かに、進化論でいえば人から更に進化、いや!もはや神化したといってもいい何かであるのは間違いない。この力があれば、仮に世界を敵に回しても、勝てないかもしれないが負けはしないだろう。時間とはいわばこの世界の原理そのもの。その原理を操るということは、誰も彼から逃れられないのと同義。世界を裏で操ることも可能だ。
「あぁ、言い忘れてたが、別に俺は、時を止めることだけしか出来ないわけではないぞ。」
「は!!???」
「火や水、風、電気といった様々な現象も操る、もしくは発生させることも可能だ。それ以外にも色々と可能だ。」
(それは正に神じゃねえかあああああああ!!!!!!)
俺は心の中で絶叫する。そんなこと神以外に誰が出来るというんだ。悪魔か?天使か??魔王か???
「それともう一つ。」
(まだ何かあるのか!!?)
「もしお前がここで死ぬのではなく、俺の傘下に入るというなら、お前にもこの力を分け与えてやる。まぁ、何がどのくらい使えるかは貴様の才能と努力次第だがな。」
「え!!???お・俺にもこんな力が???」
「そうだ。これから裏で様々な、時には戦闘や、殺しもやってもらうことがあるだろう。そんな時、何者にも屈しない力が必要になる。そのための手段を俺が与えてやる!」
「戦闘や、殺しもやるのですか??」
「ん?不満か?だが、お前も理解していよう。偽善だけでは世界は支配出来ない。力が必要だ。そして力や権力を手に入れれば、その代償が必ず起こる。その一つが殺しだ。
もしそれが無理ならば仕方ない。ここで果てろ。だが、受け入れるのであれば、俺が見せてやる。世界の全てを!その真実を!!」
気がつけば俺は、岡野の目を凝視しながら、その演説に聞き入っていた。
俺が知りたかった世界の真実、知識。それら全てが手に入るのだ。しかも、人間という枠からはみ出し、新たな種、力も手に入れて。
そんなの迷うわけがない!!!俺が心の中でずっと恋い焦がれていたファンタジーの世界!!それが目の前に広がっているのだから!!
俺は岡野が差し出す手に向かって必死に手を伸ばした。
「永遠に忠誠を誓います。現代の覇王よ。」
「契約成立だ。」
やっと配下を一人確保することに成功した。
俺は契約成立後、下敷きになっていた瓦礫をどかし、楠目の治療(もちろん魔法で治した)を行なった後、時を止めたまま二人で被災地を歩きながら俺は少し考え込んでいた。
(最後のあれはなんだ?現代の覇王って。中二病強すぎじゃねえか?)
確かに楠目には中二病の症状はあるのは把握していたが、いきなり口調が変わりすぎじゃねえか?
まぁいきなりあんな経験をしたんだから無理もないかもしれないが、少し自分に、この状況に酔っているかもしれんな。俺も中二病だから別に構わんが、これ以上酷くなるようなら、テコ入れが必要かもしれんな。
「それで覇王様。これからどうすればよろしいでしょうか?」
「そうだな。まずお前に力を与える。訓練方法も教えてやるから、まずは自分の能力を磨け。それに並行して組織の発足、運営もやってもらう。
発足資金は既に確保してある。人材にあっても随時増やして行くから、お前はそれ以外の運営、情報収集、影響力の拡大をはかれ。」
「了解致しました。して資金はいかほどおありですか?」
「とりあえず10億円用意してある。それにプラスしてお前の日常生活費諸々合わせて2億をあてがう。とりあえずこれで半年持たせろ。資金はやろうと思えば俺の能力でいくらでも増加可能だ。心配せず、使い果たすつもりで全力で使え。勿論無駄使いしろと言う意味ではないぞ。」
「承知しました。それではまず、日本での拠点の確保と情報収集から入ろうかと思います。」
「あぁ。それで構わん。裏の組織なのだ。スーツなどの服や、装飾品にも金をかけて存在感を出しておけよ。見た目で侮られると後々面倒だからな。」
「承知しております。その辺も抜かりなく進めて参ります、覇王様。」
「分かっておれば良い。それにしても、その覇王とはなんだ?」
「お気にめしませんか?世界を裏で支配するということはつまり、多数の国家を支配するということ。一国なら王ですが、多数ならば皇帝、もしくは覇王がふさわしいかと思ったのですが。」
「まだ拠点もできてないのに覇王か。まあ今は良い。裏の組織故にコードネームも必要になるからな。そのうち考えるとしよう。」
「かしこまりました。」
「それと楠目。分かっていると思うが、お前の家族、親族、友人等、今までお前が関わった者との接触を禁じる。お前は死んだことになっている。それが強みだからだ。分かるな。」
「分かっております。」
「そして俺は慈善活動家でも正義の味方でもない。よって、お前の家族や友人がこの震災で死にそうでも一切助けないしお前も助けるな。これも分かるな。俺が助けるのは、俺か組織に有用な者のみだ。良いな。」
「承知しました。」
「よし、それではまずはここから離れ、ん?」
「どう致しました覇王様?」
「ハハ。まさか本当にいるとはな。」
「?」
生きてる人間を死んだことにするのは、いくら俺の能力があっても簡単ではない。書類上で死んだことにしても、その知り合い達が死んだと思わなければ死んだことにする意味が半減してしまう。
なので、このような大災害でもなければ、死んだことにする人間を作るのは簡単ではないのだ。そして折角の機会、俺の知識では測れない、魔法という能力に関して才能を持つ者がいればラッキーだと思い、付近を歩いていたわけだが、いたな。普通の人間には見えない、魔法特有の粒子を体から放出している天才が。これはついている。
「喜べ楠目。早くも二人目の配下の候補者を見つけたぞ。」
「なんと!!それは素晴らしいですな!では早速勧誘しに参りましょう。」
「あぁ。もちろんだ。せいぜいOKしてくれるよう全力で頑張ろうではないか!」
俺は楠目と二人、笑いながらその女の所へ向かって行くのであった。