第2話 第1章〜基盤〜
第2話
(てんせい・ ・・か?)
見回せばそこは病院の一室。しかも周りは赤ん坊だらけ。 生まれたばかりの赤ん坊が一時的に集まり入る部屋。そこの一人の赤ん坊がどうやら俺のようだ。
「あら?どうちたんですか坊や?パパとママをさがちてるんですか〜」
一人の看護婦が俺に話しかけてくる。恐らく一人だけ泣かないで周りをキョロキョロしていたから気になったんだろう。
看護婦が俺の頬に触れて慈愛の目をして見てくる。
ふむ。どうやら転生したのは間違いないようだ。
看護婦が着ている服や、髪型を見るとかなり昔の時代。
俺が生まれた時代かそれ以前の時代のようだ。よくよく見ればこの部屋もなんとなく見覚えがある気がする。俺の弟が生まれた時に見たような気がする。
どうやら全く違う人間に転生したのではなく、俺自身に転生した可能性もあるか。いや、この場合は転生ではなくタイムスリップか。
まあどちらにしても、俺の思惑は成功したということだ。
死ぬ間際、走馬灯が流れて脳が100%使用可能になった。そして気がついた俺の本当の能力。正確にはスピードという能力が覚醒した者全ての本当の能力である時間操作。
そうスピードだと思っていた能力は、自身が速く移動出来る訳でなく、時間そのものを操作し、時間の流れを遅くし、速く動いているように見えたという者だった。
俺以外のスピード覚醒者は、皆俺よりもかなり低い次元でしか脳を操作出来ない。確か俺の次に覚醒した者でも60%かそこらだったはず。しかもスピード覚醒した第1世代の俺がスピードだと思い込み、それが世界の常識となったこともあり、余計に他の者も疑わなかったんだろう。なんとマヌケなことだ。
まあよいわ。
こうして2回目の人生をしかも赤ん坊の頃からやり直せる。
しかも、脳が100%覚醒したからか、それとも走馬灯を見たからかは分からぬが、俺が生きた約130年分の経験したことや知識だけでなく、全ての出来事を覚えている。見てことも聞いたこともないことも全てだ。
そこには普通の人間が脳を操作し、魔法を使えるようになるための訓練方法や薬の作り方もある。正にザ・チート。このチート駆使し今度こそ最高の悔いのない人生を歩んでやる。だが今は赤ん坊らしくとりあえず寝るか……。
タイムスリップして1週間がたった。今の大体の状況は理解した。
やはり俺は昔の自分自身に転生、タイムスリップしたようだ。両親は昔の俺の記憶通りの顔であり、母親と共に退院した際にみた病院の建物も実家である島根県の俺が住んでいた地域の病院だった。
そして、俺の能力はというと、どうやら脳の操作は問題なく出来る。だが、100%は使えないようだ。恐らく死ぬ間際の走馬灯の瞬間だけ100%使えるようで今はそれ以前の90%そこそこしか使えない。
だが何も問題ない。自身の本当の能力を知った今、130年後の未来でも恐らく最強の一角に入る実力があるだろう。100%は使えないので時を超えることは出来ないが、時を止めることは可能だ。流石に時を止めればそう簡単に負けないだろう。しかも今は約130前の魔法がファンタジーと思われていた時代。はっきり言って、そこらへんの小国程度の軍隊など瞬殺出来る自身がある。
まあ今は身体が赤ん坊なので出来ないが。
とりあえずこれからは本当の能力が分かったのだから、これを効率よく使えるように訓練していかねばならない。それともう一つ。
俺は折角の第二の人生。どう生きていくかプランをずっと考えた。赤ん坊で他に出来ることが無かったというのもあるが。
とにかく俺は一週間考えあるプランを考えた。この知識と能力のチートを最大限利用する方法を。それは世界を裏から支配するというもの。
初めはやはり金持ちになることだった。だがそれはこの知識のチートを使えば簡単だ。何せ全世界の宝くじの当選番号を全て知っている。いつでもすぐに億万長者になれる。
次に考えたのは権力。
だがこれには落とし穴がある。権力者になれば少なからず有名人になる。これは自身の行動を監視されると同義だ。折角の自分の思うように世界を動かしても、自分が自由に動けなければ意味がない。まあ誰からみても真っ当な生活をすれば問題ないのだろうが、そんなことをするつもりは毛頭ない。
なら権力は持っているが、有名にならなければ良い。ということで裏で世界を支配することにした。まあ全くの一般人だと逆に何かと問題がありそうなので、ある程度表でも有名になろうとは思うが。
そのためにはまずは仲間、部下が必要になる。
戦闘面に関しては別に一人でも問題なさそうだが、支配という観点から言えば不可能だ。そのためには優秀な部下や仲間が大量に必要だ。もちろん組織も。
だが、有能な者なら知識のチート能力で、世界のあらゆる模試の点数結果や、成功する者の名前が分かるが、優秀な者、つまり性格やコミュニケーション能力が良い者は分からない。当たり前だ。そんなものは世界共通に点数化出来るわけがない。
なので、こればかりは1回目の人生で俺が関わった者達の中で優秀な者か、今から出会う優秀だと俺が判断した者、あるいは小さい頃に一から教育し、これから作る組織に適し、かつ俺に忠実な者を作っていく他ないだろう。そのためには俺自身がこれから世界中を周り出会いを少しでも多く経験する必要がある。
しかし、大人ならまだしも、子供の時に世界を渡り歩くのは普通に考えれば無理だ。
子供では働くことも宝くじも買えないので金がない。親に言って一等の宝くじを買わせ金を手に入れることは出来るが、まさかその金をそのままガキの俺にくれるわけがないし、一人で海外旅行に行かせる訳もない。
それなら、小さな頃から親や周りの者に学力でもスポーツでも何でもいいから天才だと思わせ、海外留学でもするか。そして少しずつ仲間や部下を選別し、組織を作り上げていくか。
そうと決まれば、何歳から親や周りの者に天才だと認識させるかだが、まあ3歳ぐらいからでいいだろう。
ふむ。眠くなってきたな。とりあえず四度寝でもするか。全く赤ん坊というのはいいものだな……。
(いい加減に鬱陶しくなってきたな。)
あれから更に一週間たった。これからの予定もたち、ひたすら寝るか時間操作の能力の訓練をしているが、いい加減に親が鬱陶しくなってきた。身体は赤ん坊だが、脳が約130歳の俺なので、当然泣かないし、静かに脳の訓練をしているだけなので、親からしても俺はこれ以上ないくらい扱い易い子供だろう。しかし、親からすれば俺は初めての子供であり、可愛くて仕方ないのだろう。訓練中や寝ている時でさえ、しきりに話しかけたり、顔などの体に触りあやそうとしてくる。
だが俺は128歳だ。そんなことされても嬉しくないし、訓練中は集中力が乱れさっきしいって邪魔以外の何物でもない。トイレをオムツにするのは慣れたが、これは我慢の限界が近い。
「翔ちゃんは本当におとなちいですねぇ〜おりこうさんでちゅねぇ〜」
又母親が俺の体をくすぐりながら話しかける。くすぐったいし集中して訓練が出来ん!全く親バカも程々にしてほしいものだ。
「あれぇ?翔ちゃんくすぐったくないでちゅかぁ?じゃあこれはどうかなぁ〜。コチョコチョコチョ〜!」
あぁウザイ!!!
「止めろ!集中できんだろうが!!!」
「っっ@#$%^&*(*&^%$#@!!!!!??????」
ふむ。しまったな。鬱陶しすぎてついつい声に出してしまった。見れば、母親が顔の全ての筋肉を全力で使って左右に開き、目や鼻、口をこれでもかと開けている。まあ当たり前か。生まれてまだ2週間だしな。
「っっしっ・・翔ちゃん・・・い・今、日本語話さなかった???」
母親が口をアワアワさせながら俺に問いかけてくる。
生でこんなに人が狼狽えているのを初めて見たな。
…中々面白いな。少し楽しくなってきたぞ。どれ、
「母さん。くすぐったいからやめてくれ。」
さあ、次はどんな反応をする?
「ッッグゥュヤァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
今何て言った?
最初の方が日本語にはない発音でよく聞き取れなかったぞ。
というか、其処は普通’’キャアア’’じゃないのか?
まあ人間本当にうろたえれば意味不明に叫ぶということか。
「あなたぁぁーーー!!!あなたぁーーーー!!!!!!大変よ!!!!!!!翔ちゃんが喋ったわ!!!!!!!!!」
「何を言ってんだよ。まだ生まれて一月もたってないのに喋るわけが、」
「喋れるぞ〜」
「ッッゴュウィヮヮァァァアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
似た者夫婦かよ。
「た、、大変だ!!!!!び 、、び、病院に連れて行こう!!!!」
ん??待て。何故病院なのだ?何処も悪くないぞ??
「そ、そうよね!!!まずは病院に行ってお医者さんに見せてもらいましょう。」
いやいや。そうじゃねえし。医者に診てもらうのはお前らだろ。しかもテンパってて’’お医者さんに見せてもらう’’とか言ってるし。何見せてもらうんだよ。
「すぐに車の鍵と財布持ってくる!!」
「えぇ!!お願い!!早くね!!!」
「母さん。何処も悪くないから病院は行かなくても大丈夫だぞ。」
「キャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!あっっあなたァァァァアアアアア!!!!!!!!!!!!!早くしてェェェェェエエエエエエエエ!!!!!!!!!翔ちゃんがまたしゃべってるうううううううう!!!!!!!!!!!!!」
ダメだ。今は何を言っても逆効果だな。とりあえず今は流れに身を任せるしかないか。
それにしてもやり過ぎたか?
これは少しまずい状況じゃないか??研究施設とかに入れさせられないだろうな・・・ていうか、今度はキャアアアなんだな。。。
まだ雪も残り、春の訪れも感じられない1988年3月初め。島根のある家庭で小さな異変が巻き起こる。それは将来、バタフライ効果の様に周りに伝染し、世界を巻き込む異変へと成長していく。