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All knowing〜世界を従えるもの〜  作者: 留也 装等
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第1話;プロローグ


ある一人の老人がいた。

 その老人は東京のとある高級老人ホームでベッドに寝ころびながら、残り少ない人生をただただ外の風景を見ながら過ごす。

 老人がいる部屋は、入会金だけで2億円もする言わば人生の勝ち組が、生涯最後の住まいとして余生をのんびり暮らす極楽施設である。

 間取りは4LDK、家具はすべて高級品、呼び鈴を押せば24時間体制でコンシェルジュが駆けつけ、体調の急変や急病の際には、隣にある日本でも有数の総合病院に勤める医者たちが駆けつけ治療を施してくれる。

老人ホームの敷地内には5種類の露天風呂と各種温泉施設、プール、ゴルフの打ちっぱなし場、運動場やサロン、ビリヤードやダーツ等の各種娯楽施設と、和・洋・中華等の様々なレストランが併設されている。いわゆる至れり尽くせりである。

 入会金2億円は法外な値段であるが、この至れり尽くせりな環境で暮らすためには月に1千万の家賃を払う他にも、その者自身が日本もしくは世界に対して一定の影響力を持っていなければ入会することはかなわない。

 そんな人生の勝ち組の中の勝ち組である老人、岡野翔太は今年で128歳になる老体を動かし、仰向けの状態で顔だけ部屋の窓に向け、外の風景をぼんやり眺めていた。



「すべてが遅すぎたな。」


 岡野は悔やむように、しかし、もはやあきらめの入った声で独り言を吐き出す。それは自分がこれまで獲得して来た地位や名声、権力、財力全てを放棄し、もはや自分一人で歩行することすら困難な体を手放し、黄泉の国へ旅立つ一歩手前であることを意味していた。



 この岡野という老人、今でこそ勝ち組の中の勝ち組にいるが、人生の初めから勝ち組だったわけではない。むしろ勝ち組になったのは70歳を超えてからであり、遅咲きもいいところの遅すぎる開花であった。




 2039年、世界はほぼすべての電化製品がネットワークに接続され、IOT時代の全盛期を謳歌していた時代、新たな時代の幕が突如として開ける。それは情報化社会として肉体ではなく、脳のスペックが人生の良し悪しを決める世界において、ある意味時代に逆行した流れであっただろう。その幕は後に第一次魔法大戦と呼ばれた。

 そう、

         「魔法」

である。

 今までおとぎ話、ファンタジーと思われていたものが現実となり人々に周知された。それは、長年世界の各研究機関が研究していた脳という機関の謎が一部解明された瞬間でもあった。



 人は、自分の身体を使えこなせていない。筋力等は耐久力等の観点から、本来使用できる力の約3割程度しか発揮出来ない。ましてや脳にあっては

、自身でコントロールなどは出来ない。

基本的に動物は脳からの指令により思考し、行動する。つまり、動物とは姿、形はただの入れ物に過ぎず、「脳=その個体」なのである。生物の進化で言えば、人間は系統樹の一番進化した位置にいる。

しかし、そこに新たに進化した種が生まれてもおかしくはない。その種は、見た目は人間と同じだが、筋肉だけでなく、脳や内臓器官、血流等を筋肉を動かすように自身でコントロールすることが出来るようになった。それが魔法の元となった原理である。



脳を効率的に使用できるようになった新たな者は、人が死んだ時等に観測されたことがあるエネルギーの拡散現象。このエネルギー(後に身体エネルギーと精神エネルギーに判別される)をも自在に操ることが出来るようになり、これを変換することにより、身体強化や様々な現象を引き起こすことができるようになった。

しかし、一言に魔法といっても個人によって習得できる能力は異なる。

ある者は攻撃、またある者は防御やスピード、ファンタジー世界である電気や水、炎と千差万別である。それは運動神経と同じように、脳を操作する際、脳や神経インパルスをどの程度接続、操作できるか等、様々な要件が重なり得意とする能力が確定するが、未だ完全に脳の働きを解明できない人類は、そのメカニズムは未だ完全に把握できておらず、日々新しい能力の発見や理論の修正開発がなされている。



そして、2039年に脳の魔法体系技術をいち早く獲得した中露連邦は、世界に宣戦布告し第一次魔法大戦が開戦する。

そんな中、実戦経験のない日本は、中露連邦に対し、今まで誰も体験したことのない魔法と、現代兵器の混合部隊により当初は劣勢を強いられる。

しかし、アメリカと協力し、なんとか中露連邦の魔法体系のシステムを盗み解析した日本は、自衛隊を軍隊として新たに編成し、さらに警察も巻き込み魔法師を覚醒、育成し防衛体制を整え、アメリカやタイ、ベトナム等の混成軍と共に応戦し、2059年、日本の国土は変わらないまま戦争は一応の終結を見た。



開戦当時、警察に所属していた岡野もまたその魔法師の覚醒、育成計画に参加し能力を得た。まあ理由は国民を守るという警察の使命感としてではなく、単純にファンタジーであった特殊能力に憧れがあり、かっこいいからという単純な理由ではあったが。

その観点からすると、ただかっこいいとか、やって見たいという不純な動機では、計画に参加すら出来なかった一般人からすると、表面上は警察の使命感を語っていれば、参加することができた警察という組織にいた岡野はラッキーと言えただろう。

しかし、岡野の人生は、持っている運動神経や頭は良い方だったが、生まれてから極端に運がなかったり、チャンスが来ても既に時すでに遅く、チャンスを活かしきれない残念な人生だった。



魔法という計画には参加でき、日本どころか世界でも10人もいないと言われていた脳の90%を操作でき、主にスピードという能力を得た岡野であったが、計画が始動したのが2041年。この時既に岡野は53歳。いくら運動神経が良く、頭が良いといっても、全盛期は既に30年前の話であり、未だ未知な部分が多い魔法ということもあり、先駆者がいないので手探り状態で能力を強化しなければならず、自身の能力を完全に使いこなすことが出来なかった。




開戦初期、魔法は主に身体能力強化という内力系と、炎や水、電気、風等のエネルギーを他の何かに変換する外力系、それ以外の(未来予知等)の特殊系に大別された。

岡野は、攻撃、防御、スピードに分かれる内力系のスピードを強く覚醒し、スピードを主に発現した世界中の能力者の中で、脳の90%以上を操作できる者は岡野ただ一人であり、80%以上を操作できる者さえ岡野以外誰もいなかった。

スピードを発現した当初の岡野は、スピードに関しては他の追随を許さない一つ上の次元におり、更には、脳の90%を操作出来ることにより、他の攻撃や防御の内力系なら、それを主に発現した50%の脳の覚醒者と、外力系なら40%の覚醒者とほぼ同等の能力が使えた。大戦終結時、世界に約700万人いた覚醒者の中で、50%覚醒した者は一人で1個大隊に匹敵すると言われており、その数は約1000人しかおらず、岡野の戦闘力が世界トップクラスであるのは覆しようのない事実であった。


しかし、いくらスピードが速いといっても、弾丸のようなスピードを出せば自身の肉体が耐えられずグシャグシャになってしまい、そこまでのスピードでなくても、反射神経や動体視力の観点から目に見えない程の速度を出し、戦闘をすることは困難であった。

もちろん、スピードだけでなく、他の内力系や外力系の力も使えるため、ある程度は自身の肉体を強化し、残像が見える程度には速く動けるが、平均的な覚醒者や、上位(50%程度の覚醒者)の覚醒者ならいざしらず、他の80%を超える覚醒者には、少し考えれば速いだけの、しかもいくら速くても、残像が見える程度のスピードしかだせない覚醒者など、いくらでも対抗手段があり、スピードを主に発現した覚醒者は他の覚醒者に軽く見られるようになった。

世界に10人もいないと言われる90%以上の覚醒者である岡野も例外でなく、大戦終結後に世界のバランスをとり、世界中の全覚醒者を管轄、支配するようになった世界統治機構の最高幹部であり、最高戦力でもある11人会に入ることはできず、実際に11人の誰と1対1で戦っても5分以内に殺されるのは間違いないことであった。




「クソが!」


外の風景を眺めながら、自分の現実、歴史を思い出し不条理な世界に悪態をつく。本来なら11人の最高幹部のトップにいてもおかしくない力を覚醒しながら、使える能力のせいで最高幹部どころか、その一つ下の幹部にすら負ける可能性がある揺るぎない事実。


「・・・結局、最後まで運がなかったということか。」


生命力を魔法と最新医療技術により強化し、128才という年齢まで生きて来たが、ついに終わりが見えており、諦めの感情が岡野の心を支配していく。

しかしそれでも考えずにはいられない。


「なぜだ!」


なぜ自分はこんなにも運に見放されているのか。

思えば小さい頃から学力、体力、身体能力はどれも優れた才能を持ち、コミュニケーション能力にあってもクラスの中心人物の一人になれるぐらいの能力があった。しかし頭の固い親や部活の担任の先生に恵まれなかったり、運が悪かったりと自信が持つ才能全てを上手く使えず人生が終わる。

元々押しに弱く、命令されるとそちらにズルズルと流されてしまう性格なのも拍車をかけていたのだろう。

しかし、それに気がつき、安定より変革を求め魔法師になったにも関わらず、結局苦渋を飲まされた人生に終わった。

もし魔法が開発されたのが後30年、せめて20年速ければ、まだ若い体であり、今より数倍は能力を使いこなすことが出来ただろう。まぁそれでも他の同格の覚醒者には及ばないのだが。


「他の能力であったなら・・・」

スピード以外の能力なら脳の覚醒率からしても、最強の覚醒者になれる力があった。全てはスピードという能力のせい。


「だいたいスピードとはなんだ!他の内力系が攻撃、防御ならせめて名前は素早さだろ!なんでスピードって名前なんだ!!」

完全防音であり、監視及び覗き関連の魔法に対する防壁魔法が展開している部屋で、誰も聞いていないことが分かっているため、無意識に独り言が増え、その声量も次第に大きくなる。


「スピードの能力だって意味不明だ!!。攻撃と防御は分かる。身体機能を操作もしくはエネルギーを身体強化に変換し、攻撃や防御力を上げる。だが、スピードってなんだ!!。何を強化している!!。エネルギーを何に変換している!!!?

単純に速さを上げたいなら下半身を身体強化すれば出来るんじゃないのか!?なぜそうしても強化しない!。いや、強化はされ、実際に速さは上がっている。だが私のようなスピードを覚醒した者たちにはその効果が半分以下だ。私のようなスピードを覚醒した者は、ただ速く動こうと考え魔法を発動すれば素早く動ける。

もちろん他の覚醒者も主に発現した力を発動しようと考え、魔法を発動すればその力が発現するだろう。

しかし、如何に魔法が未だ謎に包まれているといっても、スピード以外の能力は最終的に何処が強化、もしくは何が変換されたかは分かっている。

だが、スピードはなんだ!!。普段何気なく使っているが何処が変化している?全く持って意味不明だ!!!」


もはや独り言でなく、誰かと居酒屋で愚痴っているようであり、とても100歳を超えた老人の口調ではなく、若者の愚痴のようである。


「大体、いくら魔法で身体強化しているといっても、何故あのスピードで普通に障害物を避けたり戦闘が可能なのだ。その強化が出来るなら何故他の内力系覚醒者と渡り合うことが出来ない?他の内力系が到達不可能なスピードを発動出来る身体能力を得ていながら、何故その力を攻撃や防御に転換出来ないんだ?」


しかし独り言ゆえ返事はもちろんない。

自問自答しながら身体の内で唯一完全に動く脳をフル稼働させる。最早超老体の岡野にはそれしか出来ることはない。


「反射神経が強化しているのか?それとも目が良くなっているのか?神経の電気信号の伝達スピードの強化か??」


実に脳の90%以上を覚醒しているゆえ、超高速で思考回路がめぐりだし、疑問が生まれ仮説を立てそれを瞬時に否定し続ける。


「いやあり得ない。反射神経や目が良くても反応はできるが、スピードは他の内力系とさして変わりはないはず。電気信号も外力系の電気変換の覚醒者なら同じことが出来る。・・・いや待てよ!?」


そこで岡野の脳が何か引っかかりを見つける。


「そもそも本来攻撃とは簡単に言えば物体の質量とスピードで決まるはず。物理法則を無視する魔法での肉体攻撃はともかく、瞬間ではマッハを軽く超すことが出来る俺が攻撃すればいくら魔法で強化していても無傷ではいかないはずだ。だが実際は無傷。何故だ??

しかも速すぎるスピードを出せば身体が持たないと言われておきながら俺は瞬間的に出しても自身の身体は平気だ。研究機関が嘘を?。」


岡野はどんどん思考の世界に入り込み考えつづける。


「いや、それはあり得ない。メリットがない。いくら他の内力系の覚醒者より極端に人数が少なく、能力が劣っているといっても、日本だけでスピード覚醒者は100人はいる。しかもその中で俺は世界で唯一の90%を超えて覚醒したスピード能力者。その俺にも隠すのはメリットがなさすぎる……

待てよ!?

何故スピード能力者は日本に100人ぐらいしかいない!?。他の内力系や外力系はそれぞれ日本に数万人いる。唯一特殊系は日本に数百人いるかどうか。それよりも少ない人数が内力系のスピード覚醒者。少なすぎる。まだ特殊系に分類された方が納得だ。まぁ今の系統が出来てまだ数十年しかたっていないし、魔法も未だほとんどが謎だ。間違って分類されていることもあるだろうな。・・・そうか!!!」


ある一つの仮説が岡野の頭を支配する。


「そもそもスピードは内力系でなく特殊系だとしたら、説明がつく。スピードを生み出す原因は肉体でなく他の何か。それをスピードは肉体強化の一部と認識して能力を発動しているために完全に能力が発揮出来ないんじゃないか?なら肉体強化以外で速く移動出来るにはどうすれば出来る?」


その疑問の答えを瞬時に思いついた岡野は笑いがこみ上げてくるのを抑えられない。それほどの新事実だった。

しかし、そこで岡野の時間が終わる。



「!!!・・・ク・ソ・・が・・・」


脳から心臓に動くように命令を出しても心臓が思うように動かない。心臓自体の消費期限が終わり、岡野の生命活動が終わりを告げようとする。


「ふ・・ふざけるな!!やっと!・・・やっと!!掴んだんだぞ!!!スピードという能力の本質を!!」


無理やり心臓を全能力を動員して無理やり動かす。しかし、それも止まるのは時間の問題。


「何・故いつも・・いつも!・・・いつも!!気がつくのが遅い!!!。せっかく・世界最・強・・にな・れ・ること・に気が・・・ついた・・という・の・・・・に・・・・」


ついに心臓が止まり、死ぬ間際、走馬灯が浮かぶ。それは死ぬ間際の最後の花。脳が一番覚醒する最初で最後の瞬間。脳の90%以上を長年操作し、自身の能力の本質に気がついた岡野だからこそ、その瞬間、岡野は100%脳を覚醒し、そして死んだ。











「ぅん?」


そこは見知らぬ天井、知らない景色。


小さき体、スベスベな肌、上手く舌が回らず喋れない口……。


この日岡野は過去へと転生し、そして二度目の同じ世界を歩む。


そして、これは誰も予想できなかった世界へと変革する。


未来の出来事を全て経験し、過去の今、唯一魔法が使える岡野が、現代では日本の天皇しかいない’’皇帝’’へと、そしてさらなる先の存在になっていく。そんな物語。

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