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第七話
ドラゴンについていくと、周りの木より二つ分大きい木
の前に小さな花が風にそよそよと揺られていた。
色や形が覚えていたものと少し違うが間違いない。
ルドアの探していた“春”だ。
声が聞こえない。花の色もついているのがやっとなほど
弱りきっていた。
咲いているのが不思議なほど、花は風に揺られる
だけだった。
「命が安定しないのか……」
ルドアが花をよく見ようとしゃがみ込むと、まるで
見ていたかのように強い風が花びらを散らして花
を枯らしてしまった。
【間に合ってよかった。巡る者の半身よ、春は谷を越えて
新しい命に変わるだろう】
ドラゴンは花の最後を見届けるのが役目だったと短い花
の一生を守り通して、誇らしげに語り若い咆哮を産声より
久しく上げて、広い空へと羽ばたいて行った……。
残されたルドアは花びらが飛んで行った方向へ、
その先にあるであろう谷へと歩くのだった。