第四話
朝。まだ時間が早いせいか外は霧が出て空は白い。
ルドアは目を覚ますと身支度を整えて部屋を出た。
階段を降りると酒場の女将が朝早くからカウンターに立っていた。
「坊や。よく眠れたかい?」
ふくよかでどっしりとした、料理が美味しくなるような女将だ。
「あんた。まだ朝早いんじゃないかい?なんだってそんなに早く起きる必要があるんだい」
と女将は続けてこう言った。
「おはようございます!女将さん、昨日のサンドイッチありがとうございます。」
ルドアはとりあえずお礼を言った。
すると女将は。
「いいってことよ。けど、育ち盛りがサンドイッチ二つだけじゃ足りなかったんじゃないかい?」
と言っておにぎりを4個(それも、大人の拳くらいの)ルドアに渡してくれた。
歩いている途中で、木の実や動物を捕まえて食べればなんとかなると思っていたルドアには嬉しいものだった。
「ありがとうございます。女将さんおいくらですか?」
「いいんだよぉ!こういうのは素直に受け取るものさ!!」
と豪快に笑われてしまった。何がおかしいのかさっぱりわからない。が笑われて嫌な気にはならなかった。
ルドアはほっと肩の力を抜いた。自分の自覚してないところで気を張っていたようだ。そんなつもりはこれっぽっちもなかったのに。
もう一度女将にお礼を言って酒場バルドーラを出ていった。
たった一晩、たったの数時間しかいなかったのに声を掛けてくれ、更にはお弁当まで貰ってしまった。
あの酒場は楽しい酒場だった。酒が飲めたらもっと楽しめるのかもしれない。そう思わせるものがほんの少ししかいなかったルドアにも伝わってきた。
気を引き締め直して森へ向かう。彼の歩いた後には、体が暖かくなる程の何かが、残り香のように残されていった。
彼は知らず。街の人々も彼のものだとは知らず。知っているのはそよ風のみ。
あやしの森
噂ばかりが流れて、本当のことは誰も知らない。
ドラゴンが棲むこと。何かがあるということ。
それは珍しい宝かもしれないし、大したことはないのかもしれない。
入ったものは何故か帰らない。
欲の多い人間ばかりが森に向かっていく。