プロローグ
寒く厳しい冬を過ごし、やがて春が訪れる。
木の葉は新しい葉をつけはじめ、雪の溶けた地面からは小さな芽が。
冬の間眠っていた生き物達も目を覚まして、南へ飛んだ鳥たちも森へ帰る。
春が冷たい風を連れている。
花が咲くにはまだ早い。けれど深い森の奥に、小さな花が一輪だけ。
赤い実のなる、大きな木のちょうど真下に咲いていた。
『可愛くて綺麗な花。まるで、桜の花びらのようだわ』
しゃべるはずのない木がサワサワと楽しそうに花を愛でている。
グワッグワッグワッ グワッグワッグワッ
と空から聞き慣れない鳴き声が。
木はサワサワと小さく葉を振るわせた。秋まで来ていた歌声の綺麗な鳥達とは
違う鳥のようだ。くちばしは黄色くて、
身体が黒くて大きい。翼も大きくて、足の爪も鋭くて黄く……。
グワッグワッグワッ
勢いよく下降してきた!?
『きゃー!来ないで!!』と木は一生懸命サワサワした。
もう駄目だと思った。木は自分の枝があの鋭い爪に折られてしまうんじゃないかと思った。
鋭い爪を持った大きな鳥は木の枝に止まることはなく、小さな花のすぐそばに降りて来た。
木はほっと一息ついた。けれど、今度は小さな花が心配だ。木はハラハラとした気持ちで大きな鳥と小さな花の様子を見ていることしか出来ない。
大きな鳥はジッと小さな花を見つめる。ジッとして動かない。
太陽が真上に来ても、だんだんと傾きかけて来ても、動かない。
見つめている。
やがて、太陽がオレンジ色に光りながら沈み始める。もうすぐ月が顔を出す。
大きな鳥は太陽が完全に沈み込む前にやっと動きだし、月の光り始める薄く暗い空へと
飛び去って行った。
木の心配は要らなかったようだ。
大きな鳥が居たところは何故か暖かい空気が流れていた。