模索
その後、どのようにして部屋に戻ったのかわからない。意識がないというか意識しようとしていなかったのか、とにかく記憶があまりにも曖昧だった。あんな話をされたらそりゃそうなるか。あれは実に青天の霹靂であった。なんで急に葵が出てくるんだ、、、
「夕ご飯食べないの?」
聞こえてくる母の声がこもっているように聞こえた。
「いや、今はいい。」
「じゃあ、机の上に置いとくね。お腹がすいたら自分で温めておいてね。お母さん先寝るから。」
「はーい。」
空腹を忘れるくらいにまで考えたが、なぜ智晴と恵が葵とこんなにまで親しくられたか、結論は出せなかった。別に悔しくはない。俺に何かを隠してるとか、そんなことはどうでもいい。ただ、言葉にできない漠然とした意識が体を包んでいった。
「おにいちゃーん、お風呂できたよー。」
もうこんな時間になってたのか。
「はーい。」
階段を下りると、リビングにはバスタオルで身を纏った真依が立ってテレビを見ていた。風呂上がりのようで、体から湯気が出ている。身長は年齢にしては高いが、その膨らみのない胸元はいつになったら成長を始めてくれるのか。
「何見てんだよ。」
気づかれたか。まあいい、ここは正直に言ってやろう。
「いや、その貧相な胸を。」
「うるさい死ね、さっさと風呂入れ、クズ。」
「分かりました。」
結構気にしてるらしいです。
冷え性のせいか、足先だけが暑い。
「どうしてだよ、、、」
やっぱり考えるのがやめられなかった。止めどなく俺の脳裏を横切るのはいったい何なのかが知りたい。答えを導き出せる式があれば楽なんだけどな。こういう模範解答のない設問にはめっぽう弱いく、国語のテストでは一回も一位を取ったことがない。暗闇の先に手を伸ばし闇雲に答えという答えを探る。嫌いではないがやっぱり苦手だ。
考えるのは好きだ。だけど行き着く先の大抵が間違えで、どう足掻いても一般人の考えにたどり着けない。それが今、目の前に突き付けられている、というより形のない自分が押し付けてくる。
「やっぱ深追いするのはやめておこう。」
それが俺の答えだ。
翌日、珍しく智晴より早く起きた俺は朝食と身支度を済ませ、コーヒーを片手にソファに座ってインターホンが鳴るのを待った。テレビをつけると、同じように今日も残念なニュースが流れていた。大人たちはいつになったら大人になれるのか。いつになっても無理そうだ。
ピンポーン
インターホンと同時にドアが開く音がした。
「お、今日は早いねー。」
「たまにはいいでしょ。」
「なんかあったのか。」
「いやなにも。寧ろ何もないから早起きをした。」
「なるほどね。お前らしいな。」
微妙に口角が上がってる笑顔を見せつけてくる。
「人生何かあったほうが楽しいぞ。」
「そうかもしれないね。」
「いこうか。」
通学中は夏休みの話題で持ち切りだった。どこに行くかははっきり決まっていないが、海と山と両方楽しみたいということで、キャンプとどっかの海に行くことにした。俺にも行きたいところが何か所かあった。俺はかなりの温泉マニアで、休みになるたびに温泉に出かける。もちろん一人で。だが、流石に真夏日に奴らを温泉に入るのには抵抗があった。特に今年は数年に一度の猛暑だと聞いた。毎年聞く表現で、耳に胼胝ができる。正直ある程度暑くなると実際どれくらい暑いのか関係なくなるっていう。そして個人的には雪の露天風呂が好きだからね。
放課後は恵みも混ざり、ある程度の形が見えてきた。
高校初めての夏、充実したものになりそうだ。