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それでも君は  作者: コシさん
6/9

好機

「あいつは今日も朝練か。」

「そうらしいね。大会が近いとかなんとか。」

「俺たちの吹部って他と競えるほど強かったっけ。」

「県大会で一回も金を取ったことがない気がする。」

「あいつはよっぽど吹くのが好きなんだな。」

 恵は中学の時からトロンボーンを続けている。評判通り、中三の時に一回だけ聞いたがなかなかうまかった。優しい温かみのある音で、この高校の吹部にはもったいないくらいだ。

「だな、、、」


 教室に着くなり俺の席の周りの人だかりが目に入ってきた。正確には葵の席なのだが、その中には誠治と彼の友達の望典、萌夏、沙月もいた。

 少しばかり緊張していたが、気持ちを改め自分の席に足を運んだ。近づくにつれ人々は散っていき、とうとう俺の周りには葵しかいなくなった。もう時間か、話すのは後にしよう。

 ちなみに俺と彼女の最初の会話は席替えが終わった時の挨拶で、そこからは発展せずに終わってしまった。俺は童貞か。ああ、そうだ、文句あんのか。


 ガッシャーン

「おはよう皆の衆。」

「おはようございます。」

 また来たよこの人。もう一回ドア壊してるんだから少しくらい自分を省みてくれないかな。

「一学期の期末テストまでそう遠くはない。各自しっかりと準備をするように。課題の提出を遅れた者はトイレ掃除に配属する。」

「はい。」

「これは君たちの一回目の試験である。過度な緊張は無用だが散漫になるな。今年から学年成績優秀者上位20人は廊下に張り出されるから私にあまり恥をかかせないように。」

「はい。」

 あまり圧力をかけてくんなよ、という顔がちらほら窺える。俺はというと、昨日の夜、席替えのことで寝ようにも寝られず、暇つぶしとして問題集を進めたので七割方終わってる。おかげさまで今日は深刻な寝不足となった。絶え間なく襲ってくる睡魔と奮闘しながらの一日になるのを想像すると、頭が痛くなってくる。

 期末テストの話なんかどうでもいい。これからどう葵に接すればいいのかが一番の課題だ。会話がなければ何も始まらないことは解っている。残念なことに俺はあまり人付き合いが得意ではない。あとで智晴に相談、、、はやめて、自分で考えるか。

「以上だ。」

 途端に教室が騒々しくなり、俺は一時間目の数学の支度をする。

数学担当の大原先生は50代、サバンナ頭皮の持ち主。教頭に次ぐ禿で生徒のみならず、先生たちからもいじられる人気者だ。おっとりとした性格だが石山先生同様、かなりの声量がある。

 授業開始のチャイムが鳴った。だが誰一人席に着こうという気配はない。遅れ約5分が彼の平常運転だ。

「はーい、席に就けー。」

 来た。

「えっと、そこの君が新入生の富田葵さんかね。」

「はい、そうです。」

「教科書のコピーを忘れたから隣から貸してもらってくれる。」

「はい。」


 見逃すわけにはいかない。これはチャンスだ。


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