偽造
こんなに学校に行きたくないと思ったのは小学校以来かもしれない。いや、行きたくないというよりどういう風にいけばいいのか俺にはわからないのだ。昨日の席替えで良くも悪くも葵の隣になった俺は、果てのない迷宮に迷い込んだかのように自分の本心を探っていた。
ピンポーン
今日もインターホンが鳴った。雨はまだ続いているみたい。
「入ってて。」
「うっす。」
ドアが開いたのが聞こえ、俺は朝の支度に移った。昨日と違い、今日はやけに体が硬いように感じた。
朝ごはんはもう作ってあるみたいで、智晴がソファに座って先に俺の朝食を頂いていた。
「そういえば昨日お前のクラスに転入生がきたらしいな。」
「うん。」
「結構かわいいらしいな。」
「うん。」
「早速誠治たちが葵を夕飯に誘ってたぞ。」
「うん。」
なんだこいつ。
「どうする?」
「うん、、、いや、どうもしないよ。」
「変わんないね、、、」
「そうか。」
静けさに消えるような智晴の声は、なんだか寂しさ以外の感情が帯びていた気がした。表情は隠れて見えないが
自分の考えが露呈していることはわかってる。それでも偽の自分を演じないといけない、そうせざるを得ない、そうでもしないとこの社会に飲み込まれそうな気がした。
東の山脈から太陽が顔をのぞかせる。しっとりとした空気の中で蝉が共鳴を始めた。頭の奥で徘徊する甲高い音はいつまでも消えなかった。
「行こうか。」
「おう。」