転機
いつだろう、このような感情が消えたのか。
小学生の時のあの、全てが目新しく、一日がとても長かった日々。
それが今甦ったのがはっきりと分かった。
長い艶のある黒髪を淑やかにかき上げ、ほんのりと赤い耳が現れた。少し膨れた胸元に目を泳がせ、もし彼女が自分のものになったら、と妄想を繰り返す。自分の表情はどうなっているのかわからない。が、顔全体が火照っているのだけはわかった。
彼女に見とれていると目が合ってしまった。慌ててそらしたが、もう遅かったかもしれない。今の俺が彼女の目にどう映っているのかと想像すると熱が一層増してきた。
「えー、後ろのほうに席が空いているから、そこに座っといて。」
先生わかってるぅ。幸い席は隣にならなかった。
俺はヘタレか。
「あ、今日のSHRで席替えをすっからね。」
また歓声が沸き起こった、、、。
期待というか不安というか、何か得体のしれない感情が頭上を徘徊した。
学校の終わりを告げるチャイムが学校中に響き渡った。
確か初詣の時に引いたおみくじは中吉だったな。まだ続いてんのかな。
そんなことを考えながら少し背伸びをする。緊張から解き放たれた感じの骨の音が何回かした。予感というものはとても不思議で、こんなにも人生ってうまく組まれているのかと何度も思った。この現象に名前が付けられているのなら、ぜひ教えていただきたい。
少し長めの深呼吸。今までに感じたことのない新鮮な空気と仄かなオレンジの香りがそっと添えられているような感じがして、なんだか居た堪れない。
灰色の人生を送ってきた俺に思わぬ転折が訪れたのかもしれない。
新たな人生の道を開拓する準備ができないまま、俺は帰路に就いた。




