謎の男
…謎の男…
ツンツン……ツンツン……
「意識飛んでるわね」
「飛んでいますね、レリア姫」
馬車の中、人族の男は気絶している。
多分、アレをくらったから、すぐには起きないだろう。
「ソレーヌ、二人きりの時はレリアと呼んで」
「それは無理ですよ、お嬢様」
ソレーヌは、私担当のメイドだ。
かれこれ長い付き合いになる。
「仕方がないわね」
私はそう言って、そこで伸びている人族の男を見た。
確か、スズキと言っていた。
珍しい、聞いたことがない名前だ。
「お嬢様、この聖アドリーナ皇国のスパイと疑われてた、この人族の男連れてきてよかったのですか?」
「多分、この男はスパイではないのでしょう」
「なぜそう思ったのですか? お嬢様」
ソレーヌは不思議そうに聞いてくる。
「はじめに目立つ奇妙な服を着てますし、それにこの国にスパイとして来るのに、エルフかどうか判断できないのは、致命的だと思われるわ」
私の予想を聞いてソレーヌは頷いた。
「確かにそうですね、ではこの男は何者なのでしょう?」
ソレーヌはそう言うと、少し考え込むような顔をする。
う~んとうなった後ソレーヌはこう言った。
「行商人ですかね」
行商人? と私は不思議に思った。
「ソレーヌ、どうしてそう思ったの?」
「この男の持っているその荷物入れ、限界まで物が入っているように見えます」
確かにソレーヌの言うとおり、荷物入れはパンパンに膨らんでいる。
「これは売り物ではないのでしょうか?」
「なるほど、でもそれだとここがどこだか、わかっていないとおかしいわ」
「確かに、そうですね……」
ソレーヌは眉間にシワを寄せた。
でもすぐに何かを閃いたようだ。
「お嬢様みたいに、お忍びでいらしてる貴族とかどうですか?」
「なぜ貴族だと思ったの?」
ソレーヌは楽しそうに話す。
「まず初めにですね、この高級そうで素材の分からない目立つ服や靴。次に一般的な馬車に乗り慣れていないこと、特製の馬車でも持っているのでしょう。最後に相手が姫だと知っても、敬語を使わなかったこと。平民ならたどたどしくとも敬語を使うはずです。どうですか?お嬢様」
私は手厳しく答えた。
「その説でも、初めに言った問題は解決できていないわ。それに、貴族のお忍びなら護衛がいないのはおかしいし……でも、新たな問題に気づけたわ。ありがとうソレーヌ」
ソレーヌはバツが悪そうに言う。
「いえ、結局こいつが何者なのかわかりませんでしたし……」
「起きたら聞いてみましょう」
多分、町に着くまで起きそうにないが……
「お嬢様」
ソレーヌが深刻そうな顔をして聞いてきた。
「もう一つ質問があるのですが、なぜこのスズキという人族を連れてきたのですか」
初の主人公以外の視点です。




